6.黒竜討伐後のログ検証
黒竜ヴェルフィアード討伐後のログの検証に取り掛かるのはよいが、グランたちにはログの内容が解らないらしい。
読み上げて聞かせてもよかったけど、この神殿周辺のことも知りたかったので、私が検討する間に周辺の探索をしてもらうことにした。
私が目覚めるまでの1年、神殿内での行動に留めていたそうで、3人とも初めて外に出ると言う。
なんと1年も眠ってたのか!
寝過ぎでしょ、私
起こしてくれてもよかったのに…
いざ周囲の探索をさせるとなると、初めてのお使いにだす心境で心配になる。
つい、くどくど言ってしまうのは親心だろう。
「必ず3人で行動すること。魔物に出会ったら戦闘してもいいけど、自分たちの安全を第一に考えること。まぁ、余裕があったらどんな魔物がいるか見たいから持って帰ってきてくれるといいかな。あと、もし人に出会ったら穏便に話し合いをして、できればここまで来てもらえるようにお願いしてね。とにかく、無事に帰ってくることを念頭に行動するように!」
「かしこまりました」
苦笑混じりで返事されたけど、いくら心配しても足りないくらいだ。それはお互い様のようで、アリアには建物から出ないように念押しされてしまった。
「主様がおられるこの神殿に、隠蔽と物理魔法防御の結界をかけておきますので、絶対にここからお出になりませんように」
「はーい」
おそらく私のステータスなら、世界が壊れない限り大丈夫だと思うのだが、心配されるのが嬉しかったから大人しく返事をしておく。
出発前の会話を切り上げて、3人を送り出した私はベッドのある小部屋に向かった。
また石の床に座り込むのが嫌だったので、ベッドに腰掛けて一項目ずつ検討を始めることにした。
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【黒竜ヴェルフィアード(神格) 討伐成功
成功報酬 『神格』獲得
全ステータス限界突破
使役精霊実体化
アイテムボックス容量無限
神格・鬼人変化任意可能
成功報酬 『黒竜の神魂(刀剣)』獲得
黒竜ヴェルフィアードの化身
所有者固定・貸与不可・譲渡不可
単騎討伐成功報酬 『異世界への挑戦』獲得
異世界へ転移が可能
転移後は帰還不可
異世界への転移を実行しますか?】
【 YES / NO 】
【 YES 】
【異世界への転移を開始します。
・・・・・・実行中・・・・・・実行中・・・・・・エラー発生・・・一部修復完了・・・誤差修正完了・・・・・・実行中・・・・・・・・・転移完了しました】
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ログの一番最後「単騎討伐成功報酬 『異世界への挑戦』獲得」が今の状況に対する肝要な部分だと思う。そうは思うが、手の付けようがないとも思うので、後回にした。
まずは、成功報酬からだ。
『神格』獲得と全ステータス限界突破は、ステータス画面でさっき確認した。種族が神になっているのは、この『神格』獲得の影響だろう。
しかし、ステータス限界突破なんてゲームではなかったと思う。ヴェルフィアード討伐クエストの攻略サイトでも聞いたことがない。
同じように、使役精霊実体化なんてのも初耳だった。精霊とは魔力の塊のようなもので、見えるけど触れることができない設定だったと思い出す。グランに違和感なく触ってたが…。
アイテムボックス容量無限、これは攻略サイトに載っていた「アイテムボックス容量拡大」の上位版だろう。容量無限、と多少変わってはいるが、クエスト報酬で手に入れたかった一つだ。
プレイヤーは手に入れたアイテムをアイテムボックスに収納することで大量に所持できる。
ただし、その容量は上限があって、アイテム種類は300種まで、1種は99個までだ。それを超えてアイテムボックスに収納しようとしても、収納不可で入れられない。あまりにも少なすぎる。
超過するアイテムは売って換金するか、主要都市に設けられている倉庫に預けるかだ。倉庫の利用にはお金がかかったが、コレクション気質の私は利用していた。
あー…
倉庫の中に入れていた物、どうなったろ?
