異世界転生したら弟子が出来ました
オレの名前はライト・ホーリミーヤ。Cランク冒険者で、転生者だ。前世での名前は堀宮輝と言う。テンプレよろしく神様のミスでトラックに轢かれて、チート能力を貰って異世界転生した。
夢にまで見た異世界生活の始まりだ。そりゃあもうテンションが上がったさ。なんてったってここにはドラゴンもいるし、エルフに獣人、魔王だっている世界だ。地球育ちでどっぷりとサブカルチャーに染まったオレが、夢にまで見た世界だと言えるだろう。
しかも、神様からのチート付きである。正に順風満帆。男、堀宮輝――いや、ライト・ホーリミーヤか。……兎に角、オレの伝説が始まろうとしていたんだ。女の子のピンチを救って惚れられるのもいい。男共とギルドで酒を酌み交わすのも楽しいだろう。たまには、強敵を倒して英雄にでもなってやるのもいいかもしれない。
だってオレ、チートだからね。
……だけれども、夢は所詮夢だったよ。今のオレはCランク冒険者。所謂中堅層だ。弱くも無ければ、かといって滅茶苦茶強い訳でも無い中途半端なランク。二十歳でこのランクに到達したことを他人は褒めるけれども、夢が叶ったとは言い難いのが現状だ。
明るく楽しい、悩みとは無縁の異世界生活なんて無理だったよ。……最大の誤算はチート能力でしたね。
なんとオレにチート能力を与えた神様、日本産のサブカルチャーにどっぷりとハマっていやがった。その影響なのか分からないが、オレのチート能力は、発動条件が少しだけ特殊だったんだ。
『もう止めな……オレの右手に封印された黒炎龍が暴れ出すぜ』
『おいおい、その程度でオレを追い詰めた気になっているのか? しょうがねえな……左手の封印を一段階だけ解いてやるよ』
『この世界は狙われている……。大いなる意思ってやつにな』
『暗黒の炎――全てを焼き尽くす深淵の焔を見た事はあるか? これから顕現するのはその地獄だ。お前程度の存在がどこまで持つか、見ものだな』
お分かりいただけただろうか? ――そう、オレの能力は、カッコいいセリフ、所謂中二ゼリフを吐かなければ発動出来なかった。しかも、シチュエーション込みである。状況にあっていないセリフでは、残念ながらオレの能力は発動しない。クソ能力だ。交換できるなら交換したい。最大のデメリットは恥ずかしいことだ。
いや、セリフを喋ってる時はいいんだけどね? 思い出すと、こう……死にたくなる。
ゴブリン相手に「ふっ……今の攻撃でオレを倒したつもりか? 確かに良い攻撃であった……だが、まだ足りない。オレは更にその上をゆくぞっ!」なんて叫んでる姿を色んな人に見られて、つけられた二つ名が『聖騎士(笑)のライト』だよ! そりゃゴブリン相手にこんなセリフ吐いてたらやべぇけどさ! 笑ってなんだよ! セリフの後に出した攻撃は強かっただろ!
余談だが、ゴブリンは子供でも倒せると評判の魔物だ。しかし、オレはチート無しでは勝てない。鎧が頑丈だから肉盾くらいにはなるけどね? 将棋で言う千日手的なね? 勝てないけど、負けもしない的な。……いっそ殺せよ。どうせオレなんて聖騎士(笑)だよ。むしろ聖騎士だよ。
「お師匠! 今日はドラゴン対峙に行きましょう!」
うな垂れていると、可愛らしい声がオレの耳に入って来た。
「ああ、デス汰か」
顔を上げ、声の主を視界に捉える。フード付きの外套をすっぽりと被った少女が目に入った。フードを被っているため分かりにくいが、超が付くほどの美少女である。この少女の名前はデス汰。本名をデス・なんちゃらかんちゃら・なんちゃらと言う。……いや、彼女の名前を覚えてないのは許してくれ。ピカソ並に長いからね、本名。
その長い名前を略したのがデス汰らしい。因みに本名で呼ぶと怒る。かわいくないからだそうだ。デス汰はかわいいのだろうか。永遠の疑問である。
「師匠はどこのドラゴンが好きですか? 氷山? 火山? 天空園? 因みにわたしは冥界ですかね! ちょっと皮膚が溶けてるのがかわいいんですよ!」
このデス汰――なぜかオレの事を師匠と呼んで慕って来る。以前、ゴブリン対峙に行った時に、大きな犬に追いかけられていたデス汰を助けてからずっとだ。別にたいした事はしていないと思うんだが……。まぁ、美少女に慕われて悪い気はしない。例え、ロリコン野郎と陰口を叩かれてるとしてもだ。
