22.魔法創造あれこれ
グランから言い渡された罰、ウラハと"ふれあい禁止"は、なんと5日間も続いた。
その間、私はファングのもふもふに触ることもできなかったのだ。大狼に座ろうとしたら、ウラハにダメだと言われてファングを取られてしまい、それから近寄らせてもらえなかった。ふわふわ不足の上にもふもふ不足で私の心は今にも枯れてしまいそうだった。
垣間見た人間の酷い行為に多少のショックを受けたこともあり、癒しのエネルギーが足りなさすぎた。目に見えるところにふわふわもふもふがあると我慢できなさそうだったので、私は神殿内のベットルームに引きこもり【魔法創造】に集中することで気を紛らわすことにした。
私が部屋に引きこもると判ると、グランからは丁度よいので途中になっている森の探索に行くと言い、神殿に1人置いていかれた。つまりは、森の地図作成が終了するまでが"ふれあい禁止"となったのだ。
グラン、容赦なく厳しいよ…。
1日目、2日目は魔法のイメージを固めることに没頭していたから1人でもかまわなかったが、3日目になって創った魔法を誰かに見てほしくなった。神殿に残された私の話し相手はヴェルフィアードだけだったので、アイテムボックスから『黒竜の神魂』を取り出した。
「なんじゃ、置いていかれて拗ねておるのか?」
「べつに?」
なんで1人で引きこもっているのかと訊かれたから、ウラハが命令に従わなかったのを叱らなかったら"ふれあい禁止"にされたと話したら笑われた。
「わはははははははっ! 使役しておる精霊に怒られるとはなぁ! まぁ、地の精霊が言うのも尤もじゃろう。甘んじて受けるお前もお前じゃがなぁ…」
私も注意するべきところを注意しなかったから、反省の意味を込めて大人しくしているのにヴェルフィアードの笑いは止まらない。
「ぶくくっ、そんなに不服ならぶふっ、お前が命令すれば取り下げぶははっ、るじゃろうにふははははっ!」
むぅ〜
やっぱヴェフィー出さなきゃよかった
こいつ笑いすぎーっ!
「…約束したからダメなんだよ」
「ふぅむ、約束を守りたいならしかたないのぉ。それで妾の結界まで改変して森に魔力拡げておるのじゃから、お前も大概過保護じゃなぁ、ふふふっ」
引きこもると言った手前、やっぱり一緒について行くとも言えず、ついて行ってもふわふわももふもふも禁止だし、でもグランたちに何かあったらと心配だった。
魔力さえ届く範囲なら、離れていても最悪の事態は強制送還で対応できる。だからヴェルフィアードの鳥居結界を解析して、私の魔力が中和されてしまう仕組みを変更、周りに影響がでない極々微量だけ流せるようにしたのだ。
もちろんグランに《視界共有》の魔法もかけている。探索終わるまで帰ってこないと言うから、定期的に報告もするようには指示している。
初日には全体地図が画き終わっていたから、ウラハで再び上空から確認したのだろう。その地図を参考におよそ100平方キロメートルの森全体に極薄魔力を拡げておいた。馬鹿でかいヴェルフィアードの森の探索も3日目になると、詳細地図が4分の3くらい画きあがっていた。
神殿の後方は森を囲むように山々が連なっており、前方はウラハが最初に向かった平野になっていた。森の中心より山側に寄った所に神殿は位置している。森の端からは近くに人が住んでいるような町や村は視認できなかった。ヴェルフィアードの森は人里から離れたところにあるようだ。
ヴェルフィアードは「結界があるから地道に歩いても絶対に神殿には来ることができない」と言っていたが、それ以前に森が広すぎて魔物と遭遇していたら余程の実力とサバイバル生活力がないと鳥居まで来るのも無理があるだろうと思う。
だからこそヴェルフィアードは気に入った者には転移アイテムを渡していたのかもしれない。
「ほっといてよ。それよりさ、【魔法創造】で範囲魔法を創ったんだけど、これ試し撃ちしても平気かな?」
「範囲魔法じゃと? 一応どんな魔法か言うてみろ」
とりあえず聞いてから判断するらしいので、簡単に効果を説明した。
《岩潰》
広範囲に巨岩石を数多落として対象を押し潰す
《炎獄》
紅い蓮の花のような炎が周囲一帯を焼き尽くす
《氷華》
周囲を凍らせて対象を蒼い氷の華に閉じ込める
《風裂》
強大な竜巻を起こして全てを巻き上げ切り裂く
話していくうちにヴェルフィアードが、「グゥ」とか「グハっ」とか変な声をあげている。魔法の名称が単純すぎて面白味に欠けるのだろうか。
「却下じゃ! どれもこの森で試すでないわ!」
えーっ!全部却下!?
