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THE NEWWORLD  作者: cyan
32/33

32.報復は最も効果的に(ウラハ視点)

ヴェルフィアードと話し終わったあるじは静かに目を瞑ると、そのまま寝ちゃった。

昼間はいっぱい遊んでくれたし、ワームとの戦闘もあっていろいろと疲れちゃったんだね。


あと、あのゴミ掃除のことも…。

本当はやっちゃダメだったんだろうけど、ボクたちの気持ちをくんで許してくれた。別に怒ってくれてもかまわないのに。

ボクたちのしたことで嫌われてなければいいけど。

大丈夫だと思っているけど、やっぱりちょっと心配になる。


けっこう人族のことを気にしてる感じだから、今のうちにヴェルフィアードから情報収集しといたほうがいいかな。

あるじの寝顔を眺めて、アリアに目配せすればすぐに《遮音》の魔法をかけてくれた。


「主様にはゆっくりお休みいただきましょう」


「うふふー、アリアありがとーっ」


そう言って、ボクとアリアはにっこり笑いあう。

それじゃあヴェルフィアードと相対しますかーっ!


「ねぇ、でっかい黒トカゲさん、ちょっと訊きたいことあるんだけどー」


浮かんでる黒い刀に向かって呼びかけても返事がない。


ーガシャン


「おーい、黒トカゲ、なに無視してくれてんのー?」


注意をひくのに短剣を投げつけて言う。

直接ヴェルフィアードに触ると電気ビリビリらしいからね。


「……妾のことを、トカゲと呼ぶのか、小僧」


「でっかいトカゲじゃーん」


唸るような声をだして威圧してくるけど怖くないし、お前なんかトカゲで十分だ。

グランとアリアは何も言わない。ファングだけはビクビクしてるけど、動いてあるじが起きたらどうすんの。

そんなことになったら刻むよ?

さっき投げつけた短剣を霧散させて、もう一度作って手に握る。


「それよりさー、さっき人族のことで何か隠したでしょ?」


「な、んのことじゃ?」


惚けようとしても動揺が声にでてるよ?

そんなに知られたくないこと?

でも、あるじに不利になることなら話してもらわないと困るんだよねー。


「ほらぁ、人族(糞ゴミ)らが自分たちは『神による奇跡』だとかほざいてるって言ってたでしょー? そんなわけないよねー? それは否定してたっぽいしー。でも、ゴミの発生には何かあるんでしょー?」


「……何もない」


「えー、ないわけないよねー?」


ーガンッ!


今度は思いっきり短剣を投げつけてやった。


「これっ! やめぬかっ!」


短剣があたった衝撃で、ヴェルフィアードの体がふらついて、パチパチ青い火花が散る。

あれれー? 反抗的な態度ー?


《鎌鼬》《鎌鼬》《鎌鼬》


ーキンキンキンッ!


魔法で攻撃しても、甲高い音がして弾かれちゃった。

トカゲのくせになっまいきーっ!


「くっ! おのれっ!!」


ーバチッ!


「ぃったぁー…」


お腹の辺りに感じた痛みに蹲っちゃったよ。服が焦げていて、小さい範囲だけど赤くなってる。

ヴェルフィアードから雷撃を受けたんだ。触らなきゃ大丈夫かと思ってたら、まさか反撃してくるなんて、ね。


「っ! なぜ避けないんじゃ!?」


何かトカゲが騒いでる。

自分がやったくせに、うるさいなー。

攻撃されるなんて思ってなかったから油断してたなー。

うわぁー、どうしよう…。

あるじから魔力もらえば全部治るけど、これ、言えないしー。あるじが起きるまでに回復するかなぁ?


「大丈夫か!? どうなんじゃ!?」


ボクの前でヴェルフィアードが右往左往して、わーわー言ってる。うるさいー。


「あやつを起こすかっ!?」


は? なに馬鹿言ってるの?

