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THE NEWWORLD  作者: cyan
25/33

25.忌々しい記憶

本文中 ※※※ の間には女性が暴行を受ける描写があります。苦手な方はご注意下さい。

目を開けると陽はすっかり傾いていて夕焼けを映した湖がオレンジ色に染まっていた。散々騒いで遊び疲れた私は、湖畔で大狼ファングに凭れて休んでいたら、いつの間にか眠ってしまったみたいだ。


ルルカの実を食べたあと、くまごろーも交えてまた《ウォータースフィア》で水球を飛ばしてみたり、《浮遊フロート》の魔法で湖の上を散歩してみたり、《噴射ジェット》の魔法を応用して噴水をだして虹を作ってみたりして遊んだ。

遊ぶためだけに追加で魔法を造っている感が否めない。

くまごろーは私が休憩する時に森の中へと帰っていった。次は神殿にも遊びにおいでと言ったら嬉しそうにしていたから、またお土産を持て来てくれるだろうか。

凭れていたファングの背を「ありがとう」と撫でて体を起こす。私が立ち上がるとファングもグッと伸びをして人型に戻った。

湖の畔には私とファングしかいなかった。


「グランたちはどこ行ったの?」


「森の中に行ってる」


「なんで?」


別にずっと側にいる必要もないし、自由に過ごしてもよいのだが、黙って行かれると心配になる。魔力の範囲を拡げてグランたちの位置を確かめる。森の中といっても近くにはいるようで、ほっと息を吐き出したら、ファングにも私が心配している気持ちが伝わったのか、安心させるように笑顔を向けてくる。


「大丈夫だよ。すぐ近くにいるし、精霊を探しに行っただけだから」


「精霊を?」


「うん、マスターが精霊に会いたいって言ってたから」


ファングは、なぜそんな質問をするのか解らないといった様子で答えを返してきた。



なんとーっ!

そこまでしなくてもいいのに…



私がもらした一言を叶えるために、グランたちは精霊を探しに行ったのだ。呆れ半分嬉しさ半分の複雑な心境になる。ちょっと言っただけで真剣に捉えてしまう彼らに申し訳なくなった。


「…私たちも行こうか」


「もう帰ってくるよ。マスターが起きたの知らせたから、すぐ戻るって言ってるし」


ファングは念話で報せたらしく、頭を振って、ここで待っていようと言う。実際にグランたちは湖の方へ向かって移動を始めていたので、私は頷いてファングに従うことにした。

すぐにグランたちは森から戻ってきた。戻ってきたのは3人だけだったので、精霊には会えなかったようだ。少し残念だったが、簡単に姿を見せてくれるなら最初から逃げたりはしないだろうと思い直す。


「おかえり」


「ただいま戻りました。申し訳ございません、精霊を連れ戻ることは叶いませんでした」


その言い方だと会えなかったわけではないらしい。それなら私も森に入ればよかったかもしれない。


「会えるのは会えたんだ?」


「会ったと言いますか、姿を見かけても隠れられてしまいました。どうやら人の形をした者を避けているようで、あまり執拗に追いかけるのも如何なものかと思いまして…」


この世界の精霊は人間を警戒しているのだろうか。

しかし、グランたちは人の形をしていても人間ではない。精霊同士でも交流はできなかったのか、同じ精霊だと思っていても異なる存在なのかもしれない。


「そうだね。嫌われたくないし、それで良かったんじゃないかな」






◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇






どうせなら月明かりの湖も見てから帰ろうと思い、そのまま何かして時間を潰すことにした。そこで私はあることを思い出した。



やばいっ!

ヴェフィー忘れてた!

グランたちが帰ってきたらって言ったのに…



月が昇るまで時間もあることだし、ここで『黒竜の神魂』の試し斬りをすることにした。これ以上ヴェルフィアードを放置すると怒られかねない。アイテムボックスから『黒竜の神魂』を取り出した。


「待ちかねたぞ! ほれ、早くせぬか!」


「・・・・・・」


忘れていたのは私だが、開口一番それかと白い目を向けてしまう。


「なんじゃ? 神殿ではないではないか。…まさか妾を忘れて遊んでおったんじゃなかろうな?」


「まさかー。また森を開拓したら困るから、樹がないところにしようと思って移動しただけだよ?」


ヴェルフィアードの言ってることは図星だが、そんなことは爪の先ほどもないと誤魔化した。グランたちは何の話だと不思議そうにしていたが、察してくれたのか口には出さずに黙っている。空気の読める子たちで助かる。ファングがウラハに口を塞がれているけど…。



まぁ、思いっきり遊んでたしー

完全に忘れてたからね!



