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THE NEWWORLD  作者: cyan
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8.黒竜の邂逅(ヴェルフィアード視点)

妾が『黒竜の神魂かもす(刀剣)』と身を変えてから、1年が過ぎた。やっと召喚した「神」が目覚めよった。

寝坊助な奴じゃ。

アイテムボックスの中じゃと話しかけることもできぬ、早う出してくれんかのぉ。退屈じゃ。


まぁ、もう一眠りするかの…。





暫しの眠りから覚めたら「神」が妾を手にしておった。


「綺麗だ…」


そうじゃろう!そうじゃろう!

妾の美しさに魅とれておるわっ!

苦しゅうない、堪能いたせい!


「嗚呼、この刀で無双したい…」


わはは…は?


「くくっ、お前は戦闘狂バトルジャンキーか」


無双などと言うから反射的に声をだしてしもうたではないか。威厳ある第一声を考えておったのに、台無しにしおってからに!

しかも妾に気付かず戦闘態勢になりおって。よもや脳筋じゃなかろうな?


「慌てるでないわ。妾はお前の手の内におる」


「まさか喋る刀?」


「もう少し言い様はないのかぇ…。妾は黒竜ヴェルフィアードじゃ」


厳かに聞こえるよう言うてやったが反応がないのぉ?

はっ!この無表情は冷たい目というやつか!

そういえば、スサも最初はこんな目しておったわ。すぐに面白いと気に入っておったからな、問題なしじゃ。


「なんじゃ?妾の話し方に文句でもあるのかぇ?」


「いえ、文句ないです。つか、心を読まないでください」


「心など覗かなくともわかるわ。まぁ良いわ。この話し方は『スサ』が気に入っておったからな。お前も好きになるじゃろうて」


ふーむ?こ奴は表情の変化がないのぉ?

まぁ、人間の考えることは大抵同じじゃし、どうせイメージが違うとか思うておるのじゃろう。

ちと、からかってみるかの。くくくっ。


「細かいことを気にするでないわ。禿げるぞ」


「禿げるかっ!」


「あはははっ!小気味よいな!」


おおっ!声音に感情がでておるが、器用に無表情で言い返しおるわ。面白いのぉ。


わははははははははっ。



ふー。ちと笑いすぎたかの。

あまり時間かけてからかってもしょうがなかろう。

さっそく本題に入るとしようかの。



「さて、お前をこの世界に召喚した理由を説明しようかのぉ」





◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇





妾が「神」としてこ奴を召喚した理由を話す間、多少は口を挟むが大人しく聞いておったわ。召喚条件の折りに少々妾が感情的になったのは愛嬌じゃ!

ふむ。妾の話を理解しておるようじゃし、脳筋ではないのかのぉ。

能天気なんじゃろうと認識を改めておったら、能天気ではない質問をしてきおった。


「ねぇ、私の前に神になったプレイヤーいたよね?その人ってどうしたの?」


「なんのことじゃ?妾では世界を保てぬようになったから、お前を召喚したのじゃよ」


危うく声が震えるとこじゃった。

このまま白を切りとおせるじゃろうか…。


「さっき、『召喚条件もより厳しくした』って言ったよね?ということは、私の前に誰か召喚てるはず。それに、ここって私と同じ文化圏で生活してた痕跡が残ってる」


「…ふぅ。もっと能天気な奴じゃと思っておったのじゃがなぁ。細かいことは気にするでない、禿げるぞ?」


気を反らして逃げ切れるじゃろうか?


