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剣聖の竜殺し(ドラグスレイヤー)  作者: 貝になった先輩
ロンドベル・アナスタシア編
9/11

不安だったのはこっちだよ

 「ふう、着いた」


太陽が沈み夜が更ける頃、駆は傷の治療や検査等を終えてようやく自分の部屋に帰ることができた。ドアを開けるとシャワーの音が鳴り響いていた。恐らくマニだろう、そんなことを考えながらソファーに腰かけ、教科書を開き勉強を始める。


「ふむふむ、なるほど……一部の人は普通の属性魔法に加えて無属性の魔法も使えるのか、僕は使えないけど」


そんな独り言を呟きながら教科書を丸暗記するつもりで読んだ。三日間休むと結構授業内容は進んでいるものだ。


 しばらくすると風呂の扉が開き真っ白い大量の湯気が出てくる。その中に紛れ込む肌色の女体、すらっと背の高いスタイルのいい女の子、それは優だった。優は駆の姿を見るや否やプラスチック製の洗面器を勢いよく投げつけてきた。


「痛い!! なんなんだ……って、えーーーー!!!」


洗面器を投げられて全裸の優の存在に気付いた。


「な、なんで優がここにいるんだよ!! しかもなんで服着てないの!!」


彼は顔を教科書で覆うと優に向かって問う。


「変態エッチスケベ!!! しばらく会わない間に駆君がそんなに変態になってると思わなかった!!」


洗面器の次は石鹸が飛んできた。しばらくしてシャンプーの容器や髭剃り等々が飛んできてもう収拾つかない状態になった。


「僕の部屋に覗きに来るなんて!! ばかばかばかばかばかあああ!!!!!」


「いや、ここ僕の部屋だって!!」


このままではしてもいない覗きの噂が広まってしまう、駆は全力で否定した。


「え?」


話し合いの甲斐あってか彼女の投擲の手が止まる。どうやらここを自分の部屋と勘違いしていたようだ。駆にとってはいい迷惑だ。


 ヒートダウンした彼女は駆と自分の投げたものを元あった場所へかえすと二人で向かい合ってソファーに座る。それにしても、駆と二人きりだと繕わない彼女が見られる。一人称も昔使っていたものになるし。


「駆君、本当にごめんなさい!!」


彼女はソファーから降りて土下座してきた。


「いやいや、気にしてないから大丈夫だよ」


彼は土下座に困惑しながら優にそう返した。そうして、彼が一番疑問に思ったことを訊いた。


「ところで、どうして僕の部屋にいるの? 確か女子は男子寮侵入禁止だった気がするけど」


「それは、この前の矛女が攻めてきたときに女子寮の一部が壊れちゃったの。それで今女子寮は相部屋になってるんだけど部屋が足りなくて僕がここに来たってわけ。ちなみにここに来たのは学園長の推薦よ」


学園長は何がしたいのか。わからなくて考えようとしたが考えれば考えるほど意味が分からなくなって考えるのをやめた。そういうものなのだ、と考えることにした。少なくとも駆の脳みそでは考えがいたらない。


「でも、無事でよかったよ。あそこに駆け付けた時は大丈夫か不安だったんだ。もうすでに意識なかったし」


駆がそう言いおわるや否や彼は優に押し倒されて抱き着かれる。


「い、いきなりどうしたの!?」


「不安だったのはこっちだよ……駆君、私が目を覚ました時には血まみれで意識もなくて医者は大丈夫って言ってくれたんだけど信用できなくて、脈拍もかなりあぶなかったし、それに……」


そこまで言って優は止まって顔を駆の胸に埋めた。駆の服が暖かい涙で濡れた。彼はそんなことになっていたのかと驚き戸惑い、下手したら死ぬといったあの男の言葉があながち嘘ではないと思えた。


「そうか、やっぱりあの技のバックファイアは……」


命を削る、それが羅刹剣の代償。強力な力との引き換えは彼が思っていた以上に重たいものであった。ハイリスクハイリターンな奥義だったのだ。彼は彼女を泣き止むまで抱いていることにした。それが心配をかけた彼の償いだった。



 城門の影でたたずむ世界を股にかける謎の男、シショー。そして、折れた矛を携え膝まづく女、アナスタシア。

「え? 俺に教えを請いたい?」


「召喚した武器を手刀で破壊する人間なんて規格外だ。頼む! 私は強くなりたい、いや強くなくてはならないのだ!!」


彼女は土下座で男に頼み込んだ。頭が擦れるくらいに地面に額をこすりつけ懇願したのだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!! 落ち着いて顔をあげてください」


男は慌てて止めるとアナスタシアはデコが真っ赤になった顔をあげた。


「そもそも、どうして力が欲しいのですか? ただ強くなりたいってわけじゃないんでしょう?」


男はすべてを見透かしたように彼女に話しかけた。このときに彼女は悟った、彼に隠し事はできないと。まあ、彼が相手でなくても嘘が下手ですぐにばれる場合がほとんどなんだが。


「私は、城に弟が捕らわれている。私の唯一の肉親なんだ。今回の襲撃も実は皇帝の密命なんだ。私が大きなヘマをすれば弟を斬り殺すと、だから強くなりたい、いや強くなくてはいけないんだ!!」


彼女は男にそう耳打ちした。包み隠してはすぐにばれて彼から教えを乞うことはできない。そう言った彼女の判断は彼女の口から密命の話まで引き出した。


「わかりました、ただし、あなたには入門試験を受けてもらいます。ついてきてください」


「入門試験だって?」


彼女が男についていき十分ほど歩くとそこは帝国の宿屋だった。

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