そこで何をしている
「ふう、着いた」
巨大な校門、比較的新しい校舎。学院の前に立つ青年、浪川駆。
「こうして見ると結構でかい学校なんだなあ」
駆は入口の看板で自分の組を確認すると見上げつつ校門をくぐった。
ここはレジェンディア王立学園。レジェンディア王国の兵士養成学校だ。
数年前、突如発生した正体不明の魔物、鋼鉄機竜によって国土の大半が崩壊現在も侵攻を受けており数日前もたった一体の鋼鉄機竜によって街一つは壊滅した。一般市民にとって鋼鉄機竜は天災の象徴であった。彼らに巻き込まれた一般市民は運が悪かったとして死を覚悟する他なかった。
そんな状況を打破すべくつくられた部隊、それが竜滅騎士団。そんな人材を育成すべくつくられたのがレジェンディア王立学園だった。
「あ、やべえ!遅れる!!」
腕の時計を確認すると入学式の時間まで五分ほどしかなかった。すぐに、入学式の会場に向かい走り出したのだが学院は広く案内板も無いため道に迷ってしまった。
駆は走る事をやめ人を探した。渡り廊下にも誰もいないしグラウンドの回りにもいない。右左見ながら不審者と見間違われるような素振りをしつつ歩いていると一人の女の子の声が駆を呼び止めた。
「おい! お前、そこで何をしている」
シャキッとしたハリのある大きな声。振り返ると凛々しい顔つきの青いショートヘア、まさに女王といった感じで瞳になにか熱い闘志のようなものを感じた。
「はい、入学式に行こうとしたのですが道に迷ってしまって途方に暮れていました」
「なら私が案内しよう。不審者を豚箱へとね!!」
そう言い終わるが否や彼女は不思議な呪文を唱え始める。
「烈風より出でる槍、神をも貫く烈槍よ、時を超え勝利の契りを我と結び今ここに来れ、吹きすさべ!! ゲイボルグ!!」
彼女の手に長さ一メートル半ほどの緑の槍が握られていた。これは武器の召喚魔法。自分の記憶の一部を魔導書に込めて武器を呼び出す技。その人の記憶にあった武器を魔導書が作り出し実体化させる代物だ。
「ちょっと待ってください!! 僕は新入生ですって!!」
「皆、学校に侵入する不審者はそう言うのだ!! 覚悟!!」
駆の説得の甲斐むなしく彼女自慢のゲイボルグで一突き、それを間一髪でかわす。
「あっぶねぇ!!」
「ふむ、私の突きをかわす奴なんて久々に見たな。不審者じゃなかったら誉めてやるんだけどな!!」
駆はなんども不審者ではなく新入生だと説明したが彼女は全く聞く耳を持たない。何を言っても機械のごとくお前は不審者の一点張りだった。そして、彼女は槍を地面に立て別の呪文を唱え始めた。
「切り刻め烈風。邪を滅する刃となりて彼の者を喰らえ!! ウインドブレイド」
緑の風の刃が駆を切り裂かんとして向かってくる。これが魔法。自分の体内にあるマナを使って様々な効果のある術を使うことができる。今回駆に対して放たれたのは風の魔術だった。
「先に武器を出したのは先輩です。ケガしても文句は受け付けませんよ!!」
駆は意を決して武器の召喚呪文を唱えることにした。自己防衛のために仕方ない。
「闇より出でし剣、眼前の敵を滅する剣よ。時を超え勝利の契りを我と結び今ここに来れ、ダインスレイフ! 」
長さ一メートルほどの紫の剣が駆の手に握られていた。駆は彼女が出してきた風の刃を切り裂くと彼女はニヤリと笑う。自分の突きを避け自分の魔術で作った風の刃を切り裂いた男。彼女の胸は高鳴り疼く。自分と実力伯仲の相手に彼女の騎士としての血が騒いだ。
もう、不審者云々の話は頭のどこかに吹っ飛んでしまったような感じだった。純粋に目の前の騎士に勝ちたい、駆もまた入学式のことなどすっかり忘れこの戦いに打ち込む。
「なかなか腕が立つようだな。でもその程度では私には勝てんぞ!!」
今度は薙刀のように槍で切りつけてくる彼女。駆の体まで一寸というところに迫ったその時だった。
「壱式体術 空蝉!!」
斬った手ごたえがない。彼女の薙刀が空を切る。駆の姿も見えなかった。しかし、殺気が彼女の背中を刺した。
「後ろか!!」
斬りかかったダインスレイブをゲイボルグが受け止める。いや、受け止めきれなかった。ゲイボルグは二つに折れキラキラ光る泡となって消滅したのだ。
「そ、そんなことが」
そして、同時に学校のチャイムが鳴る。入学式は終了したのだ。やっちまったと言わんばかりに頭を押さえる駆。またやってしまったと天を仰ぐ少女。
しばらく、約一分ほどの沈黙の後、口を開いたのは駆であった。
「えっと、一年一組の教室に案内してくれませんか? 確かオリエンテーションがあったはずですし」
そうして説教を覚悟した二人は教室に向けとぼとぼ歩きだした。