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夢のような  作者: pipi
6/20

1-5 知らない人から食べ物を貰ってはいけません。




ブティックを後にした私は、てっきりオーラル家に戻るのかと思っていた。

しかしながら、クレア様が笑顔でこう言ったのである。



「せっかくだから、最近話題になっているレストランに案内するよ。」


とても案内をしたがるクレア様の提案によりーーー勿論、それを丁寧に辞退しようとしたが、例の有無を言わせない笑顔により私はクレア様に従うしかなかったーーー次は、レストランに行くこととなった。


そのレストランは、これもまた上品でおしゃれな外観である。外観の時点で、またもや場違いな気持ちになるため、入るのを躊躇った。


中に入ると、落ち着く空間でとてもラグジュアリーな雰囲気である。素敵なレストランだ。


周りを見ると、ちらほらとご令嬢が座っていらっしゃり、チラリと此方を見た。

そして、クレア様をじっと見ては、ひっそりと話されている。


視線が集まるなか、全く気にした様子のないクレア様にエスコートされるまま、私は席についた。



「ここは、チェリーパイが人気なんだ。チェリーパイは食べられる?」


「はい。」


「じゃあ、それと……そうだな、紅茶をくれ。」


私は何も頼まないだろうと思ったのか、クレア様が私の分まで注文をする。

緊張でお腹はあまりすいていなかったのだが、呼び止める暇もなく、お店の方は行ってしまった。



そのチェリーパイがくるまでの間、人目がある空間でクレア様と二人で話すのも躊躇われた為、私はトイレに籠った。


「はぁ、トイレも上品……。空間が有り余っていて、落ち着かない。」


別にトイレに行きたい訳でもなかったが、私は通常の二倍ほどゆっくりと行動し、時間を稼いだ。いっそ、お腹が痛いのだと思われても構わない。


ゆっくりとトイレで時間を潰し、戻った時には、ちょうどチェリーパイと紅茶がテーブルの上に用意されていた。



「遅くなってしまい、申し訳ございません。」


確信犯であるが、しおらしく謝っておく。

クレア様もさすがに女性のトイレにまでは詮索せずに、チェリーパイを食べ始めた。


ほんのり温かく、口に入れてみると、甘みと酸味がふんわりと広がる。そして、サクサクとしたパイの食感。

控え目に言って、最高。

こんなレストランもクレア様に無理矢理連れて行かれない限り、行かなかっただろう。

このチェリーパイを食べれたことには、クレア様に感謝の念が生まれる。



「アイは良いメイドだ。」


「いえ、滅相もございません。」


「いや、本当のことを言ったまでだよ。ブティックで自分のではなく、レイティ夫人の産まれてくる子供のためになんて、ヘンリー様が知ったら、きっと自慢の一つとして語るだろう。」


「恐縮ですわ。」


クレア様に褒められるのも、チェリーパイのせいか、少し嬉しくなってしまった。

最初はクレア様に苛立ちすら感じてしまった案内だが、結果としては、とても良い経験ができたのだと思う。


嬉しさを感じながら、私とクレア様はレストランを後にした。




「じゃあ、オーラル伯爵家に戻ろう。」


「はい。」


ようやく、家に戻れることに安心したのだろうか。


私は馬車に乗ってから、急に睡魔に襲われた。

いけない、クレア様の前で寝るなんて。


しかし、強い睡魔に、だんだんと負けてしまう。

はっとした時には、クレア様は此方を見て苦笑していた。



「寝ても大丈夫だ。着いたら、起こそう。」


「い、いえ。クレア様にそのような真似をさせる訳にはいきませんので。」


「今日は色々と案内してしまったから、慣れない場所で疲れてしまったのだろう。」


クレア様と話している状態でも眠い。

必死に睡魔と闘いながら、私は考える。

たしかに慣れない場所にいたことで疲れてしまったのかもしれない。けれど、普段は昼間に眠くなることは少ないのだ。

そう、なんだか不自然に感じる。この強い睡魔に。


「普段こんなに眠くなることは無いのですが……、なんでかしら。」


目が重くなる。

起きていなければと思うのに、どんどん眠さが強くなってしまう。

ついには、話すことさえも覚束無くなる。


最後の力でクレア様の方を見ると、クレア様は笑っていた。




そして、私は眠ってしまったのである。






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