27.異世界で初戦闘
「アリアどいてよーっ!」
「いやですわ。ウラハはそちら側にすればよいのよ」
「こっちは刀があるからやなのーっ」
「わたしだって、いやですわ」
ふくれっ面のウラハとつんっとすました顔のアリアが言い合いを始めた。
あっちこっちに引っ張られる私の右腕、痛くはないが怠くなってくる。そのうち肩から抜けてしまわないだろうか。
腕は2本あるのだから1本ずつにしてくれればよいのだが、左腕の側は刀が邪魔をして密着度が低くて2人ともイヤなのだそうだ。
「あるじに頭撫でてもらったからもういいでしょっ!」
「ウラハこそ主様に抱きついたから十分ですわよね?」
アリアとウラハの修羅場然とした状態をどうにかしてほしくて、グランに助けを求めて視線を向ける。グランは私の視線の意味を汲み取っているものの、肩を小さく竦めて首を振り、そのまま精霊を撫で始めて私は放置された。
美形2人が小さい物を可愛がっている様は眼福だ。
眼福ではあるが、今はこの状況をどうにかしてほしい。
男性陣知らん顔ですか!
これは、いったい何の苦行なんだ…
はぁ…とため息をもらせば、アリアとウラハが失敗を怒られたような顔で見上げたきた。
両側を空ければ問題ないだろうと思い、腰に佩いていた刀を外しアイテムボックスに戻そうとしたら、今の今まで黙っていたヴェルフィアードから声がかかった。
「お前もたいっがい、精霊どもに甘いのぉ。ごちゃごちゃ煩ければ一喝すればよかろう」
「いや、煩くはないん
ーーードゴォッ!バキバキッ!!
っ!何!?」
湖の対岸側から樹々を薙ぎ倒す音が轟く。
向こう岸だから距離は遠いが、小さな光が追いたてられるように森から湖の方へ飛び出してきた。必死に逃げる光が森の中にもいるのが見える。
「主! たま殿の仲間が襲われております!」
グランが厳めしい声で告げてくる。逃げ惑う光は精霊たちだ。森の中の光がひとつ、またひとつと消えている。襲っている相手の姿はまだ視認できない。
相手はなに!?
魔物? まさか人間?
確認する時間が惜しい!
「助けに行くっ!」
ードンッ!
言うが早いか『鬼人』に変じて地を蹴り跳躍する。
蹴りつけた大地に穴が開くが気にしていられない。
《反射防御結界》
《身体強化》
《速度上昇》
飛び上がった私にアリアから支援魔法がかけられる。
視線だけでアリアに礼を送ると、そのまま空を蹴り湖の上へ飛び進む。湖面に着地することになるから浮遊の魔法を唱えるが発動しない。ヴェルフィアードが鬼人族の制約で魔法使用不可だと早口で私に教えてくる。
魔法だめなの!?
んなことは先に教えといてよ!
軽く舌打ちをしたものの、湖面が真下に迫ってきている。だが焦ることはない、湖面を走り抜ければよいだけのこと。疾走する私にグランが追従するが、当然ながら追い付けない。
「グラン! 湖の上で!」
「御意」
私の意図を察したグランが短く応えた。
ファングがたまちゃんをアリアに預けて、こちらに向かってくるのを目の端で確認する。
精霊であるグランたちには湖の上など関係ない。グランは湖の中程で待機して、アリアとウラハがいる対岸へ逃げてくる光球精霊たちを誘導する。
湖を渡りきる前にファングが私と肩を並べた。
「マスター! 俺が先に!」
「ダメ、まだ精霊がいる」
炎の剣を片手にファングは【炎】で焼き払い先制攻撃をする気でいるようだったが、相手が判らない上に、まだ1体だけ光球精霊が森の中にいるから許可できない。
早く森から出てこい、と願いながら湖の対岸に着地すると同時に森の中へと走り出す。
森へ踏み込むと左右から魔物が襲いかかってきた。左側の2体を私が斬り捨てる間に、右側からの1体がファングによって消し炭となった。地属性のワームは火属性の攻撃がよく効く魔物だ。
(グラン! 相手はワームだ!)
