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THE NEWWORLD  作者: cyan
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7.召喚の理由

ヴェルフィアードは語る。

私を召喚した理由は、この世界の柱となる神が必要だったからだと。


この世界は神の魔力で保たれているらしい。

正確にいえば、世界の魔力を吸収、還元し、循環させて世界に安定をもたらすことのできる存在が神なのだそうだ。

誰かの信仰を集めることも、願いを叶えることも、魔王を倒す勇者を手助けするようなこともなく、ただ御柱として存在するだけでよいのだと。


今はその魔力の循環が滞っている影響で、この世界の安定が害われており、様々な種族のバランスが乱れてきているそうだ。食物連鎖的な自然淘汰はあって然りだが、バランスが乱れた世界は崩壊の一途を辿る。

魔物の異常発生により狂廃化した魔物が増え、自然を、人族を脅かしだした。魔物に対抗する人族もまた自然を貪り尽くしていると、ヴェルフィアードは憂いをみせる。


この世界が小さな泡のように誕生した時に、ヴェルフィアードは世界の意識を持って生まれたと言う。

だから、この世界のすべてが愛しい我が子なのだと。


ならば、ヴェルフィアードが神ではないのかという問いには、否と応えが返ってくる。

神という呼称も、世界の理を知る人族が後からつけたそうだ。もっとも世界の理を知る人族も今はいないらしいが。

まだ世界が小さく、種族も少なかったころはヴェルフィアードの魔力でも支えられていたが、大きくなりすぎた世界を支えるだけの魔力を循環させられなくなったと哀しそうに言う。

大きくなりすぎた世界を保つために、ヴェルフィアードが目をつけたのが私がいた世界のオンラインゲーム『THE NEWWORLD』だった。



なぜそこでゲーム?

というか、所詮はゲームだと思うんだけど…

私がいた地球には魔力とかないし!



オンラインゲーム『THE NEWWORLD』は、この世界と酷似しているそうで、世界を繋げるのが簡単だったそうだ。

かつ、ゲームアバターは魔力のある人だから、条件に合致するプレイヤーを召喚できたというわけだ。

あっさりと、元の世界に戻れないことも告げられた。

簡単に言われてもこっちもいい迷惑だと言うと、誰でもよかったわけではない、召喚条件も前より厳しくしたんだと、ちょっと怒られた。

最低条件は、鬼人族でヴェルフィアードを単騎討伐できること。

そんな条件満たすプレイヤーなんて、まずいないと言えば、だから500年近く待ったとまた怒られる。

他にも選定基準はあるとか、召喚に応じるか否かは当人に選択させているのに、とかぶつぶつ言っていた。



理不尽に怒られてる気がするー

500年ってどんだけ気が長いの…

選択って私が新サーバーと勘違いしたアレ…?

というか、私の前に誰か召喚してるよね?



「ねぇ、私の前に"神"になった人いたよね?その人ってどうしたの?」


「なんのことじゃ?妾では世界を保てぬようになったから、お前を召喚したのじゃよ」


召喚するのは私が初めてであるかのように言うが、ヴェルフィアードが発した一言で嘘をついているのは明白だ。

誤魔化そうとしているのか、隠したい何かがあるのか。


「さっき、『召喚条件もより厳しくした』って言ったよね?ということは、私の前に誰か召喚てるはず。それに、神殿ここって私と同じ文化圏で生活してた痕跡が残ってる」


オンラインゲーム『THE NEWWORLD』は、中世ヨーロッパの雰囲気をベースにファンタジー小説によくある世界観となっている。

この世界にゲームのそれとかけ離れて、現代日本にあるようなシステムキッチン、バスルーム、水洗トイレを持つ文化があるとは思えない。

疑う理由には十分だった。


「…ふぅ。もっと能天気な奴じゃと思っておったのじゃがなぁ。細かいことは気にするでない、禿げるぞ?」


「いや、もうそのボケいらないし、能天気とか失礼なこと言わないでよ。…で?」


「で、とはなんじゃ?」


「私の前にいた人はどうしたの?」



「・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」




「妾が喰ろうてやった」


同じ質問を繰り返した私と無言の応酬の後に、他にも召喚していたことは認めるようだ。やや剣呑な雰囲気が漂いだしたが、相手は手の中に握る刀だ。襲ってくるなら叩き折るつもりで続ける。


