借りを返せずに死ぬんだけどね!!
そのころ、レストランでは怪我人の山、そして武器の召喚魔法で作り出した三メートル以上ある巨大な矛を持つオッドアイの女が一人いた。
「その程度の力で国を守るなどとほざいているのか!! 力なき身で正義を語ることの愚かさをその身に刻め!!」
特に一年生は今日入学したばかりのひよっこだった。騎士としての考え方など知らないただ魔導書に適合しただけの一般人と変わりなかった。そんな者たちが戦力になるわけがなかった。ただただやられるだけなのだ。
そんな未知の脅威へと立ち向かう勇猛果敢な騎士一人だけいた。それが優であった。
「炎の中より出でよ、緋色の切っ先で世界を貫け!! 神の名を持つ細剣!!」
先の尖った細身の剣が優のもとに現れる。長さは一メートル程度で刀身が炎のように真っ赤なレイピアだった。
「どこの誰かしらないけどなんでこんなことするの?」
「私はここの元学生でな。やめたのさ、こんな弱者しかいない学園は張り合いがないからな!! ここでは世界を救えない。だから私は強くなった。世界を救うために!! 世界の救世主を語る愚かな弱者を屠り、私が世界を再生する真の救世主だと示すために!!」
巨大な矛を持つ女が優に高速で不可視なる刺突を繰り出す。目に見えない速さでの突きを寸で受け止める優。矛の女がバックステップで距離を取り呪文の詠唱を始める。
「平等なる大地よ、我が怒りを受け入れ今その力を示し給え。我は信者、大地の信徒、おお、神よ。我を救い給え!! グランドブレイク」
床が壊れ、大地が震える。巻き上がる砂煙に視界を奪われる。巻き上がる固まったコンクリートに服が切られ肌が切られ優はズタボロになって地面に倒れこむ。
「私の刺突を受けきったことは褒めてやるが……やはり所詮は雑魚学園の生徒か。帝国の足元にも及ばないゴミめ」
矛の女が優にとどめを刺そうと近づいたその時だった。
「燃え上がれ火炎!! フレイム!!」
矛の女の足元からマグマのように炎が沸き立ち火柱を形成する。なんと若干七歳のマニが呪文を唱えたのだ。しかし矛の女は何事もなかったかのように余裕ある回避を見せる。
「虫けらが……死んだふりをしていれば助かったものを」
「ほんとはあなたのことなんか嫌いだけど、駆王子の悲しむ顔は見たくないもん。だから貸しひとつね」
なかなかに抜け目ない女の子だ。
「そいつは借りを返せずに死ぬんだけどね!!」
矛の女は火柱を矛でたたき切ると優をめがけて突進してきた。矛の先端が熱くなるようなとんでもない速度だ!! しかし、攻撃は優が手を出さずとも弾かれた。
「アストラル・バリア!! いつの間に!!」
「初級魔術の無詠唱発動はお手の物だよ!!」
無詠唱発動、それは高速詠唱の局地。脳内で詠唱を超高速で書き綴ることで詠唱時間を短縮し発動するという一流の魔導師にしか使えない詠唱術だった。
「無詠唱発動……そんなことができる魔導士がいたとは……だが、それでも、私の足元にも及ばんがな!!」
突然、矛の女がマニの目の前から消える。直後、マニの足に激痛が走る。
「きゃあああああ」
マニはその場に座り込んでしまった。どうやら背後を取られて矛で突き刺されたらしい。
「こんなガキが一部の魔術師しか使えないよな無詠唱発動をやってのけたのには驚いたが所詮、戦闘はは素人。体術は見切れなかったな」
「そんな、助けて……」
マニも優も倒れ彼女に対抗できるものはもういなくなってしまった。
「君は中途半端に強かったから本国のためにしっかり殺しておかないとね」
悠々と彼女がマニに近づいてくる。泣きじゃくるマニの頭を思いっきり憎らしい笑みを浮かべながら踏みつける。そして彼女の胸に矛が突き立てられる!!
「くたばれ!! クソガキ!!」
その時だった。閉まっていたレストランのドアが切って開かれた。そして何者かが紫の剣でマニの胸元にある矛を弾き飛ばした。
「な!?」
そして、狼狽える彼女に一太刀浴びせたその人物はなんと浪川駆だった。
「ごめんなさい、遅くなりました姫様」
にっこり笑っておどけた様子でマニにそう話しかけるとマニは魔力を使ったことによる疲労と駆が助けに来た安心感で気を失ってしまった。
「さて、よくも僕の大事な友人達を滅茶苦茶にしてくれたな。覚悟はできてるんだろうな!!」
彼女は鼻で笑った。
「笑わせてくれる。貴様もこの雑魚学園の一年なんだろ。その自信はどこから湧いて出たんだ? 世界を救う救世主なんだから私なんかには負けないとでも思ってるのか?」
「俺は世界を救う気なんかさらさらない。ただ、目の前の平穏を奪っていくお前に俺は負けられないってだけだ!!」
こうして矛の女と浪川駆の戦いの火蓋が切って落とされたのだ。二人の仇を討つべく彼女に剣を向ける。