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剣聖の竜殺し(ドラグスレイヤー)  作者: 貝になった先輩
ロンドベル・アナスタシア編
11/11

ずいぶんと早いお出ましですね

 バラックの中はひどく散らかっていた。床一面にゴミが散乱していてとても臭う。アナスタシアは鼻を塞いでバラックの中へと入って行った。


「で、その犯人ってのはどこにいるんだ?」


本題を切り出したのはシショーだった。彼はバラックの中に入っても臭がる仕草は全く見せない。アナスタシアはシショーがスラムの臭いに慣れているわけではなく、彼の嗅覚が鈍感なのではないかと思ってしまった。


「その話の前に聞きたいことがある。お前の隣にいる城下町のお嬢様みたいな女はだれだ? お前の嫁さんか?」


「んなわけないだろ。そもそも、俺は色恋に興味なんかねえ。彼女は通り魔退治のために連れてきたんだ。俺の弟子候補だよ」


「はじめまして、私はロンドベル・アナスタシアと申します」


彼女が丁寧にお辞儀をするとダイクは鼻で笑った。


「こんな、城下町の箱入り小娘みたいな奴が何人もの男を屠ってきた通り魔を退治する? 笑わせるぜ!!」


二言目から暴言を吐かれた彼女は怒り、握り拳を作り、殴りかかろうとした。しかし、それはシショーに腕を捕まれ止められる。


「まあ、お前が連れてきたってことは腕は確かだろうからな。ならターゲットの概要に移るぜ」


ダイクがズボンから小さい写真を取り出し二人に見せた。


 なんと、二人とも子供だった。一人は毛の立った男の子でもう一人は三つ編みの女の子だった。どちらの子も見た目は普通の子供で、通り魔事件など起こしそうには見えなかった。


「こいつら二人だ。名前はわからねぇが毎晩ここの北にある橋に出没して通る人を襲っては金品を強奪している」


「そんな、こんな小さい子が通り魔なんて……」


育ちのそこそこよかった彼女には、子供は天使のようなものというイメージがあった。ニコニコ笑いながら気の合う友達と遊んでいるような、そんな子供たちしか想像できなかった。


「いいか、お嬢ちゃん。子供に限らず、人間って言うのは極限状態になると何をしでかすかわからない生き物なのさ。まあ、温室でぬくぬく育った娘に何を言ってもわからんかもしれないがな」


いちいち癪に障る言い方だといら立ちながらも、彼の言う通り事実通り魔になった子供もいる。故に彼女は彼を否定できなかった。


「なら、ちょっくら橋で張り込んでみるか。行きましょう」


シショーはどこか険悪な空気を断ち切るべく、まだ昼間なのにも関わらず橋へと向かった。そして、アナスタシアもまた彼を追って橋へ向かって走り出した。そして、二人がバラックから出ていくのを見届けるのはダイクだった。


「あの甘ちゃん小娘が死ななきゃいいんだけどなぁ」


 三十分ほど歩くとその通り魔が出ると言われる橋に着いた。まあ、橋といっても流れの緩い川の縁に盛り土がしてあり、そこにベニヤ板がおかれているだけなのだが。


「いくらなんでも失礼な奴だ。初対面の相手に向かってあんな態度」


「まあ、スラムの奴らは城下町の人々に鬱憤がたまってますからね」


帝国で税金を払うのは貴族以外の人間ということになっている。特にスラム街の住人への扱いは酷く、働いても九割は税金として国に回収されてしまう。残るお金は雀の涙程度しかない。生活していくのも不可能なくらいだ。


「あなたのように地位を持った人間は妬まれるんですよ。金のない人間ってのは嫉妬深いですから」


地位があったって楽じゃない、むしろ地位があったからこそ弟は……



 「そうだな、君が騎士団に入って私に忠誠を誓い、私のために働くというなら弟の命までは奪わないでおいてやる」


綺麗な黄金の王冠と宝石が付いたマントを着た偉そうな男がアナスタシアの目の前にいる。歳は十七程度だろう。


「私はお前たちの卑劣な方法になんか屈しない。必ずブロンベルクを救い出して見せる!!」


「お前は馬鹿か?」


皇帝は彼女の弟の頭に銃を突きつける。彼女は矛を床に置くと皇帝を怒りの籠った顔で睨みつける。


「おお、怖い怖い。で、どうするのだ? 私に従うか、それとも……」


皇帝は銃を彼女の弟へと向け発砲する。銃弾は彼の顔を霞めて壁へと当たる。


「く、くそ……今の私では、弟を救い出すことはできない……」


皇帝は跪く彼女を見て不敵で憎らしい笑みを浮かべる。


彼女は自分の無力さを呪った。自分は目の前の人一人救えないような人間なのかと。彼女の両親は政争に巻き込まれ、殺されていた。そんな彼女にとって弟は唯一の肉親であり、よき相談相手であり、武道の腕を競い合うライバルでもあった。そんな彼の命を繋ぐべく彼女は皇帝のもとで働いている。ありとあらゆることに不満を持ちながら。様々な行いにおいて自己を正当化しながら。




 「ずいぶんと早いお出ましですね」


シショーは右前方を指さした。彼の指先をたどっていくと男女二人の子供が橋の方へと歩いてくる。それは紛れもなく普通の子供、しかし紛れもなく彼女が先ほど写真で見た双子だった。


「まずは話してみましょう。それでお縄にできれば儲けものです」


まあ、おそらく無理だろう。シショーもアナスタシアもわかっていた。しかし、アナスタシアは子供に乱暴なことはしたくない。そして、シショーもそのことを察していた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何度も言う通り古き良きラノベというか石鹸みたいな感じで好きでした。 [気になる点] 展開が早すぎるような気がします。例えば優の裸のシーンがありますが、もっと深く描写すべきだと思います。簡単…
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