季節は冬、春はまだやってきそうにない。
初めて書いた短編の小説です。少しでも共感してもらえたり、甘酸っぱい気持ちになってもらえればいいなと思っています。
12月独特の空気が町に染み渡っている。クリスマス前のすこし浮足立つような期待と、一年の終わりが間近に迫る人々の焦燥感。かじかんだ手が冬の訪れを強く感じさせた。カフェラテを一口飲んでゆっくりとカップを置く。窓の外にはおそろいのマフラーなんてしてるイターイ男女が手をつないで歩いている。別に羨ましいとかそういうんじゃない。あほらしいなと思いつつ、やっぱりちょっと羨ましい。あの人たちは、自分を好きでいてくれて大事にしてくれる人に出会えたのね、はいはい、めでたしめでたし。手元のカップに目線を落とした。私はこれからも、ああいう浮ついたこととは関わりのない人生を送っていくのだ。いままで何人か人を好きになって、何人か好きになってくれたけど、自分の思うようにいったことなんて一度もなかった。私はそっち側の人間じゃない。最初で最後に付き合ったのは中学生のとき。彼氏っていう存在が欲しかっただけ。あの人だってきっと私のこと本気で好きじゃなかったんだろう。いつもこんな消極的な考えが頭に浮かぶ。自分ばっかり好きで傷つくのは本当に怖いしつらい。あんな思いはもうしたくない。あなたのことを好きになって本当によかった。そんな風に都合よく考えられる人はきっと、自分に自信がある人だ。彼氏が何年もいなくても焦らない人だってそう。私には男なんて必要ないって思ってる、もしくは自分はそんなに焦らなくてもいつかはできると自分を信じられてる人。私にはあいにくそんな自信もない。いいなあと思った人がいても、その人が私のこと好きになってくれるわけがない。いつからか諦める癖がついていた。だっていつまでも頑張り続けるのって辛いでしょ?脈なしなのに期待して、少しの言葉で舞い上がって、そんなのって本当に馬鹿みたい。
大学生になってから二回バイトを辞めた。一つ目は近所のカフェで、二つ目は近所のスーパー。どちらも自分に合わなかったから、適当な理由を作ってたった三か月で辞めた。そして、次こそは長く続けようと決意して3つ目のバイトを始めた。つい3か月前のことだった。ちょっと栄えた駅にある3階建てのスポーツクラブ。別に出会いを求めてたわけじゃないけど、アルバイトの人はみんなさわやかでスタイルがいい人ばかりだった。(特にインストラクターの後ろ姿はレベル違いにかっこいい。)最初は研修ばかりでなかなか先輩と話すことができなかったが、最近になってようやく現場で先輩と話せるようになった。暇な日は話してるだけで1時間ほど過ぎている。最高のバイトでしょ?慣れてきたのでシフトを週4にして日曜日も入るようになった。それから私にとって日曜日がいっちばん楽しみで仕方ない曜日になったのだ。わたしたち従業員は男女一人ずつ一時間に一回巡回しに行かなくてはならない。レンタルの靴を運んだり、モップがけをしたりなかなかに面倒なのだ。でも、いつからかその巡回が一週間の中で一番楽しみな時間になってしまった。普段働くエリアが違う人とは巡回でもないとなかなか会えない。だから君に会えるこの数分が心の底から楽しみだった。従業員しか入れないレンタルシューズ置き場で、私たちは毎週少しだけ話した。巡回以外で君に会えた時はかなりうれしかった。でもわかってる、君には彼女がいたから。君に出会ったときの淡い期待なんてもうとっくの昔に捨てている。またか。別に大して期待していたわけじゃないからいいよ。そりゃそうだよね、こんなにかっこよくて優しくて背が高くて、彼女いないわけないよね。たとえ彼女がいなかったとしても私みたいなブスがどうあがこうと結果は決まっていたはず。彼に好きな人がいることは大して辛くなかった。私はただ自分に自信がほしかった。あきらめている、そんなことを思ってても心のなかには1パーセントくらい期待してる自分がいた。なにも知らなかった自分が哀れで愚かで。君のせいで日曜は朝からそわそわして楽しみにしてたのにな。でも、君に彼女がいるって知ってからも日曜日の巡回はすごく楽しみにしてたし、実際楽しかった。仕事なんか放棄して、ずっと話してたかった。日曜日じゃなくたってきみがトレーニングしに来てないか、いつも君の姿を探した。何やってんだろ。いないことに気付くと同時に我に返る。いたらどうするんだ自分。二人に共通の話題なんてあんまりないし、わざわざ立ち話するほど親しい仲でもない。今日のバイトもひま。いつもシフトが被る3つ上の男の先輩と恋愛の話になった。
「おまえ彼氏作んないの?」
「いないです、そんな人。」
「バイト先で作ればいいじゃん。あれは、ユウキとかは?」
「杉崎さんは彼女いるじゃないですか。」
「え、もうわかれたよ?」
(・・・・・え。)
わかれたなんて全く知らなかった。振ったのかふられたのかも確認することはできなかったが、なんだか少し胃が宙に浮く感じがした。ユウキくん、今どんな気持なんだろう。傷ついてるかな?ていうか、振られたのだとしたらその元カノが理解できない。なぜふった・・・。
「いいじゃん、ユウキいい人だよ。おれがくっつけてやるよ。」
予測していなかった展開に私は思いっきり顔を赤くしてしまった。長年恋愛がうまくいってないと、こんな言葉だけでも赤くなってしまう。
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか、あはははは・・・。」
近くのファイルを手に取って、文字を眺める。それからの日々はまた少し違った輝き方をした。君のことがもっと知りたくなって、フェイスブックで検索かけてみたりもした。(でてこなかったけど。)期待しそうになる自分を必死に止めるのが大変だった。そんなことあるわけない、あるわけない。
「おお、巡回でよく会うな。」にかっと笑って歩いてくる君の笑顔が素敵すぎて、つい返事がぶっきらぼうになる。「そうですね。」自分の馬鹿。もっと可愛くいたいのに。すれ違っていく君の匂いとレンタルシューズの汗の匂い。季節は冬、春はまだやってきそうにない。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。あとがきって言われても小説を書いたことがないので何を書いていいのかわかりません。ただ私がこのストーリーを通して伝えたかったことは-・・・。
二つ上の先輩って遠すぎず近すぎずかっこよく見えるよね、ってことです。ありがとうございました。