駆はマニの王子様なの!!
駆とマニがレストランに向かうと優はすでに扉の前で待ってた。
「ごめん!! いろいろ用意してたら遅れちゃって」
駆が謝罪の言葉を述べると優は不機嫌そうにため息をついて腕を組み貧乏ゆすりし始めた。
「別にいいわよ。待ってないし。でも、一つ聞きたいんだけど隣の子、だれ? というか、僕とご飯を食べに来てるのに他の女の子を連れて来るってどういう了見よ!!」
「いや、寮に帰ったら裸でなぜかいて、ルームメイトだって学園長が……」
「は!? 今日あったばっかなのに腕に抱き着くほどの仲になってんの!! しかも裸ってなによ!! こ
んな子供に誘惑されたの?」
鈍感な駆にもわかった。中谷優の放つ強烈な殺気が。彼女は怒りだすと人が変わるしちょっとやそっとでは止まらない。それは駆もわかっていた。しかし、子供はそこへ無邪気に足を踏み入れ油を注ぐ。
「マニは駆王子のお姫様の早川マニ!! 王子様がお姫様とご飯を食べに行くのの何がおかしいのよ。関係
ない人は入ってこないで!!」
「もう、婚約までしてるの!?」
「え? いや、違うって!!」
そうして、二人はしばらく目を合わせない修羅場が生成された。この状況がやばいと言うことは容易に分かった。駆は戦いでもないのに戦いよりも張り詰めた雰囲気に恐怖したがこのままでは仁義なき戦いが発生しかねないと考えて場所を移すことにした。
「あーお腹が減ったなー、早くレストランに入りたいなー」
恐怖で声が掠れてしまった。彼には今の二人が機竜よりもよっぽど恐ろしく見えた。とにかく人が多いところに行こう。そうすれば二人も周りを意識して少しはクールダウンしてくれるはずだ。そうして、駆は二人を半ば強引に二人をレストランへと連れ込んだ。
レストランはとても広かった。一人用のカウンターから定番の四人座れるボックス席、円卓の騎士団ごっこができそうな回転机のある席があった。食券機で食券を取り席に座るとウエイターが来てくれて食券を渡して注文する方式だ。
「あ、僕は豚揚げ卵とじ丼にしよ!!」
「駆君、昔からそれ大好きだよね。今度、僕が作ってあげるよ」
「え? 優って料理できるの?」
「当り前じゃない、親から褒められる程度にはできるわ」
「優のお母さん、懐かしいな。よくお菓子食べさせてもらったよ。今も元気なの?」
そんな昔ばなしをされて面白くないのはマニだった。彼女は思い切り駆の足を踏んだ後、彼の手を引っ張ってボックス席に座り、その隣に駆を座らせた。前の席が空いているにも関わらず幼女の隣に座る十代の青年。周りの目が痛い。
そして、優が食券を買って席にやってくるのだが、やはり修羅場になってしまうのだった。
「なんで会ったばっかのあなたが付き合いの長い幼馴染の僕を差し置いて駆君の隣に座ってんのよ!!」
また始まったと頭を抱える駆、そして優に反論するマニ。
「当たり前でしょ!! 駆はマニの王子さまなの!! お姉ちゃんこそ、マニ達の間に入ってこようとしないで!!」
優はその言葉を完全無視するとボックス席の二人掛けの椅子に三人目として無理やり座ってきた。
「うおう!! きついきつい!! つぶれる!!」
押しつぶされた駆は席から立ち上がり通路側に出る。
「ちょ、ちょっとトイレ」
そして、こんな空気は耐えられないと言わんばかりにトイレへと逃げ込む振りをして心を落ち着かせるべく屋上のテラスへと向かった。
十分ほどでテラスについた。
「はあ、なんなんだ全く。優のやつ、子供一人にムキになりすぎだって……」
駆が椅子に座ってため息をしながら、そのような考え事をしていると目の前の席に学園長が腰かけた。
「なにやら、大変なようじゃな」
「僕の幼馴染とマニちゃんが全然仲良くしてくれないんですよ。さっきからずっと喧嘩してて……今も耐え
られなくなって逃げてきたんです。優も相手は子供なんだからもう少し我慢して構えられないのかな……」
「恋する乙女に我慢などという考えはないじゃろうな」
「これじゃあこの先の学生生活が思いやられますよ」
茶化す学園長に駆は青みがかった疲労感いっぱいの顔で答えた。
「でも、私はお主ならうまくやれると信じておる。苦難はそれを乗り越えられる相手にしか与えられぬからな」
「何か考えないとなぁ……」
そのような話をしていると突然地面が揺れ窓ガラスが割れる音が聞こえた。そうして数秒後に生徒たちの悲痛な叫び声が聞こえた。レストランのほうからだ。
「これはいったい何ですか!!?」
よくわからない現状に戸惑う駆。
「これは、敵襲……!? 機竜なのじゃ!! なんで学園の寮内に!!」
学園の寮内にはバリアコーティングが施されていた
かなり慌てた様子の学園長を見た急いでレストランの従業員や利用者、そしてマニと優の安否を確認しに行くことにした。走ってレストランに行こうとするのだがそこで学園長に止められた。
「君も早く学校へ避難するんだ。時は一刻を争う」
「あそこには大事な人がいるんです!!」
「幼馴染か……でも駄目だ!! 私に勝ったとはいえ一人で機竜を屠れるとは思えない!! 最小なものでも百人の竜滅騎士が必要じゃ」
なら、二人はどうするのか。このまま彼女らを見捨てて帰る……そんなことできるはずがない。
「学園長……僕も貴方も国を守る軍人を目指してここで経験を積んでいるんですよね。たった数人の人を救えなくて国なんか守れるんですか!? 大事な人を守るために……僕は何を言われても行きますよ……」
「待て!!」
駆は蘭の手を振り払いレストランへと走った。間に合え間に合えと祈りながら。