この魔法って見た目もいいのに!
森広いし、端っこなら大丈夫でしょ?
「《岩潰》は落ちてきた岩でストーンヘンジができるし、《炎獄》は紅い蓮の花みたいな炎だし、《氷華》だって豪華な花が咲いてるみたいに見えるし、《風裂》なんて葉っぱが一緒に舞い上がって綺麗なんだよ?」
「見た目の問題ではないわ! そもそもお前の魔力で範囲魔法なんぞ放ったらどうなると思っておるんじゃ! 妾の森が消えてなくなってしまうわ!」
この広大な森が消えてしまう、とまで言われてしまった。
魔法なんて使ったことないからビジュアルの細部に至るまでイメージを練りに練って創ったのに、楽しみが見事に霧散してしまった。
ダメもとで、もうひとつ創った魔法も訊いてみた。
《流星群》
打ち上げた魔力が放射線状に拡がって、一群の流星のように降り注ぐ様が美しい
予想どおりに即却下された。魔力そのものを放つなんて最早論外だそうだ。
ヴェルフィアードは森から出ればダンジョンもあるから、どこかで魔法を放てる場所もあるだろう、と落ち込む私を慰めてきた。ただし、魔力の出力を抑えることを念押しされた。
「はぁ、もうちと実用性のある魔法を創れんのか?」
「実用性ってどういうの?」
「普通の冒険者どもが魔物討伐で小出しに使ってるような、地味魔法じゃ。そんな極大魔法ばかりじゃと、目立ってしかたないじゃろうが。『俺THUEEEE!』で目立ちたいなら止めぬがな…」
「ああ、それもそうだね」
言われてみればその通りだと思うが、然り気無く、普通の冒険者の魔法を「地味魔法」って言うのは如何なものか。
こそっと人に紛れて生活したいので、ヴェルフィアードの助言には耳を傾けることにした。
「それにじゃ、お前の外見からして見目良すぎて人目を惹くんじゃぞ?しかも常に身に纏っておる魔力も大きすぎるんじゃし、その上に強力な魔法を使うとなれば、小煩い輩が寄ってくるぞ?」
どうやら私が3日間考え抜いた範囲魔法は威力が大きすぎて、被害も大きければ消費MPも大きく、この世界では使える者はいないらしい。
そんな規格外な魔法と魔力を持ち、おまけに神格の外見はこの世界でも絶世の美形らしく、人の注意を引きすぎるそうだ。
ヴェルフィアードは、私が目立ちたいなら無理には止めないが、必然的に魔力が神官たちの畏れの対象にもなるだろうと言う。ヴェルフィアード自身も魔力が強いが故に神官によって畏れ敬われ、神殿に留め置かれているそうだ。そのことを聞いて、ヴェルフィアードは閉じ込められていたのか、と私は憤りを感じた。
そんな私の様子にヴェルフィアードは笑って、この世界では自由にならないが、異世界に干渉できることは知られていなかったから、それほど窮屈でもなかったと話していた。
もともと目立つつもりはなかったが、どこかに閉じ込められるなんて堪えられない。神官は特に魔力感知に秀でているそうだか、魔力を感知されないような方法も考えたほうがよさそうだ。
私が本気で抵抗すれば監禁なんて無理だろうけど。
「そういえば、鬼人もマズイ?」
「鬼人か…。あれは魔物と間違われるじゃろうのぉ…。ここには角のある人族などおらぬ」
がーんっ!
黒鬼がダメとか泣ける!
森から出る気が萎えるよー…
「じゃからな、普通に普通の冒険者が使うような普通の魔法を創ったほうがよいぞ?」
「…わかった」
ヴェルフィアードに普通を強調され、神生は儘ならないものだと私はいじけるほかなかった。
「ところで、妾を振るえるようにはなったのじゃろう? 原因がわかったから魔法なんぞ創っておるんじゃろう?」
荒む心を抉るようなことをヴェルフィアードが期待を込めて訊いてきた。今の話からすると、ほぼ『黒竜の神魂』を振るう機会は訪れることはない。鬼人であれば巧く刀を扱えるだろうが、鬼人だと魔物認定されてヴェルフィアードの言う"普通"ではいられない。この森の中でも人間に出会う可能性はゼロではないから、鬼人でふらふら歩き回るわけにもいかない。
つまりは、御所望のヴェルフィアードを振るって「俺つえーっ!」は滅多に出番がないということだ。
このことを何と言って伝えようかと言葉を探した。
「あー…。うん、まぁね」
「そうか! そうか! それでは試し斬りをさせてやろう!」
うわぁ、うきうきしてる…
どうしよー、すっごい言いにくい!