「デス汰さーん? オレはCランク冒険者だからドラゴンは倒せないよー?」
勝手にクエストを選び始めたデス汰を止める。このデス汰、オレの力を過大評価している節がある。何かあるたびにAランク冒険者でもクリア不可能な依頼を持ってくるのだ。正直勘弁してもらいたい。Cランクじゃ無理です。無理な物は無理です。
あ、デス汰はAランク冒険者です。正直、引くほど強いっす。
「あははははははは! 師匠! 楽しいです!」
「……もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」
場所は火山。結局あの後デス汰を止める事は出来なかった。受注したクエストはドラゴンの討伐。ドラゴンと言えば、Aランク冒険者が、それなりに苦戦する程の強敵なのだが……。
「おりゃー! てーい!」
残像しか見えないけど、空間に線が走る度にドラゴンが一体ずつ地に伏せる。訳が分からない。ドラゴンって一対一でも勝てないレベルだったと思うんだけども。何で数十体のドラゴンに囲まれて、それでも優勢なんですかねぇ……? オレ、あの娘の師匠らしいよ。どれだけ強いんだろうね、聖騎士(笑)様は。
「グルルルルルル……」
「え? こっちに来たぁ!? ウソォ!?」
デス汰に勝てないと思ったのだろう。何匹かのドラゴンが此方に突撃して来た。やばいやばいやばい! 完全に油断していた! オレの能力はセリフを喋る必要があるから、こういう突然の行動に対処出来ないんだって!
あ、これ死ぬわ。
自分の運命を受け入れ、オレは穏やかな気持ちでその時を待った。鎧着てるし、運が良ければ生き残るかもしれない。
「……え?」
しかし、その時は訪れなかった。オレの方へ突撃してきたドラゴンの首が突然、宙を舞う。完璧に切られている。結構グロい。頭を失った胴体は、数秒遅れて地に落ちた。大きな音が響き渡る。
「師匠! 大丈夫ですか!?」
聞こえてくるのはデス汰の声。あぁ、君が助けてくれたのね。いつもありがとう。出来れば、こんな所に連れ出さないでくれると嬉しいな。
オレは自身の安全をアピールするように右手を挙げた。そうしているうちに、最後の一匹が倒れ伏した。オレの弟子が強すぎる件について。
「終わりましたー!」
にこにこと此方に駆け寄ってくるデス汰。頬やフードに返り血が付いてる。何と言うか、恐ろしい物を見ている気分だ。もう慣れたけれども。
「おう、良くやったな」
「えへへっ……師匠に褒められた! これからも頑張ります!」
デス汰の笑顔に此方まで癒される。……いや、まぁ。オレは何もしていないけれども、こうやってデス汰のクエストに着いて行き、そして生きて帰る。デス汰の無双っぷりを横で眺めて、一緒に帰る。
そんな日常が、オレは嫌いでは無かった。
ある日、デス汰は一人で街を歩いていた。あるお店に、用事があったからだ。勿論、お気に入りのフードは被ったままである。彼女はいつも、自身が師匠と呼び慕う人物と共にいる為、こうしてデス汰が一人で出歩いているというのは、かなり珍しいことだ。
人が多くいる表通りから少し外れ、デス汰は裏通りへと進んでいく。裏通りは怪しげな店が立ち並ぶ。怪しいポーションを売る老婆が徘徊し、その横で黒服の男たちが取引をしている。一説には、大きな街や国ほど、目立たない部分の闇は深くなるという話がある。この街の裏通りはそれを如実に表していた。
大きな鎌を担ぎ、真っ黒なフード付きの外套を纏う彼女の姿は異端そのものだったが、裏通りにそんなことを気にする者はいない。彼女は特に絡まれる事無く、目的のお店へ到達した。
ドアを開け、店の中へデス汰は進む。しかし、店主の姿は無い。休憩中なのだろうか。デス汰は店の奥へ向かって呼びかけた。
「おーい。やってますー?」
「おお、ご息女じゃないですか! 待ってましたよ! 武器のメンテナンスですね?」
店の奥から出てきたのはガイコツだった。剥き出しの骨が実にワイルドである。ガイコツと言えば、かつての魔王軍幹部の一人。性格は残忍にして卑劣。その恐ろしさたるや、子供向け絵本でモザイクがかかるレベルである。
子供が見たら、いや、大人が見たとしても震え上がり、ガイコツの前から逃げ出す事だろう。
