スクエア
一 青田礼
目覚めたときには朝になっていた。
昨晩の事を思い出す。古びて、汚れたフィルムの映画のようだ。
「千、なんであんなことを」
自分は感慨を持てない。
親友カップルと彼女の約束の時間に近づいていた。
自分は体を床から起こし、数分で着替えを終える。
朝食に買い置きのパンを口に運ぶ。
玄関に放られた、食べることのなかった夕飯の食材が目に入る。腐らせるわけにいかないから冷蔵庫へ自分は袋ごと入れた。
大学に入るまで友達がいなかった。
積極的に人へ話しかけず。目立たない自分に興味を持つ人もいなかった。
自分は気にすることもなく、趣味に没頭した。
そんな僕を彼女らは迎え入れた。
「そのメガネ、いいデザインだな」
偶然、共通科目の講義で隣に座った彼。
「それって限定版の?」
「さっこが教えてくれたアニメのだよね」
体を乗り出して、自分の顔を確認する後ろの席にいた彼女たち。
「いりますか?」
「メガネが無くなっても大丈夫なの?」
「もともと伊達なので」
自分はメガネを彼女に渡す。メガネは好きでしているだけだ。
受け取った彼女は破顔する。
「好きなんですか、このアニメ」
「うん、男の子たちの熱い友情が燃えるよね」
趣味が合ったから、そんなありきたりな理由が彼女、縁幸子と好きあうきっかけになった。
縁の幼馴染である、黄見由奈に呆ける自分の顔をからかわれる。
その理由に気づいた赤川千は自分に肘をつつく。
「仕方ねーよ。童貞には耐性ないんだから」
「僕たち女の子の前で言わないでよ。さっこ、困っているじゃん」
立ち上がって黄見さんは抗議する。前屈みだからか、講師にその動きは気づかれていない。
縁は自分から貰った眼鏡をかける。興奮したのか顔が少し赤い。
見つめる自分に気づき、縁は自分に微笑みかけた。
自分がマンガや小説で知らない恋に落ちた。
気づけば自分は公園を通っている。
意識がどこか別の世界に飛んでいた。ここまで来た記憶がない。
足を止めてしまう。
この公園には多くの思い出が埋まっている。
自分たち、四人は行動を共にするようになっていた。
特別なことはない。今まで自分が経験してこなかった日々を過ごした。
その中、縁と二人で帰る日があった。
時間の経過とともに、自分の思いはより強くなる。
だから、慌ててしまい、公園を通る頃。
「縁さんのことが好きなんだ」
自分は呟いた。
縁の表情で失態に気づき、後悔の念が自分に押し寄せる。
頭が混乱状態になり、自分は発する言葉を失った。
「じゃあ、付き合おう。私も、好きなんだよ、青田くんのこと」
親友となった千に縁とのことを相談した。
千と黄見さんが付き合いだしたことも聞いた。
縁と初めて手をつないだのも、キスをしたのも、この公園だ。
色んなことがあっても、自分たちは深い仲の男女と言えない。
互いに男女交際は初めてで接し方がわからなかった。
一緒にいる時間は自分の心を暖める。それでも不安が押し寄せてきた。
今日の外出で仲を深めることに決め、自分は千に相談を持ち掛けた。
千は遊び慣れた風格だ。赤髪で長身な彼と大人しい自分が一緒にいる風景は奇妙で、通り過ぎる人たちは自分たちの方を見る。
いつも相談するのは自分で、千は答えるだけだ。自分は千に頼ってほしく思う。
人と関わらなかった業か、自分の迷う内容などちっぽけだ。彼女との仲を進展したいなんて、本当は相談する必要がないことだろう。
「ん、まあ、そんなことを心配するのはお前らしいな」
「らしいって、どんなのですか」
千はいつも明確な答えを与えない。人付き合いが上手くても、人との関わり方は試行錯誤らしい。千もたまに迷うと言う。
「とりま、飯食って頭軽くするこったな」
そう言って、千は一人暮らしする自分の家へ行くよう促す。
