2-4 口は災いのもと。
私とクレア様の噂が広まってからは、だんだんとメイド部屋の幽霊の噂は、誰も気にしないようになった。
クレア様との噂がメイドの中で有名になり、幽霊の存在が小さくなったのだ。
毒を制するのは毒であると、私は改めて納得した。
その分、何かを含む目線を頂くことが多くなったのは困っている。私がクレア様との仲を否定してもニヤニヤとされるだけなので、効果的な対処法はない。
個人的な損害もあるが、ついこないだまであった夜の異様な緊張感はほぼ無くなっており、前の普段通りになった。
そのため、レイチェル、バネッタ、リリーの三人も今まで通りに行動するようになった。
私は疑惑を確かめる為に、バネッタの後をひっそりと追いかけてみた。
夜は皆寝静まっているので、静かである。意識すると、足音はわりと聞こえやすい。
足音がして、階段を降りていく音が聞こえたので、私はトイレに行くフリをして追いかけた。
すると、バネッタはメイド部屋の下の階にある、小さいリビングルームで本を読んでいた。
背中だけしか見えないが、たしかに本を読んでいるのは分かった。
「……。」
息を潜めながらそれを見て、音を立てないように戻った。
しばらくして、また足音がしたので扉からこっそり覗くと、バネッタが歩いていた。
手には本。
ルームウェアの上にストールも何も羽織っていない。
どう考えても、あの格好で外に出るとは思えない。
今回だけで言えば、誰かとこっそり会ってはいないようだ。
……たぶん、バネッタは本当に本を読んでいるだけだと思う。
まだ、今回しか監視していないが、私はなんとなくそう思った。
ーーーとなると、レイチェルかリリー?
バネッタを監視した次の日、私とローランドはまた空き部屋でこっそりと話していた。
「マックスの件ですが、本当に二股をしているようです。本人は隠していますが、仲の親しい者が二股をしていると証言しました。」
「そうですか。」
そんな最低な人だったなんて…。少し怒りを感じてしまった。
同じ家のしかも、同じメイドなんて!
レイチェルが知ったら、どんなに悲しむことか。
「では、レイチェルとリリーは、本当にマックスに会っているということになりますね。
私からは、バネッタについてですが、昨夜に本を読んでいる姿を確認しました。実際に本をリビングで読んでいただけです。
それ以外は、ラフォード侯爵家についても全く情報がありませんし、怪しい行動をしているメイドも見当たりません。」
「中々見付かりませんね。マックスの件は本当にただの三角関係のようですし、バネッタも不審な行動をしている訳でもありませんから。……では、また都合の良いときに報告をお願いします。」
「はい。」
部屋から一人一人、時間を空けて出ていく。
ちょっと前までは、三人とも怪しいと思ったけれど、今は全員の疑いが薄くなった。
まだ完全に疑いが晴れていないが、バネッタは本を読みたいだけみたいだし、レイチェルとリリー、そしてマックスの三角関係も本当のようだ。
じゃあ、誰がスパイなのだろう。
私は、また一からスパイ捜索を行わなければならないようだ。
その日の夕方、私は夕食の準備を行っていた。
その時、窓からレイチェルとリリーが二人で話しながら、歩いていた。
ーーーあぁ、ゴミを捨てに行っているのね。
テーブルの準備をしながら、つい私は二人を目で追ってしまう。
「すごいわよね、レイチェルとリリー。」
一緒に準備をしていたメイドからそう言われて、私ははっとする。
仕事中なのに、つい二人を眺めてしまった。
「あ、ごめんなさい。」
慌てて視線を戻し、テーブルの準備を進める。
リリーは、同室のレイチェルがマックスと付き合っていることを了解した上で、マックスと付き合っているし、レイチェルとも仲が良い。
レイチェルは、マックスは自分だけと付き合っていると思っていて、リリーのことは普通に友達だと思っている。
なんだか、レイチェルが可哀想だと思ってしまう。自分の恋人が友達と浮気をしているだなんて。リリーも意外と大胆なのね。
でも、私から言うのもどうなのかしら…。多分、余計なお節介をしない方が良いのだろう。
「私だったら、同じメイドと二股してる男となんて付き合わないけど。本当にすごいわよねぇ。」
一緒に準備をしている子がポツリと呟いた言葉に、私は思わず手を止めてしまった。
ーーー二股してる男?
「え?知っているの?」
私はナタリーからマックスとリリーが付き合っている事を知っている。しかし、これはメイドの中では、私しか知らないはずだ。
すると、笑いながら答えた。
「知ってるわ、ナタリーが言ってたの。ほら、同室のナタリーってお喋りだから。たぶん、レイチェルもマックスの浮気を知ってるわよ。」
あ、フォークが足りない。そう言って、キッチンへと取りに言ってしまった。
『秘密にしてあげてね。』
そう言ったナタリーの顔が思い浮かぶ。
…………ナタリーって、随分とお喋りなのね…。




