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夢のような  作者: pipi
4/20

1-3 それなりが大事だと思います。




初めて乗る馬車は、ふかふかだった。

到底、メイドの私には一生無縁の乗り物である……筈だった。


目の前には、クレア様。

浮かべている笑顔から、何故か妙な迫力と、監視されているような感覚になる。


私は普段着に着替え、クレア様と共に馬車に乗るという、なんとも目眩が起こりそうな展開を迎えている。



勇気を振り絞り、なんとか家に帰ろうと私は喋る。


「クレア様、本当に、私なんかがブティックに行ってしまって宜しいのでしょうか?メイドの私などが行ってしまうのは、お店の方に申し訳ないのです。」


「あぁ、心配しなくていい。ブティックは私の仕事関係でもあるし、貴女がいることにいちいち文句を言うような人はいないから。」



はい、玉砕。

苛々してしまい、大きなお世話だよ早く帰せこの野郎とか言いたくなってきたけれど、そんな事を私が言えるわけない。言ったら最後。運が悪ければ死ぬ。普通に無職になる。


沈黙となった空間に、私は頭を抱えたくなる。


どうして、こんなことになったのか。私は普通にメイドとして、働ければいいのに。変にクレア様に御礼と言う名のプレゼントを貰ってしまうと、主に人間関係で困ってしまう。

メイドには、あわよくば貴族と結婚するという野望を持った人もいるため、私が今されている行為は、その人からすると、何抜け駆けしてるんだ!と思われてしまう。

しかも、今をときめく大商人、お金持ちのクレア様。ここまでの事をされてしまうと、嫉妬や嫌味を言ってくる人もいるかもしれないから、気が重い。


まぁ、これで終わりと思って、いらない御礼を受け取りましょうか。

そう考え直して、窓からの風景を楽しんだ。




窓から見える景色は、いつもよりも高い位置からの視点だった。


その光景から、私は日本にいた頃のーーーバスに乗っている記憶が蘇った。

もう、日本に戻れなくなって五年ほど経つ。あの頃を思い出すと、いつも胸が切なくなる。

家族は……今、どうしているんだろうか。


私は、ぼんやりと窓からの風景を眺めながら、自分が生まれ育ったあの世界に、思いを馳せた。



「馬車に乗るのは初めてかい?」


「はい。」


「そうか。」


じっと窓を見ていたのが良くなかったのだろうか。

クレア様は、ふっと笑った。おそらく、初めて馬車を乗って、感動しているとでも思っているのだろう。


「ヘンリー様から聞いた話によると、君はもう三年も働いているそうだね。ペンダントの話をした時も、真面目なアイらしいと言っていた。」


「はい、三年間仕えております。」


「一人で探させてしまったけど、苦労させてしまったかな?」


「いえ、比較的すぐ見つかりましたので、苦労はしておりません。気にする必要はありませんわ。」


「そうか。」



にっこり。


……なんだろう、クレア様の笑顔、胡散臭い……。


馬車のなかは、中々に緊張感がある空間だった。






ブティックに入る時は、さすがに少し心がうきうきしてしまった。

でも、許してほしい。五年前から私はおしゃれを一切出来なくなり、ブティックなど貴族やお金持ちしか行けない所には入ることすらも出来ない。

此処でのブティックは、身分や見た目で入れるか否かが分けられるのであり、お客様は神様ではないのだ。

だからこそ、メイドのみでは入れない場所であり、ヘンリー様は「良い経験」と言ったのであろう。


隣にいるクレア様さえいなかったら、私は絶対に入れない。


普段着の中でも一番ちゃんとしたワンピースにしたのだが、それでも警備員の視線には、冷たいものがあった。



「私の連れなんだ。入れさせてもらえないと困るな。」


「はっ。」


警備員が店内に入ることを許し、私はクレア様の後を歩いた。そして、中に入った瞬間、私は後悔した。



「いらっしゃいませ、あら!クレア様、ご来店ありがとうございます。」


美しい女性。見るからに上品で、洋服が綺麗なこと。というか、顔が美人だし、スタイルも良い、完璧な美人様である。


店内は美しい装飾、ゆったりと座れるソファーに、テーブル。


まるで、異世界のような、美しく完成された空間に、私は自分がそのような場所にいるのが酷く場違いだとすぐに気がついた。



「彼女はアイと言って、オーラル伯爵のメイドだ。私の恩人でもあり、是非彼女に似合うものを見繕ってほしい。」


そうこうしていると、クレア様がさらっと爆弾発言をしたので、私はまた頭が真っ白になった。


「まぁ!勿論よ、ささ、いらっしゃい!」


頭がパンクし、動けなくなっているまま、言われるがままに美人様に腕を引かれて、私は奥の方へと案内されてしまう。

助けを求めるように、クレア様を見ると、彼は最高の笑顔で私に手を振り、勿論助けてはくれなかった。






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