千の手には駅近くのデパートで買ったのだろう食材がある。
「千、ありがとう」
自分のこころは親友がいる喜びに満たされていた。
話すことなく、家にたどり着いた自分を迎えたのはよくわからない光景だった。汗を流し、揺れる千の姿が目に映る。
自分の体に何かが入っているのはわかるが、それ以上のことは気づかないようにしていた。
「ようやく」
去り際の千の声に艶めかしさがあった。
終わってから自分が犯されたことに気づいた。
自分は同性愛の存在を認めている。
ただ、自分にそれがあるかは別だ。
千に対しての戸惑いが自分の中に生まれていた。
思考の世界に囚われていたのに気付き、自分は周りを見る。
約束の時間より少し前に自分は待ち合わせ場所にいた。
「青田くん。大丈夫?」
「れいっち、何呆けているのさ」
自分の眼前は二人の女子に支配される。
千はいない。
自分は千と会ったときに、どんな顔をすればいいか迷っていた。小粒程度の安堵が心に落ちる。
「大丈夫だよ。楽しみであまり眠れなかったから」
自分は精一杯の笑顔をする。
縁と黄見さんは安心した顔を見せてくれる。
千とのことはどうなるかわからない。
だけど、二人の女の子が放つこの笑顔は守りたい。
自分はそう思った。
END
二 黄見由奈
甘い香りが僕の鼻を撫でる。
「由奈ちゃん、おはよう」
「おっはー、さっこ」
親友の縁幸子、さっこが笑顔を寝ていた僕に向ける。僕もさっこに笑顔を返す。
本当は僕にこの笑顔を受け取る権利はない。
僕がさっこの家に泊まることは珍しくない。
「由奈ちゃんのおかげで、青田くんと一歩進めるよ」
僕はこの子を汚した。
いつも、さっこと一緒にいた。
大の親友で、小学校も中学校も、高校も、そして大学も同じだ。
僕は他の子と比べて圧倒的に小さかった。
誉められるときは決まって。
「小さくてかわいいね」
と言われる。いやじゃないけど、僕は大人に見られたい。
さっこと親友になったのはさっこのイジメ。
背が誰よりも高いさっこは奔放になった級友にイジメられていた。僕は関わらないようにした、自分に矛先を向けられないように。
ある日、さっこが雨が降る中を走る姿を見つけ、思わず声をかけた。彼女の腕の中には捨てられた子猫がいた。
僕は子猫とさっこを傘の中に入れて、一緒に彼女の家へ向かった。
共働きの家庭だからさっこの家に両親はいなかった。
笑顔で、さっこは僕に礼を言う。
僕は彼女の笑顔を初めて見た気がした、何年も前から知り合いなのに。
濡れた体を温めるために子猫と僕たちはお風呂に入った。
さっこの体は同い年とは思えないほどキレイで、憧れた体型で僕は嫉妬した。
幼くして家事をこなすさっこは僕に夕飯を用意する。
「縁ちゃんって、大人でかっこいいな」
「え? 黄見さんの方が大人だよ」
思いを吐露した僕に、料理をするさっこは告げる。
「誰とでも楽しそうだし、私も黄見さんみたいになりたいな」
僕にとって言葉は生きるための手段。でも、さっこの言葉は思いだ。
それから、僕は級友たちを説得してイジメを止めた。
寂しい彼女の側にいるために。
「にゃーお」
僕の足に猫のシルがすり寄る。
「エサは貰っただろう」
「ふふ、昨日は由奈ちゃんと遊べなかったからね」
シルとの付き合いもさっこと同じくらい長い。
「あの時もこうやって話したね」
さっこは僕と同じことを思い出している。
あの時から二人とも成長した、特にさっこは背が、僕は胸が。
「由奈ちゃん、いつもありがとう」
さっこは疑いのない笑みを僕に向ける。
僕はこんなに汚れているのに。
僕のことを変わった評価した人はもう一人いる。
大学で出会った伊達メガネの彼、青田礼こと、れいっち。
大抵の人は僕に決まった評価をする。れいっちにはその評価をしている気配がない。れいっちに僕の印象を聞く。予測通り、慌てる。