「うん、よろしくね」
しかし、無警戒。そんな言葉でしか形容出来ない調子で、デス汰はガイコツに自身の武器――彼女の身長程ある大鎌を預けた。デス汰はこのガイコツを恐れてはいなかったのだ。寧ろ彼女は、このガイコツに親しみすら感じていた。
このガイコツのオッサンは、デス汰の父親の仕事仲間だった人物だ。その為、幼少期から交流のあったデス汰にとって、このガイコツは近所の兄ちゃん的な存在だった。
「ありゃー。また随分と使いこんだねえ。よっしゃ! 今回もバッチリ修理してやるよ!」
腕まくりをして、店の奥へ消えるガイコツ。太く、白く、丈夫な骨は彼の身体にカルシウムが満ちている事を教えていた。このガイコツは武器職人だ。仕事柄、身体のカルシウム濃度には気を使っているのだろう。彼の仕事に対する意気込みを感じる光景だった。
とはいえ、ここは異世界。カルシウムが骨を丈夫にするのは地球産の知識だ。デス汰はガイコツのオッサンが行っている努力に、ついぞ気付く事は無かった。そしてきっと、これからも気付く事は無いのだろう。
もし彼女が師匠と慕う人物がこの場にいたのならば、そのご立派なカルシウム濃度に感嘆の溜め息を吐いたのだろうが……もしもの話をしてもしょうがない。話し相手がいなくなり、暇になったデス汰は店内の武器を漁り始めた。
デス汰は大鎌を自身の武器としているが、一応は他の武器も扱う事が出来た。暇なデス汰はそこら辺に立てかけてあった大剣を振る。華奢な少女が振ったとは思えない速度で空間が切り裂かれ、建てつけの悪い店がガタガタと揺れる。ガイコツからしてみれば堪ったもんじゃ無かった。
「ん……?」
そんなことをしていると、デス汰の目に一本の大剣が目に入った。それは漆黒の大剣だった。真っ黒な刀身からは同じ色をした棘みたいな物が生えており、何処か不吉な印象を受けるような、そんな剣。柄からはまるで血の様に赤い紋様が刀身に向かって伸びており、生きているかのように脈打っている。
(か、カッコいい!)
デス汰が想像したのはこの武器を操り、モンスター達をなぎ倒していく師匠の姿。理由があるのか師匠は滅多に本気を出さないのだが……妄想の中の師匠はモンスターを次々に吹き飛ばし、カッコいいセリフを叫ぶのだ。
(うん、うん! すごくいいです!)
デス汰のテンションが上がる。彼女は追加で、そういえば師匠が新しい武器を欲しがっていたことを思い出した。そうだ、この武器をプレゼントしよう。デス汰は閃いた。
「ここの武器って、いくらですかー?」
デス汰は店の奥にいるガイコツに向かって呼びかけた。
「ん? 新しい武器が欲しいのかい? あー。まあ、嬢ちゃんの父さんには世話になってるからな! 特別大サービスだ! 無料でいいぜ?」
ガイコツはそう言ってニヒルに笑った。ガイコツ界ではイケメンと名高いドクロスマイルだ。世の奥様ガイコツが見たら粉砕骨折モノだろう。
「ありがとう!」
デス汰はお礼を言い、大剣に手を伸ばす。武器を修理しに来ただけだったのだが、思わず師匠へのプレゼントが出来た。今日はラッキーな日なのかもしれない。デス汰はニヤつきながら大剣を手に掴み――――ドクンと、大剣が脈打つのを見た。
中央広場で女の子が暴れている。
久しぶりの休日を満喫していたオレの耳に入って来たのは、そんな興味を惹かれる話だった。何でも、屈強な男たちが次々に倒されているらしい。珍しい話もあるものだ。後でデス汰に話してみてもいいかもしれない。オレは中央広場に向かう事にした。
「え……? なにこれ……?」
中央広場では、異様な光景が広がっていた。――死屍累々。中央広場の様子を表すのならば、これ以上に適切な言葉は無いだろう。地に伏す冒険者達。赤く染まった大地。鉄が錆びたような臭いが充満し、濃密な死の気配を感じさせる。その中心に彼女はいた。
「デス汰……?」
黒いフードを被り、赤く脈打つ大剣を振り回す少女。武器や雰囲気こそ違うが、それでも分かった。彼女は――デス汰だ。
オレの声に反応し、少女がゆっくりと此方へ振り返る。その瞳に理性の光は無く、只々狂気に染まっている事が分かった。そして、ゆっくりと少女の視線がオレを捉え、彼女はニィっと笑う。
「――ッ!」