「いや、もうそのボケいらないし、能天気とか失礼なこと言わないでよ。…で?」


「で、とはなんじゃ?」


「私の前にいたプレイヤーはどうしたの?」


「・・・・・・・」


無理じゃった。妾は元来嘘をつけぬ性分なんじゃ…。

前の「神」であった『スサ』のことを話して、こ奴はどう思うじゃろうか。

同じ末路を辿るかも、と恐怖するやもしれぬ。

召喚の条件でこ奴には言わなんだが、妾が重要視したのは召喚後に得られるスキルに「精神異常耐性」があるかどうかじゃ。

このスキルが得られるということは、これまでの人生で培われたモノがあるということじゃ。

精神的苦痛に耐えうる、某かの過去を持っておるということじゃろう。

話しても大丈夫やもしれぬ…。





◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇





妾が最初に召喚したのは、スサノオという魔人族じゃ。

ただ魔力の高いの者を選らんだだけで、召喚の条件などつけずに連れてきてしもうたのは妾の落ち度じゃったな…。


当然「神」として、この世界の安定を担ってもらわねばならぬことを話して聞かせたのじゃ。


「よっしゃっ!異世界最強チートきたあああああっ!」


ようわからんが、喜んでおるようじゃった。

意気揚々と質素荘厳であった神殿を改造しおったわ。

妾が神殿奥地下の魔力回復聖堂だけは、弄るなと口酸っぱく言わなんだらどうなっておったことやら…。


「神」となったら魔力で糧を得るのじゃから、食事など不要じゃと教えても、食べることはやめられんとか言うておったしのぉ。

使いもせん排泄所も作るし、汚れなどつかぬのに湯浴は毎日しとったのぉ。ほんに人間臭さが抜けぬ奴じゃった。


ただ、この世界で自由に生きて良いと、以前のように旅に出たら良いと何度言うても、頑なに神殿とこの森の外には行かなんだ。


「俺が出て行ったら、ヴェフィーが寂しいだろ?」と言って。


確かにスサの時、妾は黒竜の姿のままであったから、この森から出る気はなかったのじゃが。それは妾がこの神殿の森より外に出ると人々が恐怖するからであって、スサには関係のないことなのじゃがなぁ。


「見た目がでっかいだけなのに、なんでヴェフィーが閉じ込められなきゃいけないんだよ!」とも言うておったな。


外見だけではなく、妾の魔力が強いのが理由じゃと言うたら考え込んでおったようじゃが…。

スサはこの世界の者と会うのを嫌っておった。いや、怖がっておったと言うほうが正しいじゃろうか。


100年、200年と共に過ごす内に、徐々にスサの様子がおかしくなっていきおった。妾とも話すことがなくなり、神殿に籠って出てこんようになった。

孤独にスサの精神が蝕まれていくのが痛々しく、何もできぬ己に腹立たしさが募るばかりじゃった。

妾が傍らにおったとしても、所詮は人間ではないのじゃから、拭い去れぬ何かがスサの中に澱のように溜まっていったのじゃろう。

繰る日も繰る日も、自らを傷つける異常な行動をとるスサを見るのは、我が身を裂かれるよりも辛いものじゃ…。


幾日ぶりかにスサが話しかけてきおった。


「なぁ、ヴェフィー、森の外に出たら俺もヴェフィーのように怖がられて、どっかに閉じ込められるのかな?」と。


その時になって、妾はやっと解ったんじゃ。

スサは自分と妾を重ねて見ておったのじゃと、だから外に出るのを怖がっておったのじゃと…。


この世界で「神」となったからには、自らを傷つけることはできても、死ぬことは許されぬスサの精神は限界にきておった。



スサの願いを叶えることしか、妾にはできなんだ…。





◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇





じゃが、やはり全てを語って聞かせる気にはならぬ。

嘘はつきたくないしのぉ…。

結局、妾が言葉にしたのは事実だけじゃった。



「妾が喰ろうてやった」


「喰らう?」


「そうじゃ。神を喰らうことで、暫くは妾にも神と同様に魔力を循環させることができるからの。だから喰ろうた」


「どうして喰べたの?」


「喰ろうてくれと頼まれたからの。それだけじゃ」


ただスサの願いを叶えたかった、それだけじゃ。

そして愚かな妾はこの世界を棄てることもできぬのじゃ。

今度は間違えぬ。妾も共に歩むゆえ、生きてくれぬか?

言えぬ言葉があるのは存外にしんどいものじゃな、と思っておったら珍妙なことを訊いてきおった。


「私も喰べるの?」


どこからこ奴を喰らうことになるんじゃ?

