30.凹みのち狼(ファング視点)
いま、俺は最高に気分がいい!
マスターが「ピクニックに行こう」って言ってくれて、みんなで湖に行った。ピクニックって外で何か食べることらしいけど、食べ物ないけど遊びに行こうって言ってくれた。
もともと俺は何にも食べないけどさっ!
マスターが俺たちと一緒にいてくれるだけで嬉しかった。地図作成の途中で見つけた湖はキレイで、マスターにも見てほしかったし。
魔法で水遊びしたし、くまごろーが来て食べ物持ってきたから、マスターは完璧なピクニックできたんだ!
くまごろーえらいよっ!
けっこう遊んだあとは、獣化した俺に凭れてマスターが眠ったからグランたちは精霊探しに行って、けっきょくその時は精霊は捕まえられなかったけど、俺とマスターの2人ですっげぇ幸せだった!
マスターはいい匂いがするんだ。
何の匂いって訊かれても困るけど、お日様とか草木の緑が濃い感じで、ちょっと花みたいな甘い匂いもあって、とにかくいい匂いなんだ!
ずっと嗅いでいたかったけど、あんまり鼻寄せると起こしそうだったから、ずーっと寝顔眺めて我慢してた俺ってえらいと思う。
そうそう、マスターの鬼人姿も久々に見れたんだ!
あれ? なんで鬼人になったんだっけ?
まぁ、いいや!
神格姿もキレイだけど、鬼人は武人って感じで俺は好きなんだよな。月明かりで銀髪がキラキラしてて、キレのある動きで黒刀を振るう姿は見惚れるしかなかった。
精霊だってマスターに見とれて、つい寄って来ちゃうくらいに格好よかったんだ!
精霊といえば、俺たちみたいに人型じゃなくて、まるい光の塊みたいなのだった。精霊に触ったけど、ほわほわ温かくて、ぐにぐに形も変わって面白かったなぁ。また触りたい。
ここの精霊はいろいろ大変みたいな話をグランとしてたけど、あんな難しい話は俺の手に余るってなもんだ。今回みたいに魔物から助けるぐらいは俺にもできそうだけど。
魔物が襲ってきたから、俺とマスターで精霊を守ったんだ。まぁ、ほとんどマスターひとりで倒しちゃったんだけど。
何もないとこで黒刀を振るうマスターも格好よかったけど、やっぱ戦闘してる時が一番だと思う!
あー、手合わせしてほしかったなぁ。
今度お願いしたら、マスター手合わせしてくれるかな?
あの時の俺は久々のマスターと一緒の戦闘で興奮しすぎて、炎の調整を失敗しちまった。そのせいで森に火が点いちゃって、ヴェルフィアードにマスターが悪く言われたんだよな。
めちゃくちゃ落ち込んだわ。でも、マスターは次から気を付ければいいって赦してくれた。やっぱ優しい。
んで、その後はマスターが魔法で結界をはって神殿に戻ってきて、大虎の敷物だしてくれて、みんなでゆっくりしてた。ウラハが俺の毛皮剥いで敷物にするとか怖いこと言いやがった。
ほんっと、ウラハはひどい。俺のことなんだと思ってるんだ。
マスターも虎と俺の毛皮を交互に撫でてたから、ちょっとビビった。俺の毛皮剥いだりしないよね? ね?
そんなこと思ってら、マスターが話したいことあるって言ったんだ。俺も人型で座れって言われた。俺、獣化のままでいいのに。ちゃんと話し聞けるのに、……たぶん。
ヴェルフィアードもだしてマスターは話し出した。
「じゃぁ、みんなよく聞いてね? 今後のことなんだけど、とりあえず神殿ここを出ていくのは決定事項ね」
うんうん、それは賛成。もっといろいろ出掛けて、マスターと一緒に戦闘したい!
それから、戦闘時には周りに気をつけてフィールド破壊するなって、マスターが言った。
これ、俺のことだよね?
あれは今思えば、ウラハがいなかったせいで森まで燃えちゃったんだよ。だって、ウラハと一緒の時はアイツらだけ燃えて、周りには影響なかったんだし。あー、でもウラハが風属性魔法で炎が拡がらないようにしてたのか。
やっぱ俺の力加減が下手だったんだよなぁ。
くそっ! ウラハむかつくっ!
ちゃんと教えといてくれればいいのにっ!
あと、自分で考えて判断するようにとか、何でもかんでも敵対するなとか、精霊を助けた時に森で俺に話したことをグランたちにも言ってるんだと思った。
俺、ちゃんと覚えてたよ!