無視してたらヴェルフィアードがあるじに向かう素振りをみせた。


「い゛〜〜〜っ!!」


眠っているあるじに近づこうとしたヴェルフィアードを捕まえた瞬間、ビリビリバチバチって、痛い痛い痛い痛いっ!


「放せ! 放すんじゃっ!」


放すわけないでしょっ!

あるじの安眠妨害なんてさせるわけないじゃん!

って、うー、ビリビリするー、いたいー…。


「ぅぅぅ…、ある、じ、起こ、さない、のっ!」


「わかった! わかったから妾を放せっ!」


勝手に動けても、ボクに捕まれた状態からは自力で脱け出せないらしいヴェルフィアードが喚いてる。

ボクとしては信用できないから解放したくないんだけど、ボクの考えが解ったようにグランがあるじとヴェルフィアードの間に動いてくれたから、やっと手を放すことができた。

いい働きするねー、グラン。

それにしても、手が痛い。

お腹よりも直に触った右手のほうが酷いことになってる。

これ、絶対あるじが起きるまでに治らないよねー…。

黒トカゲさいあくーっ!


「はあぁぁぁ……、馬鹿な真似をしおってからに…」


ものすっごいため息と呟きに、ヴェルフィアードの後ろめたさが滲んで聞こえた。

ふーん?

これ、使えるんじゃない?


「これ、キミのせいだからねー?」


「なっ!?」


赤黒くなった掌をヴェルフィアードに突きつけて、にっこり笑って言ってやったら、予想通り狼狽えているみたい。

まぁ、人族なんてモノすら庇護しようとするくらいだからー、身内ともとれるボクが“自分のせいで傷ついた”なら、罪悪感が半端ないでしょー。

お人好しすぎるね黒トカゲ!

さてさてー、それではさっさと吐いてもらいましょー!






ヴェルフィアードから聞きだしたことは、少しだけ不愉快だった。

だって、精霊の変化した先が人族だなんて言うからさー。

気の遠くなる時の流れの果てに、人族はおろか光球精霊からも失われた記憶だから関係ないって言うけど…。

遥か昔に光球精霊が人の形をとるようになって、そこからさらに変化を続けて今の人族になった、って何かボクたちに似てる気がする。

すっごい、いやーな感じ!


「それってさー、人族の起源が今のボクたちみたいってことー?」


もしかして、ボクたちも人族みたいなモノになってしまうとかだたら、と考えると悍ましさに身震いしちゃうよ。


「お前たちは全く異なる存在じゃ。そもそも、お前たちはこの世界の存在ではないからのぉ」


あるじと一緒で、ボクたちも不変だってヴェルフィアードが言うから、今はそれを信じるしかないかー。


「けっきょくさー、何であるじに人族の元が精霊だってこと言わなかったのー?」


「……あやつは、あまり人族によい感情をもっておらんじゃろ? それが、基が精霊であったと知れば、精霊ですら忌避するやもしれん。さすれば、お前たちはとも距離を置きかねんと思うてな……。独りで在るのは辛いものじゃ」


ちゃんと説明すれば、あるじは納得もしてくれるだろうし、ボクたちを棄てたりしないと思うけどね。

ボクたちもあるじに疎まれるのは嫌だから、知らなくても困らないことは言わなくていいけど!

ほんと、お人好しなだねー。

グランにどうするか目で問えば、片眉をあげて答えが返ってくる。


「もっと主にとって有意義な情報が必要では?」


「だよねー?」


ほらほら、使える情報を吐きなさーいっ!






「あんま知らないんだねー?」


「ぐっ…! わ、妾はここに留め置かれておる身じゃ! 仕方なかろう!?」


「そんなのボクしらなーい。これ以上のネタないなら、もういいやー」


やっぱトカゲはトカゲだったってことだね。

人族について知ってることなんて、ほんのちょっとだったよ。仕入れた情報は、昔に神殿ここに来たことがある人族から聞いたことで、しかも、何百年か前のことらしいから、変わってるかもしれないなんてー。


国に仕える騎士、魔術師がいた。

神殿から破門され元神官がいた。

荒事を好む冒険者がいた。


どんな人族がいたかってことが基本で、質問を重ねることで何となく推測するしかないなんて!

