表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE NEWWORLD  作者: cyan
4/33

4.過保護すぎるよ

「じゃぁ、いろいろ不思議なことになってるみたいなんで、現状確認と今後のことを相談しようか」


と言ったはよいが、私は立ったまま、グランたち3人は跪いたままでは話しにくい。

見回してもこの部屋には私が寝ていた石造りの寝台しかない。

そういえば、この子たちは部屋を出入りしてたと思いだして、どこか座って話せる部屋はないか尋ねてみた。


いま私がいる部屋は、この建物の最奥から地下にあり、ここから上がった部屋には椅子があるらしい。

この建物の中は、グランたちがちゃんと調べておいてくれたのだ。

あと小部屋が5つあって、それぞれ道具らしい物が置かれていたり、作り付けになっていたりするそうだ。

グランたちには用途が判らない物だったらしく、私の役にたっていないと謝られてしまった。しょんぼりしたわんこ耳と尻尾が見えたのは言うまでもない。



この子たち、やっぱ自分で考えて動いてるなぁ

子とか言っちゃうのはマズイかな?

でも、わんこだし…。



「ありがとう、気が利くね。判らないものは私も確認しに行くから、気にしなくていいよ。移動しようか」


「勿体ないお言葉です。では、ご案内いたします。こちらへどうぞ」


グランがそう言うと3人は立ち上がって、ファングを先頭に、私の数歩前にグラン、私の後ろにアリアが追従するように動いた。

護衛されているような並びにむず痒さを感じたが、気にしたら負けだと思い、首肯することで応えた。


部屋の扉は素材は判らないが、表面が滑らかに整えられた金属製のようで、西洋竜のレリーフが彫り込まれていた。

けっこう重量がありそうなのに、ファングは片手で軽く押し開けた。アリアが通り抜けるまで扉を支えて、ファングが最後尾から付いてくる。

石廊は両腕を拡げても届かない幅で、100メートルほど進むと階段があり、そこを昇って行くらしい。

照明もないのに仄明るい。さっきの部屋もそうだが、石壁がうっすらと光っているようだ。たぶん発光石を使っているのだろうけど、この建物全体に使用しているとなると、かなりの量だ。

階段を昇りながら発光石について思い出す。


ゲームでの発光石はそれほど価値のあるものではない。

というのも、アイテムとして手に入るのは小石サイズのもので、アクセサリー等の装飾品にしか使われないからだ。

魔法付与もできない、ただの光る石だ。

しかし、ここの石は2〜30センチにほぼ正方形に加工されている。この大きさの発光石はゲームでは手にいれることはできない。ましてや、建造物全体に使用する量など集めることも不可能だろう。

これはゲームの知識が当てはまらない可能性もあるな、と階段を昇りきったところで溜め息をもらしていた。


「このような距離を主に歩かせてしまい申し訳ございません。許可をいただけましたら、後ほど転移魔法陣を設置したいと思うのですが…」


溜め息を歩いていることの不服と思われたのか、グランが転移魔法陣の設置など言い出す。



どこまで過保護ですかっ!



確かに階段は長かった。

地味に数えていたら230段もあった。だからといって、転移魔法陣を敷くほどのものでもない。

転移魔法陣は特定の地点を指定して、移動を容易にする魔法陣だ。建物内でしか使用できず、ゲーム内では大規模ギルドホームを持つ人が使うのが一般的だった。自ギルド建物内の近距離転移にしかできないし、便利なのかどうかも、ギルドには所属していなかった私には無縁すぎてわからない。


「勝手に人様の物を改造しちゃダメでしょ」


「いえ、こちらの所有者は主となっておりますので、許可いただけましたら設置は可能でございます」


「・・・・・・ぇ?」


当然とばかりに言うグラン。後ろのアリアとファングを振り返っても、うんうんと頷いている。



ええええええっ?

所有者が私ってどうゆうこと?

買った覚えないし!



もう一度グランに「いかがなさいますか?」と訊かれても困る。


「あ、あとで考える…。とりあえず座りたい…」


「かしこまりました」


恭しく頭を下げる3人に軽い目眩を感じながら、促されるままに歩き始め、大広間のような場所に出た。

座るように勧められたのは、大広間を見渡せるように壇上に設置されている豪奢な1脚の椅子だった。

純金で形作られ、宝石で装飾された紅い布張りの椅子…。



むりーっ!

あれ玉座ですか!?

あんなとこ座れない!