マスターが言うんだから、みんな頷いて「わかった」って言うだけだと思ったんだ。そしたら、グランが何か言い出した。
「危険インシはハイジョすべきではございませんか?」
難しい言葉使ってたけど、マスターにとって悪いものをなくすってことさ!
そんなの当たり前じゃんか!
「未知なるモノに恐怖を……うんたらかんたら……なんちゃらかんちゃら……」
あーうー。グランがいっぱいしゃべってるけど、長い!
ぼーっとしてたら、ウラハにつつかれた。
ちゃんと聞いてるってば!
「主にフカイな思いをモタラスものもございます。そのようなものに煩わされる前にハイジョすべきとグコウいたします」
うんうん。マスターが嫌なことはなくしちゃえばいいんだ。
全部、俺が跡形もなく燃やしてやるよ!
そう思ってたら、今まで黙ってたヴェルフィアードがいきなりしゃべった。
「成らば、地の精霊は主たるコレがツミビトとして追われるがよい、と言うのじゃな?」
え? ツミビト? マスターが罪人ってこと?
追われる? なんで?
意味わっかんねーよ!?
「……我が主を罪人と呼ばわれるか?」
グランがすっげぇ怒ってる。
当たり前だよな!
俺だってヴェルフィアードがマスターを悪く言うのは腹が立つ。
「主に害なすモノをハイジョするのは当然のこと」
そうだ! そうだ!
マスターの敵は消しちゃえばいいんだ!
「精霊や魔物と違い、この世界を支えることもできぬモノなど必要ないでしょう」
そうだ! そ、うだ…?
今の理由よくわかんないけど、グランが言うんだから間違いないんだ。
「愚かな。この世界が必要としたからこそ、ヒトとてその在り様をゼニンされておるのじゃぞ」
「主に不快を懐かす人族など不要」
マスターが嫌な思いするのは絶対いやだ。なら、その原因をなくせばいいんだ。うん、人族いらないね!
アイツらみたいに俺が燃やしてやる!
俺が心の中でグランに加勢してたら、マスターがしゃべった。
「グラン、何も積極的に人と関わるって言ってるんじゃないよ?」
あれ? なんか変?
マスターも人族はいらないって言うと思ったのに、マスターはグランに賛成じゃないの?
なんか俺たち間違えた?
「逆に関わりを深くしたくないから、表面上は当たり障りなくしたいだけ。これから先、人はいらないからってころ…んんっ、えーっと、ハイジョしてたら面倒ごとが増えるだけだし」
続けて話すマスターの言葉を必死に聞いた。
人族を消してたら面倒なことになるの?
そうなの? ダメなの?
俺、燃やしちゃったよ?
何にも残らないようにキレイに燃やしちゃったよ?
ダメだった? え? どうしよう?
誰かに確認したかったけど、俺がしゃべろうとしたらウラハにつつかれて、アリアにも睨まれた。
「この間の、ウラハが視たアレのことを言ってるんだよね?」
そう言ったマスターが溜め息をついた。
やっぱダメだったんだ!
どうすんの!?
マスター怒ってるじゃね!?
「落ち着きなよ、あるじには解ってるから」
ウラハが下向いて、俺にだけ拾えるような小さな声で言ってきた。
え? そうなの?
あれって、マスターにわからないようにしたんじゃないの?
違うの? なんなの? どういうこと!?
グランもアリアも平気そうな顔してて、俺だけがパニックになってるみたいだった。
「過ぎたことは仕方ないから、気にしなくていいよ。というか、もう起きたことをとやかく言う気もないからさ…」
ちらって俺のほう見て、マスターが言った。
あ…。ほんとだ。そうなんだ。
マスターは、俺がアイツら燃やしちゃったのも知ってるんだ。なーんだ、大丈夫なんだ。俺は内緒でやったから、ヤバイと思ったのにマスターは知ってたんだ。
そうだよな、マスターに隠し事なんてできるわけないんだよな!
「…申し訳ございません」
安心してたらグランが謝ってたから、俺も慌てて一緒に頭を下げたら、「いいよ」って赦してくれた。
あー、よかった!
今回も俺だけ気づくの遅かったんだよな。というか、ウラハに言われるまで気づかなかった。
マスターもさー、回りくどい言い方しないでくれればいいのに…。
さっきまで楽しい気持ちでいっぱいだったのに、何か話し合いになると凹むこと多いよなー。
そんなこと思ってたら、自分でも意識しないで獣化してマスターにすり寄ってた。ウラハの視線が刺さるけど、やっちまったもんはしゃーないよな?
マスター、耳の後ろカリカリしてくれっ!
お読みいただき、ありがとうございます。