「可愛いと思いますけど、僕と違ってしっかりしてて」
「してて?」
「誰とでも分け隔てなく話せて、カッコいいです」
その言葉はさっこがくれたのに似ていた。
れいっちにとっては体の特徴も性格も記号だ。
僕の小さな体も巨乳も、れいっちは受け入れて、こころを見ようとする。
本当に誰とでも分け隔てないのはれいっちだ。
そんな彼だから、僕は恋に落ちた。
そんな彼だから、親友も恋に落ちた。
「どうしたらいいかな、由奈ちゃん?」
友情が壊れるのは避けたかった。
僕は思いを殺して親友の背中を押すことに決めた。
「もう、迷っている暇があったら告白しちゃえ」
僕はれいっちの親友の赤川千の協力でさっことれいっちを二人にした。
先に告白したのはれいっちだ。気持ちをつぶやいて、あたふたして、カッコ悪い。だけど、れいっちらしい。
僕でも見たことがない顔をさっこはする。
僕が誰よりも汚れているのに気づく。さっこのことも僕は好きだ。
僕はさっこの隣で空を仰ぐ。
「でも、びっくりしたな赤川くんと黄見ちゃんがお付き合いするなんて」
「えー、一緒にいたら、そうなることもあるよー」
僕は嘘をついた。
赤川千とは男女の関係ではない。契約関係の方が正解だ。
さっこたちが告白しあったとき、赤川千から恋人のフリを頼まれた。ふたりに気持ちを知られないために受け入れた。彼の意図は知らない。
気持ちを知られることなく、僕は日々を過ごした。
僕はさっこの家に泊まって、約束へ一緒に行くことにしていた。
れいっちとさっこの仲は深くならなかった。多くの月日が流れてもふたりはキスから先に進まない。それがさっこを不安にした。
「青田くんに無理させているかな」
その言葉は、僕には悪魔のささやきだ。
「誘えば、いいじゃん」
「誘うって、私には無理だよ」
「大丈夫、僕が教えてあげる」
さっこは性的なことに興味はあっても知らない。僕を疑わない。
僕はさっこの唇を塞ぎ、ベッドに押し倒す。
「女の子同士でもできるんだよ」
さっこと僕は深い夜に落ちていった。
約束の時間はもうすぐだ。
れいっちが約束の五分前にも来ないのは珍しい。
「よかった、青田くん、来た」
不安そうな顔を振っていたさっこに笑顔が咲く。
「迎えに行こう、さっこ」
僕はさっこの制止の声も聞かずに、手を引っ張る。
僕とさっこは繋がった。
さっこと、れいっちも繋がる。
間接的にもう一人の好きな人と繋がれる。
汚れているのに僕は幸せ者だ。
END
三 赤川千
時間はすでに過ぎていた。
二人の女と親友の男と出かける約束をしている。女の一人は俺と付き合っていることになっており、残りの二人は交際している。
遅れるのはいつものことだ。
今、俺の心を満たしているのは欲するものを手に入れた満足感だ。
長年苦しめられてきたが、答えは簡単なものだった。
「はは、そうじゃねーか。なんで思いつかなかったんだ?」
俺は異常かもしれない。だから?
物心ついた時から、違和感があった。
俺は女を恋愛対象として捉えることができなかった。体が反応しないことはない。行為そのものに問題はない。何度も試した。
だが、満たされない。
小説に目を通して、恋の感覚を探したことがある。
そして、知った、俺は女ではなく、男にしか恋ができないことを。
違和感の正体がわかっても、納得しかなかった。
気味が悪いから、俺を殺した。
髪は赤にした。耳にピアスの穴をあけた。体を鍛え上げた。彼女も作った。
俺は二度と恋をしないことに決めた。
腕時計を巻く。遅刻魔であっても、俺はこまめに時間を確認している。計画を建てるに時間は重要な情報だ。
