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比較されることが怖かったんだ

 「ぼく」は人と比較されることが怖かった。

 何をしなくても差別される、この世界が怖かった。


 底辺になんていたくない。

 せめてこの顔をどうにかしたい。


 生まれた時から曲がっていた骨に、美しいものが好きな母親に疎まれて育った。

 陰険に見える瞼。攻撃的に見える眼窩。更に左目だけ視力も弱く、時々すがめて見てしまう。

 生まれつきの骨格のゆがみによって左に傾き、前のめりに歩く。


 大抵付けられる評価は、陰険で卑屈な人間。

 何をやらかすか分からない。

 理由は、外見がそうだから。


 そもそも目の形は父親譲りだし、傾きは骨格の強度なゆがみのせいだ。

 どんな医者に掛かっても、匙を投げられてきた骨だ。簡単に治せるものか。


 でも、性格が卑屈なのは本当だったな。

 散々人間性を勝手に否定され、バカにされて生きてきた人間が、少しも卑屈にならないなんてありえるか?

 そんな奴、頭がいかれているとしか思えない。



 育った村では毎日が地獄だった。

 疎まれ石を投げられ、何か事件がある度に、「ぼく」に疑いがかけられる。

 理由はそんなことをしそうな顔だから。


 幼なじみリックは何も気にしない性質だったが、それでも尊敬する年上の子たちや、片思いのレダがいる時には、自分と距離を置いていた。

 「ぼく」と一緒にいると、彼らが遊んでくれないのだ。


 ただ、神様はただ不公平というわけでもない。

 人よりもひどい外見の代わりに、人よりもましな頭脳をくれたのだ。

 怪物と呼ばれる一方で、天才とも呼ばれた。


 ある時、母親の為に作った風邪薬が評判になり、依頼されてレシピを先生に提出すると、回復薬の新しい抽出法の発見だと大騒ぎになった。


 そして、「ぼく」は十才で王立研究所に招聘された。

 だがあっさりと挫折した。

 原因は、研究班のリーダーに外見が嫌われたからだ。


 研究の世界では才能さえあれば尊ばれるなんて、嘘だ。


 あそこは視野の狭い人間たちが、醜く優劣を競い合う世界だ。

 ねじれた自意識が服を着て、育たない情緒をもって、幼稚に他人を否定する。

 ただでさえ視野が狭いのに、研究対象でもないただの他人を総合的に認めていく? 

 できるわけがない。





 そんな中、「ぼく」の外見を気にせずに、仲良くなってくれたやつがいた。

 それがネスティ・ネイド。

 五つほど年上の、自分よりも早くから天才と言われてきた少年だった。

 専門はポーションの開発。


 年も近く、さらに言ってしまえば、彼の顔はあまりかっこよくなかった。

 だから余計に親近感が沸いたのだ。


 気さくな彼のような友達はいなかったから本当に嬉しくて、当時は本当に舞い上がっていたのだと思う。


 共に研究した話題に、「顔面レベル」もあった。

 会話の中で外見レベルの話を、自分が苦しむ骨格バランスに例えて説明したところ彼は興奮して、共同研究を提案してきた。


 別にそれは良かったよ? 