「喰らう?」


「そうじゃ。神を喰らうことで、暫くは妾にも神と同様に魔力を循環させることができるからの。だから喰ろうた」


せっかく召喚したプレイヤーを「喰らう」とはどういうことだろうか。ここで生活していた痕跡があるということは、環境を整えて長期的に過ごしていたのだと思う。

それに、召喚は「喰らう」ことが目的ではないはず。

召喚は大きくなりすぎた世界の魔力を循環させるために、純粋に「神」を得るためだったのだろう。

となれば、プレイヤーが「神」として在り続けることができなくなった原因があるとみるべきか。


「どうして喰べたの?」


「喰ろうてくれと頼まれたからの。それだけじゃ」


頼まれたから喰べたと言うヴェルフィアードは、それ以上は何も告げることはないとばかりに口を閉ざす。

おそらくこれ以上は聞き出せないのだろうと諦めて、一つだけ確認する。


「私も喰べるの?」




「……お前が、喰らってくれと言えば、な」


「お願いしなきゃ喰べないんだ?」


「お前に御柱として存在してもらう方が妾も楽じゃからのぉ。妾はのんびりと寝ていたいんじゃ」


ヴェルフィアードは冗談めかしているが、どこか悲哀しそうに言った。ヴェルフィアードと前のプレイヤーの間には「何か」があったのだろう。

原因は解らないままだが、無闇矢鱈に喰べられるわけではないなら善しとしよう。それ以上、前のプレイヤーについては訊かないことを決め短く応える。


「わかった」


「もうよいのかぇ?」


拍子抜けしたようにヴェルフィアードが問う。

自分に被害がないならば、関係ないと割り切れるのが私の長所だ。話したくないものを無理に聞き出す趣味もない。


「話す気ないくせに。禿げたくないからね、気にしないことにするよ」


「あははっ!ほんにお前は優しいのか能天気なのか!」


「利己的なだけだよ」


「そうか。ふふっ」


ヴェルフィアードは少し気分が浮上したように笑った。

空気が切り替わったのを機に、私は疑問に思ってたことを訊くことにした。




「ねぇヴェフィー、いくつか質問したいんだけど」


「…っ!」


ヴェルフィアードが息をのむのがわかった。


「ヴェフィー?」


「す、すまぬの。ちと寝そうになっておったわ。ほれ、質問とはなんじゃ?妾が教えてやってもよいぞ」


上から目線の物言いで何かを誤魔化そうとしているのがわかったから、そのままスルーして質問と確認をする。


この世界が異世界で、私はゲームアバターの姿で転移している。容姿が変わってると言うと、今が「神格」の姿で、「鬼人」には自分の意思で変化できるという。どの姿であっても魔力の循環には問題ないそうだ。

この世界のどこに居ても支障がないため、ここに籠っている必要もなく、冒険者のなって無双しに旅をすればよいと笑いながら言われた。「無双じゃ、無双じゃ」と囃し立てている。



んな無双連呼しなくてもー

というより、この場所から出ていってほしいっぽい?

まぁ、無双旅も楽しそうだけど!



基本的にゲームでできていたことは可能であり、この世界にも精霊がいるためNPC精霊も意思を持つようになったらしい。

その精霊のウラハが行方不明だから、探す方法が知りたいと言うと、転移の際にバグったとせいだと謝られた。


解決方法は至って簡単だった。

最初に試した、送還➡召喚でリロードされると言う。ただし、実体化で肉体を持ってる状態で再召喚を行っても、肉体を維持するために私の魔力を吸収してしまうらしい。

ではどうすればよいかというと、私が精霊へ無意識に流してる魔力を弱めて実体化を解けばよいそうだ。

魔力のコントロールができれば簡単に行えると言う。上手くコントロールできないなら、一度『鬼人』になって魔力量を抑えれば、精霊の実体化が解除され、再召喚が可能になるそうだ。

元来、鬼人族は魔法が使えない種族だから、今の魔力コントロールが下手な私なら、勝手にゲーム時代の魔力感覚で抑制されるはずだ、と言われた。

ちょっと馬鹿にされた感じがしたが、その場しのぎででも『鬼人』になれば何とかなりそうだし、やり方さえ判れば今はよい。後でみんなが揃った時にしようと思う。


「なんじゃ、すぐに召喚せんのか?」


「あー、今はグラン、他の精霊たちに外の探索してもらってるからね。急に実体なくなったりしたら吃驚するでしょ?」


「別にかまわぬではないか。全員ここに再召喚すれば問題なかろうて」


「いやいや、私がのほほーんとヴェフィーの話し聞いてる間に、あの子達は一生懸命に調べてくれてるの。待っててあげるのが主ってものでしょうが…」


「そういうもんかのぉ…?」


「そーゆーもんだよ。ウラハには、もうちょっと我慢してもらうことになるけどね…」


粗方の説明は済んだとヴェルフィアードは言うと、たっぷり躊躇ってから口を開いた。





「…お前は妾を恨んでおるじゃろぉのぉ」


「ん?いや、別に恨んでないよ」



「…親や兄弟、大事な相手はおらんかったのかぇ?」


「そーだねぇ。特に、いないかな」



「…ほんに、会いたいと想うたりせんのかぇ?」


「両親は小さい時に事故で死んでるよ。ひとりっ子で兄弟はいないし。中学まで育ててくれた親戚達とは、まぁ色々あって折り合い悪くなって絶縁状態だし。親の残した保険金で生活には全く困らなかったから、高校から独り暮らししてたし。友達も当たり障りなく、まぁ関心なかったんで、深い付き合いあった人もいないし。っていうか、戻れないなら、この世界で気ままにいるのもいいかと…」



「ほんに、悲しくないのかぇ?」


「うーん、そういう思いはないな」



「・・・・・・」



うん?

なんで黙っちゃうの?





「お前の顔に表情がでんのも、その生き様ゆえかの…」



あー、なんか私憐れまれてる?

んでも、うん、やっぱ何とも思わないしなぁ



「いや、まぁ、世の中にはよくあることだよ?良い人もいれば、悪い人もいるし。人によって良いか悪いかなんて千差万別だしね。無表情これも私の個性の一つだよ。それに、たまに見れる笑顔なんてレアで神様の御利益あるかもよ?」


「…ふっははっ!やはりお前は面白いのぉ!生来の能天気なんじゃから、もうちと感情をだせばよいのにのぉ。綺麗なかんばせがほんにもったいないのぉ」


褒められてるのか、貶されてるのか、相変わらず能天気と言われて憮然とする。そんな私にはお構いなしに、ヴェルフィアードは喋り疲れたから眠ると言い出した。

この神殿は『神』の所有物だから好きに使ってよいと言い残して、それ以上は話さなくなった。




「おやすみ、ヴェフィー」


鞘に戻すときヴェルフィアードが何か言ったように思ったが、聞き直しても応えはないだろう。

私はアイテムボックスに『黒竜の神魂』をそっと納めた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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