ワームは脚を持たず、骨格、外骨格、貝殻のような硬い構造も持たない赤黒い色のミミズのような魔物だ。ただし、異様に大きい。地中に潜むのが常で目が退化している代わりに全身が感覚器官となっており、奇襲がしにくい。頭にあたる大部分が直径1メートルの口で、そこに蠢く歯牙で襲いかかってくる。
(主、ワームは10体以上の集団で獲物を襲います。地中からの出現に気を付けてください)
ワームは1体ずつなら大した脅威ではないが、囲まれてタイミングを誤ると一斉に食らいついてくる厄介な魔物だ。
今の3体を倒したところで戦闘が楽になるわけもなく、見えるだけで4体が地上に出て光球精霊を取り囲んでいる。まだ地中に何体いるのか予想がつかないが、眼前の光球精霊を助けるのが先だ。
光球精霊に襲いかかるワームの間をすり抜けて、光球精霊を背に庇うように位置どる。
(主様、支援に向かいます)
(そっちで精霊たち守ってて。ウラハも)
アリアが私の支援に来ると言うが、ワーム程度なら今かけてもらってる支援魔法で十分だ。それよりも私が離れたアリアたち側でも魔物が現れないとも限らないから、光球精霊たちを守るよう指示する。
「【円斬】」
自分を中心に円を画くように振るった刀で取り囲んでくるワームを切り裂く。足下の土が盛り上がり真下の地中から5体のワームが私に向かって襲いかかってきた。土砂ごと突き上げられた私に食らいつくように追いかけてくる赤黒いワームの中に1体だけ紫色したワームがいる。
「エンシェントワーム!?」
光球精霊がのろのろと湖へ向かって動きだしているのを横目で確認して、自ら直上方向へ飛び上がりワームたちから距離をとる。
「ファング!」
「【焔】!」
私の声に応えてファングが炎を纏った剣を横薙ぎする。
ファングの放った【焔】は最初に放とうとした【炎】よりも威力が高く、周囲一帯を焼き払う。5体のワームは周囲の樹々も巻き込んで炎に包み込まれた。
「「「「GUGYOAAAAAAー!」」」」
叫びをあげて4体の赤黒いワームが燃え尽きたが、エンシェントワームは生きていた。紫色のエンシェントワームは普通のワームに比べて火属性の耐性が高くファングの攻撃が効きにくい。そのまま落下すると私も炎とエンシェントワームにのみ込まれる。空中を蹴って着地する方向を変えるが、エンシェントワームも方向を変えて横から食らいついてこようとしていた。
落下速度に乗せて刀を降り下ろし、エンシェントワームの頭を体から斬り落とすと直ぐに回避行動をとる。吹き上がるエンシェントワームの体液は毒性をもつため浴びるのは避けたい。
「マスター!」
無事に着地、回避した私に駆け寄って来たファングの後方で大地が盛り上がる。さらに地中からワーム4体、エンシェントワーム2体が襲ってくる。うち1体のワームが光球精霊へ向かっている。ワームを倒すほどの威力で斬撃を放てば光球精霊も巻き込んでしまう。力を加減して、敵愾心を私に向けさせるだけの軽い撃を放つ。
ーシュッ!
よしっ!こっち向いた!
「あの子をグランのとこまで」
弱々しく光る光球精霊を連れて逃げるようファングに言って、精霊から目的を私に変えたワームに向かって踏み込み、斬り捨てる。
「でもっ!」
「【乱突】」
突きを繰り出し敵に突進する【乱突】を発動させる。
ファングは私だけを残して後退することに異を唱えたかったようだが、残りのワームに相対し、聞き入れるつもりがないことを示す。
「っ! すぐ戻ります!」
ファングは精霊を抱き込み走り出す。
「ん。【円斬】」
【乱突】で敵の中に躍り込み【円斬】を振るった刀でエンシェントワームを斬り裂き離脱する。ワームとエンシェントワームの体が命を失ってもうねうねと動き、止まる。
うぁ…
リアルで見るとキモイ!
更なる追加のワームの出現もなさそうで、これで終わりかと魔物の死骸と明々と燃える樹々を見てほっと息を吐く。
「これ!何を落ち着いておる!妾の森が燃えておるではないか!!」
消火しなければと思っているところにヴェルフィアードから解ってることを指摘されてイラッとした。宿題しない子供が親に言われるアレと同じだ。
「あー。うん。……【風刃】」
ファングの【焔】による炎が拡がっていた森に向かって、風の刃を飛ばし燃えている樹を斬り倒し、風圧で炎を吹き飛ばす。上がっていた炎は消せたが、ぶすぶすと燻る小さな火種を鎮火させなければならない。どうしようかと思案しながら炎上していた場所の中央あたりへ足を進めた。
「【地斬】」
刀を降り下ろす方向で大地を縦横に斬る【地斬】だが、今回は地面に刀を突き立て地割れで土を混ぜ返してみることにした。蜘蛛の巣のように亀裂が走り、できた地割れに地表の焼けた草木が落ち込む。焼けていない部分まで地割れが及んでしまったが許容範囲だということにした。
「マスター!」
光球精霊をグラン預けて直ぐに戻って来たのだろう、後ろからかけられたファングの声に振り向いて応える。
「さっきので終わりだったみたい」
ーーーゴゴゴゴ、ゴバァッ!!
地震のような震動とともに私の足元に大穴が開き、ワームより大きい何かが飛び出してきた。
体勢を崩しつつも跳躍して穴に落ちるのを避け、飛び出してきたモノを確認する。
うぎゃっ!
"顔付き"がいる!
フェイスワーム、通称"顔付き"と呼ばれ、ワームの中でも眼が退化することなく残っている中ボス級の魔物がいた。フェイスワームはワーム、エンシェントワームよりも一回り大きく、形はワームと同じだが外皮は固く、鋼はおろかダマスカス鋼の剣でも傷付けることができないほどだ。
「っ!!【爆裂炎】!」
伸び上がって私に襲いかかるフェイスワームにファングが【爆裂炎】を仕掛ける。炎に見舞われたフェイスワームが爆裂の勢いで吹き飛ばされ、バキバキッと音をたてて樹々を破壊する。再び森に炎があがった。
あ。せっかく消火したのに…
お読みいただき、ありがとうございます。