俺のことを多くはチャラけた奴だと言う。それは俺が仕向けた印象だ。俺の脳には印象学、心理学を含め多くの知識を入れてある。加えて、人間観察をしない日はなかった。
完全なる頭脳派、それが俺の本質だ。情報は多いに越したことはない。
携帯電話に着信が入る。相手は恋人役だろう。
着信を無視して、目に入った携帯電話を見つめる。
俺の計画は高校卒業まで上手くいっていた。
にもかかわらず、容易く、計画は崩れる。
「そのメガネ、いいデザインだな」
彩色、形状が良いものだから俺は隣の男に声をかけていた。
男、青田礼は俺に無表情な顔を向ける。
「それって限定版の?」
「さっこが教えてくれたアニメのだよね」
後ろの女たちが話し加わってくる。
「いりますか?」
礼はアニメ好きの女、縁幸子にメガネを渡す。
縁が喜ぶ姿を見て礼は顔を赤くする。
礼の微笑みは愁いを帯びて、親が子を見るようだった。
ちびっこい女、黄見由奈に呆けた礼はからかわれる。
「仕方ねーよ。童貞には耐性ないんだから」
黄見が何か俺に言い続けているが、俺には聞こえていない。
失敗だ。俺は礼のことを好きになった。
俺は携帯電話にプリクラで撮った俺たち四人の写真を張っている。
撮られることを嫌う礼の写真が少ないのと、礼と一緒に写っているからであることを悟られないためだ。
気持ちが悪い。非倫理的で、執念深い。
それでもやめられないのだ。
「これを恋と呼ばずに、何を恋と呼ぶ」
誰もいない道の真ん中で一人呟く。誰にも聞かせるわけにはいかないが、吐かずにはいられない。
俺の恋が実らないのはわかっている。
だけれど、思いは果たせられる。
適当に俺は黄見との男女交際を演じた。
大学での彼女役に黄見を選んだのは礼との距離を保つためだ。
黄見の親友である縁は礼の彼女だ。二人は四六時中行動を共にするものだから、礼と行動を共にすることも多い。黄見が俺の彼女ならば、周りに疑問視されず、自然に礼と一緒にいることができる。
黄見が彼女役を断らないのも予測できた。
背が小さいくせに黄見は胸が無暗にでかい。顔立ちも良い。黄見に人気が無いはずがない。しかし、黄見に男ができる様子がなかった。
答えは簡単で黄見も礼のことが好きなのだ。
姉御肌な黄見は縁に思いを知られたくなかったのだろう。
「ねえ、いつも由奈ちゃんたちはどんなデートしてるの?」
いつも、歩行時の立ち位置は縁の両隣に由奈と礼、三人の後ろに俺だ。
女どもの話は面倒だから適当に聞き流すが、このことは危険性を感じる。
「なら、今度一緒にするか? ダブルデートってやつ」
答えに困った黄見に俺は助け舟を出す。黄見は便乗して、ダブルデートをするよう礼たちを促す。
二人は顔を真っ赤に染めてうなずく。
嫌でもわかる。二人とも何かしらの決意をしていた。
礼は俺に耳打ちする。
「ごめん、後で公園に」
俺は苦笑する。礼が俺に相談する場所はいつも公園だ。
表面的に人付き合いが上手い俺を、礼はよく頼る。
もっとも、深い人付き合いを礼は当たり前に出来てしまう。
一度解散した後、俺は夕飯用の食材を買いにスーパーに寄った。
公園のベンチで礼と合流する。礼を独占するこの時間は俺にとって至福のときだ。大抵、相談内容が縁のことだが。
しばらく見えない星を礼は見つめ続けた後、口を開く。
「自分は、縁さんともっと深く繋がりたいのです」
「エロいことがしたいのな」
礼は顔を真っ赤にして、話を続ける。
俺は適当な相槌を打つ。
礼ですら肉欲を求める。それが人間の性なのだろう。だとしたら俺は?
俺はこの疑問を払拭するために、夕飯を口実に話を終えた礼に家へ向かった。
三度目の着信で俺は応答する。
予測通り、発信元は黄見だ。礼も一緒にいる。
口角は吊り上がった。
俺に犯された礼が、俺を見たとき、どんな顔をするか楽しみだ。
俺の恋は肉欲かもしれない、だから?