「まぁ、よいわ。ほれほれ、まずは軽く妾を振るってみるのじゃ!」


細かいことを気にして時間を無駄にするよりも、自分の欲望を優先させるらしい。弾んだ声にわくわく感を滲ませている。


「はいはい、っと」


私は『鬼人』へと姿を変えると、すかさず目の前に水晶鏡が出現する。阿吽の呼吸でアリアが出してくれたのだ。

グランたち4人の姿は、魔力コントロールの練習の成果がでたのか、実体化したままだった。『神格』のときのように、常に身に纏う魔力も感じられないし大丈夫だろう。


「む、鬼人で振るうのか?」


「うん」


ヴェルフィアードの問いに生返事をして水晶に見入る。

水晶に映った鬼人はやっぱり着流し姿で、金色の瞳と銀色に輝く髪が黒色の肌に映えて、しなやかについた筋肉は神格時よりも逞しく感じる。そして頭部には2対の角、これが私の鬼人としての矜恃だ。


本来、鬼人族が持つのは1対の角だったが、ゲームの課金アイテムでアバターの容姿改造クリエイトをしたのだ。

課金アイテムを使う廃人プレイヤーはステータスやスキルを増やすのが一般的だ。しかも、容姿改造の課金アイテムは高額であるのにもかかわらず、容姿が変えられるだけで、ステータスやスキルになんの恩恵もない。それでも私はこの課金アイテムを使用した。初期設定の1対の角だと魔物の大鬼オーガにしか見えないというのも理由のひとつだが、私はただの鬼人ではなく唯一無二の『鬼人』で在りたかった。

そもそも鬼人族になるプレイヤーもいなかったけれど…。






『いやだ! なんでこんなことするの!?』


『うるさい! お前のせいで俺はっ! お前の代わりなんていくらでもいるんだよ!!』


マズイと思ったが蘇ってくる記憶が止められない。






※ ※ ※



私の両親は小学生の時に飲酒運転の車に轢かれて死んだ。私は父の弟夫婦に引き取られて新しい生活を始めた。叔父夫婦には5つ歳上の従兄がいて、優しく格好がよい従兄に憧れと淡い初恋を懐くのに時間はかからなかった。


いつも優しかった従兄の態度が変わったのは大学受験に失敗してからだった。中学生になっていた私は頭にお花が咲いた馬鹿だった。鬱ぎ込む従兄に冷たくされても、鬱陶しがられても、しつこく従兄に付きまとい、私が元気付けてあげると息巻いていた。

そんなある日、叔父と従兄が次の大学受験のことで口論となり、従兄が家を飛び出してしまった。私も従兄のあとを追って行き、慰めようとしたそこで苛立ちを私にぶつけるように処女はじめてを散らされたのだ。


従兄が知らない男の人に思えて、神社の暗く外からは見えない場所で、怖くて声も出せず、抵抗することもできず、ひたすら行為が早く終わることだけを願っていた。

行為のあと私の流す涙と鮮血に我に返った従兄は言った。


『傷つけてごめん。みやびが好きだから、やり直すチャンスをくれないか?』


今なら、ただの言い逃れにしてもお粗末な言葉であったと解るのに、好きだと言われて私が彼を支えるんだなんて有頂天になって従兄を赦した。

叔父夫婦には付き合っていることは恥ずかしいから黙っていようと言われたのも、2人だけの秘密だと喜んだ。従兄が落ち込んだりイライラする度に体を求められた。優しい愛撫など知らず、突き込まれ性欲を吐き出されるだけの行為にも『雅だけが俺のこと解ってくれる』なんて言葉で流されていた。


浪人して二度目の大学受験を数日後に控えたある日、街で従兄が女の人を連れて歩いてるのを見かけた。きれいに化粧してワンピースを着た大人の女性に、私がこの1年見ることもなかった従兄の笑顔が向けられていた。従兄に声をかけることができず、私は泣きながら家に帰った。帰宅した私の様子がおかしいと気付いた叔母が問い質してきた。嫉妬と悲しみでパニックになっていた私は叔母に全部話してしまっていた。


叔父夫婦は従兄に次の大学受験でどこでもよいから大学へ入ること、4年で卒業し就職とともに私と結婚するように言った。『わかった』と返事する従兄の冷酷な瞳が私を見下げていたことにも気付かなかった。

好きな人と結婚という言葉に夢をみていた。


そして従兄はまたしても大学受験に失敗した。志望校には受からず、他の大学を受験することをせず、部屋に引きこもってしまった。

まだ私は従兄を解ってあげられるのは自分だけだと思っていて『私が側にいるから大丈夫だ』なんて言っていた。

従兄は最初から私を慰みものとしか見ていなかったのに。


ある日、従兄から気分転換にデートしようと誘われて、私は二つ返事で喜んだ。従兄のデート気分を味わうためにという理由でバラバラに家を出て、待ち合わせ場所から移動した先はホテルだった。叔父夫婦に従兄との関係が知られてから、従兄が私に触れてくることがなかったので、求められていることが嬉しかった。なんの疑問ももたずに部屋へ行くと、そこには従兄の友人だと名乗る2人の男が待っていた。


『お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃになったんだよ。お前、俺のことが好きなんだろ? だからお前の人生も俺と同じようにめちゃくちゃに壊してやるよ』