確認のために10段上の椅子を指差し訊いてみる。


「・・・あそこ?」


「左様でございます」


「・・・・・椅子ひとつしかないよ?」


「主の神座にございます」


「・・・・・・・・皆で座れるとこないの?」


「他にはございません。ましてや、主と同じ卓につくなど畏れおおいことにございます。どうぞ、あちらへお掛けください」


「・・・・・・・・・・・嫌だ」


「あ、主?」


狼狽える3人なんて知らないとばかりに、私はキョロキョロと辺りを見回した。

どこか落ち着ける部屋があるはずとスタスタと歩きだし、他にあると言っていた5つの部屋を見ることにした。

おろおろと付いてくる3人を後目に、大広間に隣接している5つ扉を時計回りで開けては閉め、開けては閉めを繰り返す。


結果、落胆するしかなかった。

一つ目の部屋はベッドが置いてあるだけ。

二つ目の部屋も同じくベッドが置いてるあるだけ。

違いがあるとすれば、ひとつ目のベッドは使い込まれているように見えたくらいだ。

反対側へ回って三つ目の部屋はキッチンルーム。

システムキッチンに1メートル四方の木製のテーブルと椅子が2脚だけ。食器棚には2人分ずつ揃えられていた。

四つ目はバスルーム。

足を伸ばして入れる浴槽に、シャワーがついていた。

期待薄で開けた五つ目はトイレだった。

水洗トイレっぽいが、水を流すレバーなどはなかった。



なんなんだここ!

まるっと住宅じゃんか…

絶対、誰か住んでたよね!?



大広間の椅子だけが豪華で、あとは個人宅みたいになっていた。ただし、ガスや水などの配管はぱっと見ではわからなかった。どこも共通していたのは、魔力を含んだ小さな貴石が嵌め込まれていること。いわゆる魔道具かもしれない。

違和感しかない間取りと、落ち着ける場所もないことにどうしようと考え、仕方なく大広間の階段下に戻ってきた。

もう一度椅子を恨めしげに見上げた。


「あの、主様、階段がお嫌でしたら御運びいたします。ファングが」


アリアが心配そうに呼びかけてくる。

抱えて運ぶ気満々でずいっと1歩近寄るファングがいる。

そうだったのかと納得気味のグランがいた。

たかだか10段の階段を昇るのが嫌なわけではないのだが、3人の思考は私の斜め上をいっていた。

何気に力仕事をファングに振るアリアにも驚かされたが。


あの玉座もとい神座には座りたくない、他に皆で座れる部屋もない、諦めて私はその場にどかっと座り込んだ。

ぎょっとして困惑顔で互いを見合う3人に、近くに寄って座るように手招きする。


「ほら、こっち来て座って」


おずおずと近付き、片膝をつく姿勢をとる3人。

やっぱりその体勢になるのかと残念な気持ちになる。

もうちょっと打ち解けてくれてもよいのではないか…。


「あー。話しにくいから、足崩して座ってよ」


私は胡座をかいている自分の膝を叩いて、同じように座ればよいと示す。


「…それは御命令ですか?」


苦いものを食べたような顔でファングが訊いてくる。

こんなこと命令するのも変なのだが、そうじゃないなら出来ませんという空気オーラがでていた。

面倒になって、ファングの言葉に乗っかることにする。


「うん、そう。だから胡座でいいから足崩して。あ、アリアは女の子だから胡座はやめなよ?」


さすがに女性に胡座は勧められない。

正座、横座り、胡座と渋々だが座り直す様子に満足する。

ちなみに、座り方はグラン、アリア、ファングの順だ。



グランさん正座ですか

足が痺れても知らないよー

これって性格がでてるのかな?

アリア女の子なのに冷たい床でごめんねっ!



「さて、落ち着いたところで、情報の確認しようか」


「「「…はい」」」


腰を落ち着けたのは私だけで、3人は居心地悪そうにそわそわしている。そのうち観念するだろうと無視スルーしておく。

情報の確認といっても私にはわからないことだらけだ。

ゲームであれば、ある程度の基本情報をNPC精霊が所持していたはずだ。

知ってることを話せと言うより、質問形式の方が効率的だろうか。訊かれたことしか応えないとなっても困るけど。

ひとまず疑問に思っていることを頭に浮かべる。


ここ(たぶん異世界)がどこなのか。

なぜゲームのNPCが意思をもって動いているのか。

なぜ私の姿(ゲームアバターともちょっと違ってる)が変わっているのか。

ゲームの仕様はどこまで有効に使えるのか。

アイテムボックスに戦闘・魔法スキル、身体能力等々どうなっているのだろうか。

この建物内は安全そうだけど、外ってどうなってるんだろう。

外に出た瞬間、死んじゃうとかはやめてほしいな。

この誰か生活していたような変な建物はなんなのか。

なぜ所有者が私となってるのか。

そして、元の世界(日本)に戻ることができるのか。

まぁ、あまり戻りたいとも思っていないが。

他にも疑問があるけど一番は気になるのはこれだな。


「ねぇ、ウラハはどこにいるの?」

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