 親友と言ってくれて嬉しかったし。


 彼が出来上がった仮説を、自分の名前で発表したときも、別に良かった。

 自分の本分は回復薬の改良だったし。

 ……それくらいで親友に嫌われたくなかったし。


 そしてネスティが「顔面レベル」の発見による第一人者、時代の寵児ともてはやされるようになった頃。 彼はおかしくなっていった。


 元々、おかしかったのかしれない。

 だけど、「ぼく」が友達に嫌われたくないから、あえて見なかっただけだったのかも、しれない。




 ある日「ぼく」は、彼にある論文の盗作を糾弾された。

 その論文は、「ぼく」の机から盗まれたものであったのに。

 味方がただでさえ少なかった「ぼく」には、唯一所長が疑問を呈してくれた。


 だが意見の強さはバックの強さだ。

 ネスティの実家バックの爵位方が高かったのだ。

 所長のもっともな意見はネスティの屁理屈でつぶされてしまい、結局冤罪も晴らせず研究所をクビになった。


 そして郷里に戻っても、母は決して家に入れてくれなかった。

 再婚の話が来ていたからだ。

 自分が幸せになるためには、瑕疵のある子供はいらない。そう言って。


 一気に行き場を失った。





 そんな「ぼく」が死にかけ、行き倒れてたのを助けてくれた老父夫婦。

 彼らがやっていたのが廃坑の管理の仕事と、日用品店だった。


 廃坑も柱が朽ちたり、水がたまったりして山崩れの原因になることがある。

 そのような箇所を点検し、時折修理するのが仕事だ。

 「ぼく」は仕事をすぐに覚え、彼らの仕事を手伝った。

 やがて老夫婦がなくなり、彼らが住んでいた小さな家は僕に委譲されることになる。

 

 そんな生活をしているうちに、スライムたちに会い。

 ほんの偶然によって、ポーションは作られた。




 まず自分で飲み、リックが試し、レダが偶然実感した。

 最後に、ネスティに送った。


 試験制作のポーションをネスティに送ったのは、腹いせだ。

 あいつに対して、「お前はこんなものを作れないだろう。なんせお前は盗作野郎だからな」という、暗黙の挑発だ。

 あいつのプライドをボロボロにしてやりたい。

 復讐の気持ちはもちろんあった。


 案の定自意識の固まりのあいつは、送りつけられたポーションを自分の発見だと発表し、がむしゃらに再現試験を始めた。

 心の底からあざ笑ってやったよ。

 お前なんかにできるものか。


 それ以降、僕はポーションを作ることはやめて封印した。

 製法を売れば、莫大な金が入ることは分かっていた。

 だが、できなかった。




 信念? 

 そんなものないさ。

 流通させない理由なんて、本当に情けない話なんだ。


 「ぼく」はポーションを飲んだ。

 余りに低い顔面レベルは、完成されたポーションをして、ようやく平凡と呼ばれる外見になれた。

 だがこれ以上には、ならなかった。


 ルマは整っているとは言ってくれた。

 だが、国の顔面レベル最高値に指向させたはずでも、上手くいかなかった。

 他国の血も濃いからかもしれない。

 だがそれ以上にこの外見には、神の呪いでも掛かっているのだろう。


 これで、すべての人が最上に格上げされてみろ。

 全てが神のごとき美しさの世界で、相対的に自分の醜さだけがスポットライトを浴び。

 また底辺に逆戻りだ。

 もう、意味もなく差別される世界にはいたくない。


 だから僕は、他人にそのままの姿でも自信をもってもらいたい。

 少しでも良いところを見つけて誉めるのは、汚い下心ゆえだ。

 本当につまらない男なんだ。




 ルマが前髪にピンを付けて、頑張ろうとする姿が脳裏に浮かぶ。

 胸が痛むと同時に、どこまでも自分が情けなかった。






 目の前にいるネスティ。

 なぜ、一人でこんなところを歩いているのか。


 こけた頬に、ぎょろりとした目。

 王妃様に随分とひどい目にあっただろう、襟で隠そうとしていた首の辺りに、あざが見える。

 貴族の服もよく見ればあちこちが汚れ、ほつれている。


 確かネイド商会は、ネスティのポーションが原因で経営が傾いていると聞いた。

 まさか、着の身着のまま放り出された、なんてことはないよな。

  

「お前のせいで、父上に見捨てられた」


 ネスティは一歩近寄る。


「私はもう、あの家にいられない。

 ただでさえ成果を出し続けなければ存在価値がないというのに、お前のせいで……!」


 ネスティが細い手で掴みかかった。

 胸元を引っ張られるが、ここ一年で大分体力がついた僕はびくともしない。

 脇の鞘から短剣を出し、おぼつかない手で首を狙おうとした。

 慣れなさ過ぎて、何度振られても上手く当たらない。 


「王妃様にも研究を奪い取られた。

 しかも何を発表しても「どれもウォルトの盗作じゃないんか」と言われる!

