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くーまんとスーパーに行く。

 赤色の看板には【マキシマムバリュー】。どこの地域に行ってもある中型スーパーだ。

 開店に合わせて来店する専業主婦と老夫婦、救いなのは子供がいない事か。

 銭形警部コスプレを子供が見つけようものなら、くーまんの対人恐怖症がとんでもないことになる。それ以前に車から出られない、という問題もありそうだが、一応聞いてみよう。


「俺は材料を適当に買ってくるけど、くーまんは車にいるか?」

「……っっ」


 首を左右に振る、か。対人恐怖症に対しての挑戦心はあるんだな。


「そんじゃ行くか」


 と、俺は車から出、くーまんも後に続く。


 スーパーの中は専業主婦や老夫婦でごった返している。くーまんを見ると二度見してくる専業主婦にプルプルと震えていた。

 俺は赤シャツにジャケットを着るという……まぁ、冴羽獠コスプレに間違われるが、普段から原色シャツにジャケットなため、個人的にはコスプレだと意識していない。二度見してくる専業主婦は、銭形警部コスプレと冴羽獠コスプレだと思っているかもしれないな。

 一般人というのはコスプレをしている勇者に対しては距離を置いてくれるから、プルプルくーまんのいる今は助かる。


「とりあえず焼肉でもするか。家にもお客さんから貰った高級肉があるんだ」

「肉は魔力回復に役立つ」

「そうだな。高級肉なほど…………ん?」


 ソプラノ? 今の声はくーまんのいる方向から聞こえたが……?


「パクチーは魔力が減少するため却下。かいわれ大根を所望する」

「…………」

「どうした遊ちゃん? 私……っ、ゴホン! 俺はかいわれ大根を所望している」

「お、おま……」


 ソプラノな声色を無理矢理バス調にしているくーまんは、ワザとらしく疑問符を浮かべると「かいわれ大根は嫌いか?」と三倍早く動けるシャーさんのモノマネをする。


「お前……女だったの?」

「…………ドッキリ大作戦が失敗したし!!」

「いやいやいや、まずいだろ! つかお前、その声、その小柄な体格、未成年だろ!?」

「なっ! 未成年とは失敬な、私は二三歳だし、証拠もあるし!!」


 バッとロングコートの内ポケットから出したのは、国民健康保険証。おそらく、このパターンを先読みして何度も練習したな。


「実名は秘匿情報なため見せられない」


 と言っているとおり、バッと勢いよく保険証を出しておいて、名前の部分だけ白手袋をした指で隠している。器用なヤツだ。


 俺は保険証を見、年齢が二三歳なのを確認。危うく黒歴史を作るところだった、と安堵し、くーまんをラノベ作家を職にしている自立した女性として見る。


「二三歳だな。……」

「わたしの魔力量は生まれつき膨大。暴発を防ぐため、成長するためのエナジーを魔力の抑制に使っている」

「魔力とエナジーの違いを詳しく聞きたいところだが……まぁいい。とりあえず、エナジーで抑えるぐらいの魔力なのに、さっきは魔力回復が何ちゃらとか言ってなかったか?」

「フェリーの中で子供たちに追いかけられたため、わたしは魔力の暴発を防ぐために自分の船室を異次元空間へ転送した。饗宴のないつまらない空間に魔力を吸われ続けた結果の枯渇」


 ——要は、普段は親が順風満帆にひきこもらせてくれるが、子供たちが怖くてひきこもった船室には飯も無ければ道楽も無かったということだな。


「けして設定を勘違いしたわけではない」

「その辺を設定と割り切っているのは物書きの性ってヤツだな。まぁ、俺としては未成年でないなら安心だ」

「遊ちゃんは三一歳で間違いないか?」

「今年で三二歳だ。おっさんだが問題あるか?」


 くーまんが女性だったという事実に困惑して遅れてしまったが、遊ちゃんとは俺のペンネーム【遊也(ゆうなり)】からきている愛称だ。

 作家仲間の間では本名を名乗る名乗らないは小事であり、ペンネームから愛称を作るのが作家の習性。オフ会や今回の俺とくーまんのように二人きりで会う場合は年齢が最重要になる。

 俺はくーまんが二三歳だと確認できて安心したけど、くーまんは俺が三一歳だと確認を取り、どう思ったのだろうか?


「言ってたとおりの予想どおり……」


 サングラスを指先で傾けて、チラと覗かせた二重の大きな瞳で俺の顔を一瞥し、


「切れ長の目に天パ頭、そしてがっしりした体格。冴羽獠!」

「…………そういうことは、あまり大声で言わないでくれる?」


 驚いた。大声ではなく、くーまんの瞳に……。


「コレはしたり。そして今まで失礼した」


 くーまんはサングラスを取ってマスクを外すと、二三歳とは思えない桃色の頰をした童顔をニヤリとさせ、


「我が名はくーまん。いづれは大人気ラノベ作家となり、遊也(ゆうなり)の嫁となる者!」


 ——くーまん、めっちゃ可愛いな。

 ——…………んっ? 今なんて言った?


「ヨメ?」

「ふっふっふっ。わたしは、わたしを封印せし居城から出した者と結婚する……と十年前から決めていた。今日は処女の血を存分に味わうが良い」


 ——これはアレだな。


「いつものくーまん節だな。さっさと材料買って家に行くぞ。俺も焼肉屋に行く頭でいたから何も食ってないんだ」

「…………」


 三一歳にもなれば冗談と本気の違いもわかるし、コーチングという職業から一般人よりも理解できると自負している。

 二三歳とは年齢的には大人だが、まだまだ精神的には子供。けして子供なのが悪いわけではない。その童心が無ければ好奇心や挑戦心からの人間的な成長が無くなるのだから。


 ……もう、そういう心を失った俺にはくーまんが輝いて見える。

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