アイテムボックスも中身を確認しないとねー
神格・鬼人変化任意可能、これはどういう意味だろうか。
確かプレイ開始時は「人族」からスタートで、レベルを上げて種族変更クエストで獣人族・妖精族・魔人族・妖魔族・鬼人族に変更できた。変更した種族を戻すことはできなかった。
もちろん人族のままプレイをすることも可能だ。ゲームバランス的にはパーティープレイでないと、魔物との戦闘もクエスト攻略も完全に無理だったけど。
種族変更するとステータス補正があるから、戦闘スタイルに合わせて変更する。容姿も若干変わるので見た目で選ぶプレイヤーもいた。
獣人族はケモ耳と尻尾、妖精族は妖精の羽、魔人族は額に第三の目となる邪眼だ。妖魔族は容姿が二足歩行する蝙蝠や蜥蜴、蛙の異形になるから人気薄だったし、鬼人族はクエストの難易度が高くて選ぶプレイヤーは少なかった。
鬼人族のクエスト難易度が高いのは、ソロ戦闘でしかドロップされないアイテム収集や、ソロで指定の高レベル魔物の討伐が条件だったからだ。必然的に人族で最高レベルまで上げないと無理だったし、自虐プレイとして嫌悪されていた。
他の4種族は、ドロップ率の高いアイテムだったり、魔物討伐もパーティーで参加可能だったりとお手軽だった。
でもさー、鬼人族ってカッコいいんだよ!
頭に二対の角あるんだよ!
つやつや黒光りする黒色の肌だし!
唯一「刀」もって無双できるし!
角と刀で無双乱舞!!
角と刀への余りある情熱を以て、普通は1人くらいしか持たない精霊を4人も使役して鬼人族になったのだ。
痛々しいモノを見る周囲の目に耐えて鬼人族になり、魔物の群れで無双乱舞していた私に『刀光剣影・影隻形単の鬼人 嵐雅』という厨二病な二つ名がついた。長ったらしい前半はともかく『嵐雅』という響きは気に入っている。
だというのに、今の姿はその面影もないのが悲しい。お気に入りの角もなく、黒色の肌は白磁色になっている。
神格・鬼人変化任意可能ってことは、鬼人の姿にもなれるってことだと思いたい。どうやって変化するのかは要検討だ。
って、ちがーう!
先にウラハのことを解決しないと!
そ、その前に「刀」だけ確認してもいいよね?
ウラハごめんっ!
最も手に入れたいと思っていた『黒竜の神魂』だ。
アイテムボックスに収納されているはずと思い、ステータスの時と同じようにアイテムボックスのことを考えると、目の前の空間が揺らいだ。
その中に手を突っ込み、『黒竜の神魂』を念じると手に触れるものがあったので、掴んで取り出した。
手にしているのは、長さ1メートル50センチ程のひと振りの刀。全体が黒一色に被われており、鍔と柄頭に龍の意匠が施されている。西洋の竜ではなく、東洋の龍の意匠が不思議だ。
重さを感じることはなく、手に吸い付くような感触に息をのむ。
鞘から引き抜き、刀身を眺め、我知らずうっとりとしてしまう。黒刃の刀身を貫いて走る稜線は美しく、波打つ波紋に心を奪われる。
「綺麗だ…」
感嘆の吐息とともにぽつりと声がもれた。
「嗚呼、この刀で無双したい…」
「くくっ、お前は戦闘狂か」
突然の嘲笑と声に反射的に立ち上がり、手にしている刀を構える。無意識に気配察知を行い、辺りを窺うが誰の気配も姿も見えない。
ここにはアリアの結界が張られているはずだが、結界は破られていない。最初から結界の中にいたのだろうか。
「慌てるでないわ。妾はお前の手の内におる」
「え…?」
妾…?
手の内って、え…?
おずおずと視線を手に持つ刀に向けると、刀身の波紋が赤黒く明滅していた。
「まさか喋る刀?」
「もう少し言い様はないのかぇ…。妾は黒竜ヴェルフィアードじゃ」
そういや、この刀ヴェルフィアードの化身だっけ?
えー…
でも「ヴェルフィアードじゃ」って
しかも「妾」って
「なんじゃ?妾の話し方に文句でもあるのかぇ?」
「いえ、文句ないです。つか、心を読まないでください」
半眼で睨まれた気がして口ごもりつつも、読心されたことに不満をもらす。
「心など覗かなくともわかるわ。まぁ良いわ。この話し方は『スサ』が気に入っておったからな。お前も好きになるじゃろうて」
喋る刀もとい、ヴェルフィアードは勝手なことを言う。
対峙した時は凄まじい咆哮で威圧し、黒く大きく強靭な体は堅い鱗に被われており、いつくもの武器を折られたことか。鋭い爪と牙、どこからともなく襲ってくる尾に戦々恐々とさせられたのに。
死にそうになりながら倒した黒竜ヴェルフィアードのイメージが音をたてて崩れた。
「細かいことを気にするでないわ。禿げるぞ」
「禿げるかっ!」
「あはははっ!小気味よいな!」
間髪いれずに突っ込みいれた私を笑う。ひとしきり笑って満足したのか、声音を改めてヴェルフィアードは話し出した。
「さて、お前をこの世界に召喚した理由を説明しようかのぉ」
は…?召喚した?
理由の説明?
あんたが原因ですか!?
お読みいただき、ありがとうございます。