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くーまんの実家。

 飛行機では肩がなんちゃらと言っていたくーまんだが、こんな問題は窓側席にくーまんを座らせて俺が隣に座れば解決する。そしてくーまんは作家だ。初の飛行機にインスピレーションが沸くのは性と言うもの。ここまで来る途中、端末に指先を躍らせていた。


 飛行機を降りて俺とくーまんが向かった先は、くーまんの実家。今現在いる場所は、カコーンと小気味の良い音が襖を通して聞こえてくる茶室。

 カコーンが庭園にあった【鹿威し】なのはこの部屋へくる前に確認しているからわかる。わかるのだが、


「くーまんはかなりのお嬢様だったんだな」

「偉大なご先祖様の恩恵は底なし。わたしと姉だけでは食い潰せない」

「蔵にはとんでもない財産が眠っているということか。是非、見聞を広げるために見学したいもんだな」


 家政婦らしき初老の女性に連れて来られたのは客間ではなく茶室なため、くーまんの両親とはここで対面するという事だろう。


 ——蔵には謝罪した後にでも……。


 娘が貫通されて帰ってきて、相手の男が蔵を見せろなんて言っても…………うん、無理だな。


 柿の木で天井を支えている茶室は、床の間に質素だが趣を感じる活け花と、水墨画で描かれたサンショウウオの掛け軸がある。

 張り替えたばかりの畳からは気持ちを落ち着かせてくれる和の香りがしてくるが、こんな微力なセラピー効果は今の俺には効かない。


 なんて女に手を出してしまったんだ!!


 という後悔は厳つい門構えを見た時に乗り越え、門から歩いて数十秒の御殿を見た時には、両親の怒りその全てを受け入れよう、そうだコーチング業を廃業して婿殿になろう、と人生を諦めた。


「失礼します」


 作法のように襖をスッと開いて入室してきたのは、着物姿の上品な女性。

 俺は崩していた足を正座に変え、姿勢を正して一礼する。くーまんの母親であろう女性を一瞥し、


「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 畳に額を擦り付けて全力の謝罪。


「あなたが……娘が毎日惚気ている遊ちゃんですかぁ」


 間延びしたおっとり口調に、俺は土下座からチラとくーまんママを見る。美しい笑顔だった。まったく怒っていなく、くーまんの母親とは思えない高貴な、住む世界が違うとさえ思わせる澄んだ空気を感じる。

 そんなくーまんママに気持ちが安心した俺は、正座はそのままに頭を上げて、茶釜を前にしたくーまんママに、


「今回は急な来宅にお時間を作っていただき、ありがとうございます」

「いえいえ、遊さんには主人ともどもお会いしたいと思っておりましたのでお気にせず」

「僕に会いたかった?」


 ——どういうことだ?

 ——くーまんが貫通式を終えたのは知らないはずだから、前から俺に会いたかったという意味だよな。


「娘が遊さんと知り合ってからの一年、一〇年間ひきこもって見られなかった笑顔を見せてくれるようになりました。そして今回、遊さんの元へ行くと一〇年ぶりに外へ出てくれて……」


 なるほど、そういうことか。だが、涙を浮かべているところ悪いが、一〇年ぶりに外へ出た娘が男に抱かれて帰ってきています!


「それだけでなく、娘を女にしていただいて……」


 ——はい?


「親として感謝するだけでは足りぬと主人も申しておりました。このご恩は当家の蔵にある宝物を差し出し、それをお礼という形にしたく存じます」

「いや、あの、当家の宝物とかそんな大袈裟な…………って、女にしてってどういう……」

「主人もわたくしも、色々と諦めていましたから……」


 遠い目をするくーまんママに、ひきこもり娘にだいぶ苦労していたんだな、と思いたいところだが、それは今の会話の流れから大した問題ではない!


「なんでセッ……いや、あの、昨晩の事を知っているんですか!」

「昨晩だけでなく今朝や先ほども愛し合ったと娘から聞いておりますが?」

「!?」


 バッとくーまんを見、端末の画面を叩いている指先を止めるように端末を取る。画面を確認、そして全てが手遅れになっていたのを思い知らされる。


 新城一也『くーまん。遊さんは緊張してる?』

 くーまん『痴匠。遊ちゃん、すごい緊張してるよぉ』

 絶•景•輪『ロリ遊のことだから大丈夫じゃね?』

 くーまん『絶•景•倫。うん。さっきも二回エッチしたから大丈夫!』

 絶•景•倫『晩に二回、朝から昼までに三回、くーまん実家に行く前に一回……ロリ遊のロリコンパワーは五三億です、て拡散しとく!』

 くーまん『絶•景•倫。うん。拡散希望! 遊ちゃん。わたしのちっぱいが好き好き言ってたからソレも加えてね!』

 新城一也『遊也は【ロリ神】の称号を獲得した』

 なでなで『遊也師匠……ではなくロリ神遊様! 私も抱いてください! 一八歳がいけたなら一二歳も大丈夫なはずです!!』

 絶•景•倫『なでなで。ロリ神遊様なら、ロリは最高だぜ、と言いながら抱いてくれるさ』

 新城一也『遊さん。あなたの師匠として一言、good ロリ……ではなくgood luck』


 俺の作家人生は終わろうとし、俺の知らないところでロリコン人生が始まっている。


「くーまん、何してるのかな?」

「【ほうれんそう】と【記録】は社会人の基本。昨日、寝る前にも写真を撮り、関係各所に送った」

「………っ」


 画面に指先を付けて会話を遡っていく。俺が寝た後に撮った写真、血でシミを作ったシーツ、寝ている俺にキスをしている写真などなどサイトの規約に引っかからない写真が大量に貼り付けてある。


「こんな娘ですが、これからもよろしくお願いします」


 ぶん殴られる覚悟できたくーまんの実家。

 ところがどっこい低姿勢な母親が現れ、全てが筒抜けな上に受け入れ態勢が万端。

 NOと言える日本人だと自負している俺でも……、


「は、はい」


 と、答えるしかない。


「赤飯をご用意しておりますので、準備ができるまでの間、茶でもどうぞ」

「あ、ありがとう、ございます」


 結論から言うと、三一歳のオッサンと一八歳の交際は親公認という形になった。

 青少年育成条例という国家の宝刀があろうとも、如何なる間違いも許される、親公認という無双モードに突入してしまったということだ。


 そしてこの日を境に、分水嶺は『初の印税で一緒に遊ぼうぜ』と言われた時だったな、と思い返した俺と一八歳ラノベ作家くーまんの清く正しいお付き合いが始まり、俺のロリコン疑惑を拭い去るための、


【くーまん観察日記】が始まる。


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