「今は無理かな。グランたちが帰ってきてからね」
「む。そうか、それもそうじゃな! 観客がおらんとつまらぬからな!」
私が濁した言葉をヴェルフィアードは都合のよいように解釈していた。ますます人目があるところでは出番がないことが言い辛くなってしまった。
ひと先ずこの話は終わりと告げて、私は引き続き魔法創造に取りかかることにした。ヴェルフィアードも魔法の創造に付き合うと言うから、アイテムボックスには仕舞わずに残したままだ。
「今度は普通の魔法にするのじゃぞ?」
「普通、ねぇ…」
普通と言われて思い付くのは、ファイヤーボール、ウォータースフィア、ウィンドエッジ、ストーンブラストだが、どれもゲームで魔法職が最初に覚える初級魔法って感じだ。
ヴェルフィアードはそれで良いじゃないかと言うが、私的には面白味に欠けると思う。
「なぜお前は奇をてらうのじゃ…」
「だって、火と水の球に風の刃と石礫だよ? こう、ビジュアルがしょぼい!」
「しょぼくてよいわ!」
「えー。あ! じゃあさ、光線とかは?」
「そんなもん、この世界にあるわけなかろうが! せめて光の矢くらいにしておけ!」
光線は棄却されたが、光矢なら許可らしい。線と矢で何が違うのかと思うが、矢系でちょっとよい感じのイメージがわきそうだったので、ヴェルフィアードの意見を採用することにした。
結果、初級魔法4つと矢、ヴェルフィアードに内緒で光線も遠隔操作型で創っておく。
「矢に附与くらい付けてもいいよね?」
「まぁ、それくらはよかろう」
ヴェルフィアード言質はとったので、属性の光、火、水、風、地、闇と派生で氷、雷、状態異常系の毒、沈黙、睡眠を創った。
「〜〜〜っ! その状態異常というのはなんじゃ!?」
「敵に状態異常を引き起こす矢だけど?」
「なんでそんなもん創ろうと思うんじゃ…」
「ほら、生きたまま捕まえたい時とか便利でしょ? あ、麻痺もあった方がいいよね。追加しとこー」
「いらんじゃろぅが…」とこぼすヴェルフィアードには言わないが、状態異常系は対人用に有効だと考えている。
私たちにとっての害悪は即斬でもよいが、人の世は複雑なので裁きはこの世界の人に任せた方がよいと思う。
「なぜじゃ…。肉体がないのに頭が痛いわ…」
「大丈夫?」
「誰の所為じゃと思っておる!?」
その流れだと私が原因みたいじゃない?
オトナシイ魔法しか造ってないのにー
普段使いでも、もうちょい迫力あるのがほしい…
「お前の所為じゃからな!」と騒ぐヴェルフィアードを無視していたら、大きなため息を吐かれた。騒ぐのを諦めたようで、しばらく休むからグランたちが帰ってきたら呼べと言ってヴェルフィアードはアイテムボックスに戻すことを要求してきた。私は「仰せのままに」と応えてヴェルフィアードを格納する。
去り際に、これ以上"奇天烈"な魔法を創るなと言っていたが、私は至って"普通"である。
グランたちが帰ってきたのは、ヴェルフィアードと魔法談義してから2日後だった。
その2日間に私はベットに寝転びながら新しい魔法を創っていた。あまり数多く創っても使う時に迷いそうだったので、厳選を重ねて初級魔法の上位版を4つと、地味だが相手を拘束するのに使えそうな重力魔法を創造した。
《フレイムバースト》炎の爆発を起こす
《ブリザード》猛吹雪を起こす
《サンダーストーム》雷を伴う暴風を起こす
《グランドクラック》地割れを起こす
《グラビティ》重力を操る
またヴェルフィアードに"いちゃもん"付けられると萎えるので、新しい魔法については話さないことにした。
【魔法創造】という楽しい作業を終えて、特に問題なく帰ってきたグランたちを私は出迎えたのだった。
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