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夢のような  作者: pipi
2/20

1-1 こうなるんだったら親切にしなきゃ良かった。




「ねぇ、アイ!」


春の優しい風が吹いている今日この頃。


同僚のサニーがにまにまとしながら、近寄ってきた。

ちょっと嫌な予感。



「何?言っておくけど、仕事を交代とか言わないでよ?」


「そんなことじゃないって!ちょっと!いつの間に良い人見つけてたのぉ!?アイと会いたいって言う人が裏口にいるわよ!私、アイはどこにいるんですかって話しかけられちゃった!」


「痛い!」



背中を思いっきり叩かれて、思わずむせそうになった。

私に会いたい?何かの人違いなの?

しかし、タイミングが悪いことに、今はメイド達の昼食時。

あっという間に、話が皆に伝わってしまった。


「ちょっとアイ~?」

「誰々?」

「話してよね?」

「こないだ結婚は諦めたって言ってたのに!」

「てことは、遊び?」

「きゃ~!アイったらダメよ~!」


「ちょっと待って。」


こんな所にこんなタイミングで言い出したサニーをじっと睨みながら、周りを黙らせた。


「まっっったく、心当たりがないわ。人違いしてるみたいだから、誤解を解かないと。」


一語一句しっかり言うが、サニーはまだにやにやしている。


「相手はクレア様よ。」


この一言で、黙らせていた周りがきゃあと歓声をあげる。


「ちょっとちょっと!クレア様ですって!」

「玉の輿じゃない!」

「いいなぁ……。」

「クレア様って、アイがタイプだったんだ!」

「うん、まぁ合格かな。」

「何言ってるの、変にお金ない貴族よりも良い暮らしできるわよ!」




………………もう何も言うまい。


サニーがケラケラ笑っているのを、私はたしかに見た。



クレア様は、父親が財を成した商人の方である。

なかなかの敏腕商人らしく、最近我が家ーーーつまり、オーラル家にも出入りしているため、接点があると言えばあるのだ。

さらに、困ったことに、先日ある出来事がクレア様との間にあった訳で……人違いではないかもしれないのだ。

しかし、同僚達が騒いでいるような話ではないだろう。

きっと、あの時の御礼あたりだろう。うん、そうだ。



「とにかく、裏口にいるのね。ちょっと行ってこないと。」


「行ってらっしゃ~い!遅れてもメイド長には上手く言っておくから、安心して!」


「………………。」


すぐ戻るって。

そう思ったが、サニーを始め、皆がにやにやしながら見送るので、無言を貫いた。

後で、何があったかをちゃんと話して、誤解を解かないと……。









「クレア様、お待たせ致しました。」


裏口に出て、すぐの所にクレア様が本当にいた。

礼をすると、クレア様は少し慌てた様子だった。


「いや、急にこちらこそ悪い。ちょうど此処を通りかかって、そういえばと思って寄ってみたんだ。」


「はい。」


「先日は、どうもありがとう。おかげで、助かった。」


「いいえ、御礼を頂くほどの事でもございませんから。」



そう、先日。

オーラル家の御当主であるヘンリー様と商談をされたクレア様が、庭で何故かしゃがみ込んでいた。

おそるおそる伺うと、どうも大事にしていたペンダントが無くなってしまったらしい。

馬車に乗っている時は付けていたから、おそらく馬車から出て、ヘンリー様までの部屋に着くまでに落としたのだろうと言った。

そのため、私は他のメイドにも伝えてペンダントを探そうとしたのだが、あまり大事にしたくないらしく、言わないでほしいと言われた。

その結果、ひそかに私一人で探すことになった。

探し物は意外と早く見つかり、クレア様が帰られた後、私一人で三十分ほど探したらペンダントが見つかった。


そして、それを数日後、クレア様に渡し、無事にこの件は終わった。



「それで、ペンダントを渡してもらった時に聞きそびれた事があって。」


クレア様が少し言いづらそうにする。本題はこれか。


「はい。」


「ペンダントの中身を見た?」


「いえ、見ておりません。」



変な間ができた。

クレア様は、じっとこちらを見る。視線が痛い。


「……本当に?」


「ええ。」


「君の名誉にかけても?」


「はい。」


しつこい。

なんだこれ、しつこい。


名誉にかけて、というのはアルペジオ王国では一般的な言い回しである。

アルペジオ王国の民は名誉を大切にする。

私の場合は、メイド。社会的、家柄の全てをかけても嘘を言っていません、という誓いでもある。

つまり、この問いかけに対して、嘘をつく人はよっぽどの嘘つきか、それを捨ててでも隠したいという事になる。


つまり、私はペンダントに、名誉をかけて中を見ていないかと、重く詰問をされている。



「私はオーラル伯爵家のメイドでございますから、ペンダントの中を見るといった、デリカシーに欠ける無礼な事は致しません。」


丁重に無実を伝えると、クレア様がほっと顔を緩めた。


「こんな聞き方をして申し訳なかった。中を見られたくなったんだ。やっと聞けたことだし、もう失礼するよ。」


「はい。」


礼をする。

そして、しばらくしてから、ゆっくりと顔を上げた時には、クレア様はいなかった。





「ふぅ、」


予想外の問い詰めに、ため息がでる。

誰よ、玉の輿だの何だのと。良い雰囲気どころか、こっちは詰問までされて。


……でも、なんでペンダントの中にこだわっているのか。

わざわざ、通りすがりにオーラル家に来て、私にペンダントの中を見たか聞くなんて。

探してるってことは大事なのは分かるけど、なんだか怪しい。

まぁ、メイドがやたら気にすることでもないし、気にしてはいけないだろう。


それにしても、こんな事になるんだったら、あの時声なんてかけなきゃ良かった。

もう、関わることもないでしょう。





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