あとは、この神殿がある森にいる魔物は人族にとって高価な素材や魔石が獲れるらしい。それを材料に武具を作ったり、売って金貨にしたり、その辺りは前の世界と同じ感じなのかな。


あーあ、あるじが起きたら聞いたこと話して、褒めてもらうつもりだったのに、とんだ誤算だよ…。

仕方ない…、ないよりは、ましだよね?


あとは、ぐぐぐぐぐっ…って唸るヴェルフィアードに、確かめたかったことを訊きましょー。


「そうそう、最後のしつもーんっ!」


「……なんじゃ?」


「この世界にボクだけ召喚ミスったの、何でなのかなー?」


「・・・・・・」


おやぁ?

すぐに答えないってことは、何かしら原因を持ってるってことかなー?

原因不明って言うなら、これ以上何もしないでおこうかと思ってたけど、違うなら……報復じゃなくて憂さ晴らしなきゃ!


「もしもーし? 黒トカゲ聞こえてる?」


「……聞こえておる」


「あっそー、じゃぁ、答えてよ」


「……おそらく、妾の魔力不足が原因であったのじゃろう。思った以上にあやつの改変に魔力がもってかれたゆえ、な…」


ぼそりと「すまぬ」って聞こえた気がするけど、要はトカゲの実力不足だったってことだよねー。

そりゃね、あるじと世界が離れ離れになるよりは良かったんだろうけど、ちょっとだけ、ほんのすこーしだけムカつくから、意地悪したげよう!



いづぅあっ!



声を噛み殺しても、ボクの口からもれる呻きはしょうがないよ?

両手で握ったヴェルフィアードが、ガタガタ動いて喚いている。相変わらず、うるさいなー。

あー、うー、ビリビリ、バチバチ、キツいよー…。


アリアの息をのむ音が聞こえたけど、しらんぷりだよー。ちょっぴりグランが厳めしい顔してるけど、これも気にしなーい。


馬鹿なことしてるって自覚はあるけど、言葉でも責めるよりもこっちのほうがヴェルフィアードには堪えるからね!


「ウラハひでぇ…」


あはっ! 黙ってればいいのに、余計な一言が多いファングは、いつか毛皮を剥いでやる!

目を逸らしてももう遅いよー。


ヴェルフィアードが精神的に堪えきれなくなったのか、動くことも騒ぐこともなくなったところで手を放したげる。

いやー、両手が真っ黒焦げだねー。

痛いし、イタイし、いたいし…。


「ウラハ……」


アリアが心配そうにボクの手を取ったけど、するりと脱け出す。


「あるじにくっついてたら治るよー」


ファングのお腹に潜り込んで、あるじに抱きついて寝転がる。

あるじはいい匂いがして、あったかくて、ほわほわいい気分になる。

よろよろと離れていく黒トカゲはもうどうでもいいしー。

なんかグランがため息っぽいのを吐いてたけど関係ないね!


「……えぐぅっ!!」


またまた聞こえた余計な一言の発信元を、ぎゅぅって抓っておく。呻いても動かなかったのはえらいねー。

はいはい、じゃぁね、おやすみー。






結局、あるじが起きてもボクの手は全部治ってなくて、アリアの目配せでそれがわかる。

なら、もうちょっとくっついててもいいよね!


「あるじが、ぎゅってしてくれたら起きるー」


あるじにお願いしたら、ぎゅって抱きしめてくれた。

それから、流れ込んでくる濃いめの魔力にびっくりした。

宥めるように背中をぽんぽんってされると、ボクの手はキレイに治った。


あれ? 気づかれた? なんで?

あるじは何も言わないけど、ボクの回復に魔力を注いでくれた。これは完全にばれてると思う。

うー、敵わないなぁ!

まぁ、あるじに隠し事なんて無理な話だよねー…。

アリアの視線もキツくなったことだし、しょーがない、起きますよーっ!

お読みいただき、ありがとうございます。

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