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THE NEWWORLD  作者: cyan
23/33

23.進達いたします(グラン視点)

「ねー、グラン、本当に行くのー?」


「もう主にも御許しいただいた」


我が主の居室より出てきたところでウラハが訊ねてきました。

主が【魔法創造】をなさると一室に籠られたゆえ、我らは周囲の森を探索することにしたのだが、ウラハは主のお側を離れることを渋っているようでした。

しかし、我らにとって魔法とは術からく知っているものであり、創造などはしたこともないものです。残念ながら主のお役には立ちそうにございません。ならば、途中になっていた森の地図作成マッピングを行おうと許可をいただいたところでした。


「むーっ! じゃぁ、あるじにぎゅーってしてもらっ」


「ならん。まだウラハは懲罰中だ」


ウラハに意地悪じじぃと言われようが、鬼だ悪魔だと煩くされようが、優しすぎる主に代わって我が精霊を律するのも使命と心得ております。よって、罰を変える気も緩和する気も毛頭ありません。


我が主は精霊(我ら)に甘すぎるのです。

御心が深いのは重々承知していたつもりですが、度が過ぎるのはよろしくありません。

ウラハが御命令に叛いたことにも全く罰を仰らず、それよりもウラハの心情を慮ってくださったことには感謝いたしますが、普段の態度にも少々甘やかしすぎの気があります。

それはウラハに限ってのことではありませんが…。

我がウラハに罰を与えると申し上げたときも、いくら約束したといっても、主が「許さない」と仰せになれば我は命に従うというのに、そのまま甘受なされた。あの時、我もまた甘やかされているのだと解れば、つい口元がゆるんでしまったではありませんか。

思い出してにやつきそうになる顔を咳払いで何とか引き締めました。


「ウラハのせいで俺までとばっちりじゃねぇか!」


「わたしも一緒に我慢してあげてるのですから、少しは自重してほしいですわ」


念話で呼び掛けたファングとアリアが口々に不満をもらしながら集合しました。何だかんだと文句を言いながらも、連帯責任の様相を呈しているのが微笑ましい……ですが、罰を言い渡した昨夜からまだ半日しか経ってはおりませんよ…。


「森の地図作成マッピングが終るまでを懲罰期間とする」


鞭ばかりでは事が上手く進まないのは道理です。飴いや、目の前に餌を吊るすように懲罰期間を伝えると、各々がやる気に満ちた顔を見せました。

もう少し"主のお役に立つ"という部分でやる気を出してもらいたいものなのですが…。


「すぐに出発する」


ため息をのみ込みつつ我が言えば、ファングが主の動向を気にしだしました。前回は、主が神殿の出入り口で見送ってくださったからでしょう。


「主は【魔法創造】に集中されておられる。すぐに立つことは許可をいただいておる。行くぞ」


我が出入り口へと歩きだすと、納得いかない顔をしつつも皆が付いてきました。


我も、もしかしたら御一緒に探索なさると仰せかと思いましたが、此度の主は【魔法創造】に集中されたいご様子でした。

ただ、主は見送りには来られる素振りをされました。しかし、そのようなことで主のお時間をとらせ、邪魔するなど、仕えるものとして以ての外です。丁重に辞退申し上げると、その場で我に《視界共有》の魔法を施され、我らが森のどこにいても感知できるようにとヴェルフィアード殿の結界を改変されました。

どこまでも我らを気遣ってくださっていることは外に出れば解ること。皆が歓喜に震える楽しみを用意するのも我の務めでしょう。






(無理しないようにね、いってらっしゃい)


我らが神殿から外へ踏み出すと、主から念話が届けられました。

皆が口を揃えて「いってまいります」と申し上げたのは言うまでもありません。


「グラン、今回はどうしますの?」


「え? ウラハいるから《気配察知》使ってささっと行けるんじゃねぇの? ちゃちゃっと終わらせようぜ!」


慎重派のアリアの問いかけに、直感派のファングが答えますが、あまりにも短絡的すぎます。地図作成を早く終らせたいという気持ちも解りますが、当りをつけずに回るのは無計画過ぎるでしょう。


「昨日と同様にウラハが飛行して、まずは森の全体を把握する」


「はーいっ」


バサッと羽音をさせ、すぐさま獣化して飛び立とうとするウラハを引き留めて話を続けます。


「ウラハが全体を抑える間に、我らは探索済の範囲を抜けておこう」


すでに探索済の箇所なら魔物の程度も知れているし、小1時間もすればウラハが合流するでしょう。合流した後は、ウラハの《気配察知》を使いながら魔物を避けて、地図の作成を優先させることにしました。


「魔物とかでたら即斬りでいいよな!?」


いちいち魔物を捕らえようとすれば、手間も時間もかかることは前回で経験済であるからしてのファングの言葉でしょう。誰も反対する意見はでないゆえ、我も了承します。


「主からは特段の指示はない、我らが無事に帰還することのみである。此度は地図作成マッピングを優先とする。それから、今回は我が主と視界共有しておる。我も気を配るが、くれぐれも主に不快なモノを御視せすることがないように。……よいな?」


ぐるりと見回して念を圧せば、真剣な顔で頷きが返ってきました。皆よく理解しておるようで何よりです。




ウラハが飛び立ってすぐに念話が響きました。


(ちょっとーっ! あるじの魔力感じるんだけど! あるじ来てるんじゃないの!?)