END
四 縁幸子
親友の寝顔を私は撫でる。
「由奈ちゃん、ありがとう」
黄見由奈は私、縁幸子の幼馴染で、恩人で、親友で、家族で、大切な人だ。
知っている、由奈ちゃんが実は怖がりで、真面目で、責任強くて、いつも私を守ってくれる。今回も、本当は経験なんて皆無なのに。
私より背が低い、大きな人のために私は朝食の準備を始める。
「やーい、でかおんなー」
男の子は無邪気に私をからかった。幼心には悪意がないかもしれない。だけど、私には地獄に思えた。
私の家には親がいない、両親とも仕事で忙しいから。
寂しさを誤魔化すため、家政婦さんに家事を教えてもらったりした。
私に対してのからかいは日増しに悪化し、イジメとなった。
巻き込まれないように、私の周りから人は消えていく。
そのことを強く感じたある下校時。
「みゃー」
「あなたもひとりなの?」
午後になって強い雨が降っていた。
段ボール箱に入れられた三毛の子猫は私を呼び止める。
その子が私自身のようだった。
「一緒にくる?」
一軒家は一人ではあまりにも広すぎる。
私は子猫入りの段ボールを手に雨中をかけた。
「ゆ、縁ちゃん。どうしたの?」
帰路半ばで私は同じクラスメイトの小さな女の子に呼び止められた。
人づきあいが上手な彼女は私と子猫のために体が濡れることを承知して、傘の中入れてくれた。
翌日、私とイジメをしていた子の間にその小さい体が割って入った。
彼女はその日から私の親友になった。
飼い猫のシルが私の足にすり寄る。
由奈ちゃんとも縁深い猫の要求に応えて、ご飯をあげる。
家に一人でいることが多い私のために由奈ちゃんは頻繁に泊まりに来る。
由奈ちゃんは広さの孤独を消してくれる。
「本当に頼ってばっかりだな」
私は男の子に恐怖を感じてしまう。イジメの主犯格が男の子だったからと言うのもある。
大学の講義中、男の人の声が聞こえて、驚いてしまう。
私は発生源である前の席を見る。
「それって限定版の?」
ちょうど、メガネをした男の人が横を向いていた。
「さっこが教えてくれたアニメのだよね」
由奈ちゃんが私の様子に気づいて、男の人を確認する。
最近気に入っているスポーツアニメのものだ。
男の人はメガネを外して、羨望の眼差しを向けていた私に差し出す。
「いりますか?」
私には男の人、青田礼が何を考えているかわからなかった。
ただ、青田くんに恐怖は感じなかった。
このまま男の人を克服できるかもと青田くんと行動を共にしていたら、私は青田くんを好きになった。
私が朝食のフレンチトーストを作り終えると同時に由奈ちゃんは目を覚ます。
「由奈ちゃん、おはよう」
「おっはー、さっこ」
由奈ちゃんは掛け布団を豪快に取り払う。背丈は低いのに胸囲が大きな肢体が露わになる。
由奈ちゃんはその体を捧げたい人がいたはずだ。また、私のために。
「由奈ちゃんのおかげで、青田くんと一歩進めるよ」
大学のカフェに由奈ちゃんと二人でいた。
「さっこ、れいっちのことどう思う?」
突然の由奈ちゃんの質問に私は息が詰まる。
「最近、れいっちの見る目が変わったよね」
由奈ちゃんは私の目を真っ直ぐ見つめる。
口調は軽いけど、由奈ちゃんはいつも真剣だ。今回も私を心配したのだろう。
「うん、男の人として好き、大好き」
私の言葉を聞いて、由奈ちゃんは優しく微笑む。
由奈ちゃんは私と青田くんを二人にさせてくれた。
告白は青田くんからしてくれた、青田くんらしい間抜けたものだったけど。
翌日には青田くんとの交際を由奈ちゃんに報告した。
「そっか、僕もあかっちと付き合うことになったから」
私は由奈ちゃんの手を取った。
私は赤川くんが苦手だけど、由奈ちゃんも恋をして、男の人と付き合える。
ありふれたことかもしれないが私にとって人生最大の幸福だ。
約束の時間まで余裕が大分ある。
「でも、びっくりしたな赤川くんと黄見ちゃんがお付き合いするなんて」
「えー、一緒にいたら、そうなることもあるよー」
どこか由奈ちゃんの顔に陰りがある。
赤川くんを気にしているのだろうか。
二人のデートがどうなのか気になって由奈ちゃんたちに聞いたら、一緒にデートをすることになった。
今までと違うこと、私は絶好の機会だ。
それに思うことがあった。
「青田くんに無理させているかな」
キスをする関係にまで私と青田くんはなった。
だけど、青田くんも男の人だ。人並みに性の神秘に興味があるはずだ。
「誘えば、いいじゃん」
由奈ちゃんは簡単に言う。
「誘うって、私には無理だよ」
男の人対する免疫がないために、私はそういう知識が全くない。
「大丈夫、僕が教えてあげる」
由奈ちゃんの唇が私の唇に重なる。
「女の子同士でもできるんだよ」
約束の時間がもうすぐなのに青田くんが来ていない。
青田くんの性格上、もっと前に来ているはずだ。私は青田くんを探す。
「よかった、青田くん、来た」
呆然とした顔で青田くんは遠くを見つめていた。
「迎えに行こう、さっこ」
由奈ちゃんが私の腕を引っ張る。
助けてもらった分、頑張ろう。
END