瞬間、少女――デス汰はオレに向かって大剣を振りかざす。オレはそれを右にローリングして回避した。行き場を失った大剣が大地を砕き、破壊する。危なかった……! 分かってはいたが、まともにくらったら無傷ではすまないだろう。
周囲を見回す。デス汰の乱闘騒ぎはちょっとした事件になっているようだ。広場でのゴダゴダは割と日常茶飯事ではあるが……これ以上はヤバいかもしれない。現に、ギャラリーもデス汰の様子がおかしいことに気付き始めている。
……やるしか、ないのか。
幸いにも、条件はそろっている。おそらくだが、デス汰の様子がおかしいのはあの大剣が原因だろう。だから、あの大剣を破壊すればこの騒ぎも治まるのではないだろうか。
「来いよ……師匠に勝てるとでも思ってるのか?」
であるならば、話は早い。既にチートは発動しかけている。後はこれを維持するだけで、オレの勝利は揺るがない。
デス汰の姿が視界から掻き消える。おそらくは奇襲するつもりなのだろう。オレの能力では本気を出したデス汰の身体能力にはついていけない。ぶっちぎりで離されている。移動をするデス汰の姿は一本の線にしか見えない。後ろ、前、上。どこから攻撃されても反応する事は不可能だろう。
「……ふっ」
だがオレは、口元に笑みを浮かべ、右手を前に突き出した。攻撃が見えている訳では無い。攻撃予測が出来たという訳でも無い。だが……。
「――!」
それでも、オレの右手はデス汰の攻撃を防いだ。絶大な衝撃がオレの身体を透過し、大地が砕ける。飛び散った石つぶてがパラパラとオレの頬を打った。
「少しふざけすぎたな……反省しろ」
握りこんだ剣を離さないように力を込める。普通なら、刃の部分を握りこめば此方がダメージを負ってしまうのだろうが、生憎とオレは普通じゃない。チートっていうのは、規格外の塊だ。オレのチート能力は言ってしまえば、雰囲気で勝利した瞬間、絶対に勝つというチート。
心と行動、そして言動で負けない限り、オレの敗北は無い。
オレの力を受けたデス汰の剣が軋み、赤い紋様が一際大きく脈を打つ。まるで、悲鳴を上げているようだった。
「おらあああああッ!」
オレは右手で握りこんだ大剣に向かって、左の拳を突き出した。オレのチートで強化されるのは主に防御力と攻撃力、そして運の三つだ。高速で動き回るデス汰を捉える事は、オレの身体能力では困難を極めただろう。
だが、こうやって握ってしまえば外す訳がない。誤ってデス汰本人に攻撃が当たる事も無い。
だから……全力で拳を放つことが出来るッ!
左手がオレのチートを受け取り、金色のオーラを纏う。一撃で仕留める……!
「オーラストレートォォォオオオ!」
オレは必殺技の名前を叫び、全力で拳をぶち当てた――。
――あの後、なんだかんだあってデス汰の乱闘騒ぎは、特に事件としては扱われなかった。理由としては、デス汰がAランク冒険者として街に貢献してきた功績がある点。そして、持っていた武器――オレが破壊した武器が、魔王軍による呪いを受けていた点が大きいらしい。それでも今回の件をフォローしきるには至らなかったらしいが。
なにせデス汰はこの街の冒険者の殆どを無力化してしまった。回復魔法があるため、大事に至った奴こそいないらしいが……直ぐにクエストを受けることは出来ないだろうと言われている。その期間の損失を考えると、とてもじゃないが無罪放免とはいかないらしい。一時的とはいえ、人手が足りなくなるからだ。そんな訳でオレ達は暫く、街が出したクエストを受け続ける必要があるらしい。
因みに、拒否権は無いと言われた。
「師匠! あそこにいるの、討伐対象ですよね? 行きましょう!」
「いや、デス汰さん? あれリッチキングですよね? 討伐対象はリッチですよ?」
――余談だが、オレの二つ名も少しだけ変化した。あの戦いを見た人達が、オレへの印象を改めたらしい。そのまま、尾ひれがついて有る事無い事広まったらしいのだ。
聖騎士のライト。
武器を失い、倒れそうになったデス汰を抱き留めた場面を見た奴が付けた異名だ。
……この期間が終わったら、名付けた奴を探し出そうと思ってる。
「でも、どっちもリッチだし……一緒ですよね? 行きますよー!」
「待ってえええ! 無理だからあああ!」
取り敢えず、今は生き残る事を優先しようと思う。――このくだらない日常を、続ける為に。