そう言い放つ従兄の言葉に私は冷や水を浴びせられたようだった。男たちの手が私へ伸びてベッドに押さえつけられるのを従兄は薄ら笑いを浮かべて見ていた。


『いやだ! なんでこんなことするの!?』


『うるさい! お前のせいで俺はっ! お前の代わりなんていくらでもいるんだよ!!』


好きだと言われたのも雅だけだと言われた言葉も嘘。

ただのストレスと性欲の捌け口だったのだと思い知った。抵抗して暴れたが男の力に敵うはずもなく、頬を打たれ恐怖に震える体を貪られ凌辱された。


小さい街だったので私のことは周囲に知られ、噂は尾ひれがついて子供のくせに男を誘う売女にまで貶められた。

事実を知る叔父夫婦は本当にすまない、責任は取らせると頭を地に擦り付けて詫びてきたが、私にはもうどうでもよかった。

従兄を好きな気持ちも、結婚に夢見たことも、穢れきった自分自身を嘆くことも、死にたいと思う気すらも起こらなかった。気でも狂えれば楽だったのに、生来の気質の所為か、それも叶わずにいた。

私は県外の高校へ進学し、叔父夫婦の家を出て独りで生活を始めた。



※ ※ ※





「聞いておるのか!?」


「…っ!」


ヴェルフィアードの声に、唐突にフラッシュバックする記憶から引き戻される。なぜ今さら思い出すのかと苦いものを飲み込む。きっとウラハの視界を通して視た場面が影響しているのだろう。


「…聞こえてる」


「どうしたのじゃ…?」


辺りは夕焼けのオレンジ色が鳴りを潜め、黄昏時を迎えていた。逢魔時に触発されて私の中の闇が顔をだしたのだと思った。どうしたとヴェルフィアードに訊かれても話すことも忌々しい。


「なんでもないよ。自分に見とれてた」


「・・・・・・」


「なんだっけ?」


「はぁ…。鬼人で妾を振るうのか、と訊いておる」


そういえばそうだったと思い返す。


「うん。鬼人こっちのが武器に関しては扱いに長けてるから。常駐魔力もないみたいだしいけそうだね」


ちらりとグランたちを見やれば、落ち着かない様子で私を窺っていた。それでも何事もなかったように私は会話を続ける。


「服も変えないと動きにくいね」


着流し姿で刀を振るうのもよいが、動きにくいのは否めない。簡単な装備品をと考え、アイテムボックスから蜘蛛の糸(アクラニ)の服、竜皮の胸当て、竜の籠手、風靴を取り出す。いずれもゲームで日常的に使用していた品で、それなりに質がよい装備だ。装備品はアイテムボックスから出したら勝手に身に付けていた。わざわざ着替えなくてよいのが便利だ。


空を見上げると月が昇っており、グランの視界を通して視た時は地球の月と同じで白っぽい黄色だったのに、今日はその色を青く輝やかせていた。


「ブルームーン?」


「ふむ、今宵は青の月か。魔物の横行が激しくなるのぉ」


ヴェルフィアードが呟く。

地球の「ブルームーン」といえば、ひと月に2度現れる満月のことを呼び、ごく稀に火山の噴火や隕石から発生するガス、塵などの影響で、青く見えることをいう。

この世界では、満月は青く輝き、相伴い魔物の活動が活発になるそうだ。


青い月明かりに照らされ、私は呼吸を整える。

緩やかな動きで刀を振るい、正眼で止めて、また振るい、ゆっくりと基本の型をなぞるように動作を行う。

型を崩さないように同じ動作を瞬時に行い、最後に腰に納めた刀を居合い抜きする。

シュッと空を切り裂く音がして、湖面が割れた。

割れたのは湖面だけで、周りの樹々も地面にも剣圧によるダメージは見受けられない。

ほぉ…と周囲からため息がもれる。


「見事なものじゃなぁ。力の加減も申し分ない」


「そうだね。やっぱ鬼人でないとヴェフィーは振るえなさそう。あんまり出番ないかもね」


このままの流れで『鬼人』でなければ、ヴェルフィアードを振るえないことを伝える。そのことに特に反応することもなく、ヴェルフィアードはもう一度『黒竜の神魂』を振るえと言ってきた。


今度はさっきみたいに型をなぞる動きではなく、見えない相手と対峙しているイメージで振るう。

素早く打ち込み、眼前で刃先をピタリと止め、連続で突きを放ち、薙ぎ払い、体を回転させた勢いで回し蹴りを繰り出す。相手に打ち込まれるのを宙返りで跳んで避け、着地した姿勢から刀を振り上げる。

刀の動きは鋭く、体はしなやかに、ひらりひらりと舞うように避け、仮想の相手を屠る。

みやびという地球の人間では到底できない、『鬼人』所以の身のこなしに私ですら感嘆をあげる。



嗚呼、気持ちがいい!

何もかも全てを斬り棄てる『力』!!

忌々しい記憶さえも…



誰もが『鬼人』の演武に魅せられているのが解る。

不動の力に恍惚と酔いしれる私の側に、いつの間にか光球がひとつ近寄って来ていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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