もしスサと同じようになってしまえば、可能性はあるやもしれんが…。


「……お前が、喰らってくれと言えば、な」


「お願いしなきゃ喰べないんだ?」


「お前に御柱として存在してもらう方が妾も楽じゃからのぉ。妾はのんびりと寝ていたいんじゃ」


問いかけの意図がつかめぬが、大した考えもなく、戯れ言を交えて「生きてほしい」と伝えてしまっておった。

妾も女々しいのぉ…。



「わかった」


「もうよいのかぇ?」


返ってきた短い返事に驚き、つい聞き返してしもうたわ。


「話す気ないくせに。禿げたくないからね、気にしないことにするよ」


「あははっ!ほんにお前は優しいのか能天気なのか!」


墓穴を掘ったとヒヤヒヤしておったのが馬鹿らしくなってしもうたわ。いや、話したくない妾の気持ちを感じ取っての言葉じゃろうな。


「利己的なだけだよ」


「そうか。ふふっ」


ほんに優しい奴じゃのぉ。

惜しむらくは、笑ったり怒ったり、そんな当たり前の感情をださぬことじゃな。

いつかその表情を崩してやりたいのぉ。



「ねぇヴェフィー、いくつか質問したいんだけど」


「…っ!」


不意に聞こえた懐かしい呼び名に、不覚にも泣きそうになるではないかっ!まったくもって恐ろしい奴じゃ!


名前が長すぎて呼びにくいから、愛称をつけてやると言うてきおったスサを思い出してしまうじゃろうが…。

愛称なら普通は「ヴェルド」じゃと言うても、この世界の人間とは同じ呼び方はせぬ、と最期まで直さんかった馬鹿な奴じゃ。


「ヴェフィー?」


「す、すまぬの。ちと寝そうになっておったわ。ほれ、質問とはなんじゃ?妾が教えてやってもよいぞ」


妾の動揺をなかったもののように接してくるのが面映ゆいのぉ。

次いで訊いてくることに答えておると、少しだけこ奴のことが解った気がしたんじゃ。

「無双じゃ、無双じゃ」と囃し立ててやれば、満更でもなさそうに楽しそうだと言いおるし、精霊をとても大事にしておるようだし。

排他的にみせて、心根の優しい奴なんじゃろう。


しかし、頑強なまでに表情がくずれぬのはなぜなんじゃ?

悶々と考えて妾は一つの答えにいきつき、無意識に訊ねてしまっておった。



「…お前は妾を恨んでおるじゃろぉのぉ」


「ん?いや、別に恨んでないよ」


「…親や兄弟、大事な相手はおらんかったのかぇ?」


「そーだねぇ。特に、いないかな」


「…ほんに、会いたいと想うたりせんのかぇ?」


「両親は小さい時に事故で死んでるよ。一人っ子で兄弟はいないし。中学まで育ててくれた親戚達とは、まぁ色々あって折り合い悪くなって絶縁状態だし。親の保険金で生活には全く困らなかったから、高校から独り暮らししてたし。友達も当たり障りなく、まぁ関心なかったんで、深い付き合いあった人もいないし。っていうか、戻れないなら、この世界で気ままにいるのもいいかと…」


「ほんに、悲しくないのかぇ?」


「うーん、そういう思いはないな」


淡々と話しておるが、もっと深いところで今のこ奴を形作ったモノがあるように思うた。妾にも語りたくないものがあるように、こ奴にもあるのじゃろう…。


「お前の顔に表情がでんのも、その生き様ゆえかの…」


「いや、まぁ、世の中にはよくあることだよ?良い人もいれば、悪い人もいるし。人によって良いか悪いかなんて千差万別だしね。無表情これも私の個性の一つだよ。それに、たまに見れる笑顔なんてレアで神様の御利益あるかもよ?」


深刻になった妾を元気づけるためか、軽く戯れ言を言うてくれおる。

いや、案外それは本気で言うておるやもしれぬな。

こ奴は能天気じゃからなっ!


些か疲れた妾は眠ると告げて静かにしておると、優しい声が落ちてきおった。



「おやすみ、ヴェフィー」







「スサもお前くらい能天気であったら良かったのじゃろうな…」



お読みいただき、ありがとうございます。

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