獣化したウラハの飛行速度なら、ヴェルフィアード殿の結界域を脱するのは一瞬だったでしょう。当然、主の魔力影響下から一番に外れるはずであったのに、なおも主の魔力が充ちているため驚いていました。


(ふふふっ 主はお越しではないぞ。わざわざ我らのためにヴェルフィアード殿の結界を改変されて、魔力を拡げてくださっておる)


悪戯が成功した気分で我が伝えると、残っていたファングとアリアの目の色が変わりました。こちらはまだ結界内にいるので2人は気付いていなかったのですから。

我を置いて一目散に走り出したファングですが、今回は大目にみましょう。アリアも落ち着かない様子ですが、もう結界の境界は目前ですから我慢しているようです。



ヴェルフィアード殿の結界を出て暫くすると、前の探索と同様に魔物と遭遇し始めました。

ポイズンスネーク、ホーンラビットは一瞬にして灰塵となります。ファングも炎の火力を上手く制御できているようで感心です。本当に、戦闘においては素晴らしいセンスを発揮してくれます。

目新しい魔物としては、ウルフの上位種であるヴォーグがいました。本来、ウルフ系は集団行動をする魔物ですが、単体でおりました。はぐれ(・・・)というモノでしょう。

アリアの水属性魔法、《アクアスパーク》で怯んだ隙に、我の地属性魔法、《ペトラバレット》で止めを刺しました。攻撃力に乏しい我とて主には良いところを見せたいという見栄もありますゆえ、少々張り切りました。

汚ならしくなったヴォーグにファングが眉を潜めていました。同じ狼型のあまりの弱さに悲哀を感じているのでしょう。


「……なんか、回復早くない?」


と思ったら、自身の魔力回復について疑問を持っていたようです。


「主の魔力が浸透した自然魔力は回復率がよいな。常に供給されておる。さすがですな。我らの回復にまで気にかけていただいてありがたい」


自然魔力で回復するといっても、活動し続けていると通常なら回復量が使用量を上回ることがないのですが、今は枯渇するなど微塵も感じないのです。

以前の探索後の我らの魔力量を鑑みて、主は対策をしてくださったに違いありません。魔力管理に気をとられることがないというのは、本当にありがたいことです。

皆も主の御配慮に感銘を受けております。


「これさ! もっと魔物でても平気だよな!? どんどん来ないかな!」


「魔物ばかり相手してては地図作成マッピングが進みませんわよ。そんなことも解らないなんて…」


いくら殆ど心配がないといっても、魔物の相手をひっきりなしでは埒があかないのですけど、ファングには難しい話でしたか…。アリアがきちんと理解してくれているのが助かります。



「たっだいまー」


ちょうど我らが前回の探索範囲を過ぎたところで、一旦ウラハが戻ってきました。


「ウラハ、ご苦労であった」


「とりあえず神殿から前だけ終わったよー。んで、昨日のゴミ(・・)見つけた」


正面にいたウラハが、我の視界から外れるように動き、報告してきました。

これだけ樹木が生い茂った広大な森で、よく見つかったものだと感心しました。森の地図作成をしながら"ゴミの排除"ができれば僥倖と考えておりましたので素晴らしい成果です。

ウラハの意図を汲み取り我も顔を合わせずに応えます。


「どの辺りだ?」


それぞれが地図を確認しながらウラハの報告を聞きます。


「ここら辺に川があるのわかるー? そっから、こっちに向かって移動してるー」


神殿を基点にした地図は、神殿の背面が方角の北を指しています。昨日は真南と南南西をウラハは飛行していました。今日は、最初に南南西へ向かい、南西を少し念入りに飛んだ後、西へ向かってから我らの所へ戻ってきました。

ウラハが念入りに飛行していた位置には川があるようでした。その川辺で夜営をしていた痕跡を見つけ、西へ向かうゴミを発見したとのことでした。魔物と戦闘していたようで、音で気づけたそうです。ウラハは「魔物に殺られなかったから、ボクたちで掃除できるよ!」と笑みを浮かべました。

森の西側からは馬車道のようなものも見えたそうです。おそらくゴミ共はそこへ向かっているのでしょう。急いだほうがよいかもしれません。ゴミ共が森を出てしまう前に…。


「間に合いそうか?」


「んー、遊ばなきゃよゆーっ」


魔物との戦闘を避け、周辺の観察を省けば可能だとウラハは答えました。


「では、"ゴミの排除"を行う。ウラハ、最短でゴミを片付ける道を先行。行くぞ!」


アリアが支援魔法をかけ直し、ウラハが走り出しました。

我とアリアには少々厳しい速度ではありましたが、ウラハを見失うほどではありません。最低限、ウラハとファングがいれば十分に"ゴミの排除"は可能ですし。

ただ、我らがバラバラに行動すると主が御心配なさるので、そこはウラハも気を配っているようです。

しばらくするとウラハが速度を落として木の枝へと飛び乗り、確かめるように《気配察知》を行っています。あの不愉快なゴミ共が近いのでしょう。


「この先の獣道にいる」


どうやらゴミ共を捕捉したようですね。

では、掃除するといたしましょう。


「血の一滴も残すでないぞ」


そう言うと我は周囲に視線を巡らします。

我の視界から外れた瞬間に、ウラハとファングが動き出しました。あとは2人に任せておけばよいでしょう。ゴミ(・・)など主の視界にいれるのも穢らわしい。


それよりも辺りを観察しましょう。

初めは以前に我らが探索した範囲だけでしたが、今はウラハが飛行した範囲にも主の魔力が色濃く感じられます。ということは、常に我らを御覧になられているようですから、何か興味を惹くものはないかと思ってました。


「終わったよー」


が、然程の観察する間もなく、ウラハとファングが戻ってきました。


「ご苦労であった」


あの程度の掃除には時間も掛かるわけありませんから、仕方ありません。これで、憂いなく地図作成マッピングに集中できるというものです。

この後も主のために進達いたしましょう。

お読みいただき、ありがとうございます。

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