 もう耐えられない、お前を殺して私も死ぬ!」

「自業自得だろ」

「ちょっと、ベッシュに何しているの!」


 ネスティの短剣を持つ手首を掴んだところで、ルマが走ってくる。

 その後ろから、のんびりとした大男が付いてくる。



 

 離せ、もう私は終わりなんだ!

 商店街のど真ん中で叫ばれると迷惑だし、駐在騎士が出てくると厄介だ。

 ルマに手足を縛られ魚のように暴れる男に、猿轡を付けて当身を食らわせ、僕の店に運んでもらった。

 運んでくれたのは、ルマと一緒にいた大男。


 あの男前、どこかで見たことがあるなと思っていたら、なんとルマが新しく入ったグループのリーダーだった。

 元々次の攻略ダンジョンにここの近くのダンジョンを考えていたので、その視察に来たらしい。

 ヘイツ・ブリュッケンナーと名乗った男前は、


「あの時、ネイド候の子息が魅惑のポーションと叫んでいたから思ったのが。もしかして君が魅惑のポーションの製作者か」


 と指摘してきた。

 え、そうなの!? とびっくりするルマをよそめに背中の荷物から、赤いどろりとした液体が入った瓶を取り出す。

 あれはロット番号9647。確かに僕が作ったものだ。

 

「以前、お得意先の貴族にもらってね。貴族の顔が白騎士そっくりだったから、気味が悪くて飲むのをやめていたんだ」

「それで持ち歩いていたのですか?」

「ああ、なんだかこの中のものが気になってね。いくら王立研究所が安全だと発表しても、プロの探索者からしたら怪しい以外の何物でない」


 流石は探索者、正解ですよ。

 そう僕は心の中で呟いて、彼から赤いポーションを預かる。

 ミドリとモモが下から瓶の中身を見つめていた。


 ヘイツは目を細めて、スライムたちと赤い瓶を見比べる。


「それの中身はスライムか?」

「いいえ。違いますよ。ただ、スライムが気になるのはしょうがないでしょうね。彼の体内にいるもの近種が入っていますから」

「なんだか物騒だな」

「物騒じゃないですよ。人は痩せるためなら寄生虫だって飲み込みます。あまり変わりません」


 アカを抱いたルマが、複雑そうに僕を見ている。


「ベッシュ、こんなものを作っていたんだね」

「……もっと前から言おうと思っていたんです。ごめんなさい」

「私、もう少しベッシュに信頼されていると思っていた」

「……ごめんなさい」

「ルマ。男は信用するしないじゃなく、女の子にはかっこ悪いところを見せたくないもんだ。ベッシュ君、君はこの研究でルマに避けられたくなかったのだろう? 

 聞いたよ、ルマのコンプレックスを褒めて、更には「いいとこ探し」なんて随分と格好いいことをやっていたようだね。

 多分君はポーションをすでに飲んだことがあるのだろう。だから余計に言いづらかったのではないか?」


 ヘイツがフォローに、彼女は一度深くため息をついた。

 彼女は僕の顔をじっとみて、一度ため息をつくと、ずいっと顔を近づいた。

 至近距離にどきっとすると同時に気が付く。


 ルマの前髪が短い。

 僕の好きな目と顔が、あらわになって僕に迫る。

 思わず真っ赤になって見つめてしまう。


 ヘイツはおやおや、と眉を上げて僕らを見ていた。


「ねえベッシュ、私の顔が好き?」

「ははは、はい!」

「少しは、私のことを女の子としていいなって思ってくれる?」

「も、も、も、もちろんです!」

「なら私も伝えたいことがあるの」


 そう彼女が真剣な眼差しで口を開くと、同時に窓から見える廃坑が、爆発した。

 


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