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THE NEWWORLD  作者: cyan
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2.やっぱり精霊でした

いったい私の身に何が起きているのか解らない。

解らないが、今はこの腕の中にいるグランを助けなければならない。

彼がこんなにも衰弱したのは私が原因だ。

なのに、グランのトパーズ色の瞳は慈愛に満ち、私を直向きに見ている。

その眼差しに後ろめたさを感じて、どうすればよいのかと私は目を反らした。



どどどどどど、どうしよう…

か、回復だよね?

ポーションかアリアの回復魔法で…

ってか、ゲームみたいに回復できるの???



焦り考え込む私の腕の中でグランが身を捩って離れようとするから、反射的に腕に力を入れて動きを制した。

少し力を入れただけで拘束できたグランの体には全く力が入っていなかった。


「無理に動かなくていいからっ!」


こんな状態に陥らせたのは私だから、もしかしたら恐怖を感じて離れたいのかもしれない。


「そうはいきません。いつまでも主に寄り掛かるなど…」


躊躇いを眉間に皺として刻み、心なしか張りが戻ってきた声ではっきりとグランは言う。

恐怖よりも遠慮のほうが強いように感じた。


「辛い思いをさせて、ごめん…」


グランの眉間の皺が深まり、私の謝罪に何度も小さく頭を横に振る。

その小さな動きですら辛いだろうに、懸命に私の非を否定する痛々しい様に泣きそうになった。


「大丈夫でございます。人でいうところの魔力あたりのようなものです。今の凪いだ主の魔力が我を癒してくださいます」


その言葉にゲーム内での精霊の設定を思い出した。

NPC精霊にはポーションも回復魔法も効かなかった。精霊を回復させるのはゲームアバター(自キャラ)の魔力の譲渡か自然魔力の吸収だけだ。

ゲームの設定がそのまま有効なのか、疑問に思う。

さっきグランは私の魔力が強すぎると言っていた。

そして、今は魔力あたりのようなものだと。

暴力的に供給される魔力は抑まっているが、体の中にはもて余す量の魔力が溜まっているのだろう。

ならば、その溜まっている魔力を循環させ、外に逃がすことがことができればよいのではないのか。



うん、たぶんやれる

なんとなくだけど、魔力の流れが解る!



私はグランの頭から足先にスキャンさせるように視線を滑らせる。

胸の辺りに濃い魔力が溜まってるのが解る。


「主…?」


「そのまま動かないでね」


訝しげに問うグランに声を掛け、左手を彼の胸に押し当てて、ゆっくりと掌に魔力を集める。

一気にするとグランに負担がかかるかもしれないから慎重に行う。

じわじわと掌が熱をもってきた。過剰となっている魔力が粗方吸収できたとわかり、グランの顔を見た。

目を見開き、驚いた表情をしている。老獪なイメージだった彼の意外な一面に可愛いと思った。


「気分はどう?過剰魔力は大分とれたと思うんだけど」


「あっ、はい。とても楽になりました」


グランの顔色はずいぶんと良くなっている。

あとは人間でいうところの血液の循環をイメージして、魔力の流れを調える。

彼の体の強張りが解けていき、穏やかな笑みが蘇った。

ふぅと安堵の息をつき、私はグランの胸に当てていた手を離した。


「もう大丈夫でございます。お手間をお掛けいたし、申し訳ございません」


そう言ってグランは身を起こし、今度は制止する間もなく私の腕から抜け出した。

そして、いつの間にか私の後ろに控えていた2人に並ぶように膝をついて頭を下げた。まるで臣下の礼をとるように居並ぶ3人がいた。

理解不能な状況下で私の思考は、本日何度目かのフリーズを起こした。



おおぅ!

いつの間にか2人ともいるし!

この状況はどいうことでしょー…?



「主よ。此度のお目覚めの際にお側に控えておらず、ご不興を買いましたこと、改めて謝罪申し上げます。また、我の不徳の致すところにより、主にご負担をお掛けしたことも、重ね重ね謝罪申し上げます」



はいー!?

ちょっと待ってくださいーっ

ご不興って何ですか!?

つか、グランのことは私が原因だし!(たぶん)

もぅ誰かこの状況の説明して…



「・・・・・・」


3人を代表するようにグランが話す内容に、意味がわからず無言になってしまった。

目の前の3人は、やっぱり私がプレイしていたオンラインゲーム『THE NEWWORLD』のNPC精霊にしか見えない。


ファングは火属性の精霊で、ソロプレイヤーだった私の戦力強化のために二番目に使役した。

自キャラの育成に行き詰まった際に、ソロでは倒せない敵を魔法剣を振り回して文字通り焼き払ってもらっていた。要は戦闘要員だ。

ソロで大抵こなせていた最近では、ボスクラスの取り巻き清掃係になっていた。


ソロプレイヤーに必須の回復薬を節約するのに手に入れたのが、三番目に使役したアリアだ。

水属性のNPC精霊で、防御、回復等の支援魔法が得意な彼女にはお世話に成りっぱなしだった。

ソロで無双乱舞したかった私が、敵のど真ん中に突貫するのを支援魔法の届くギリギリの範囲で付いてこさせてた。

今思えば、かなり無茶苦茶やってたと思う。


そして最後に使役したのが、今この場にいない風属性のNPC精霊ウラハだ。

自由奔放に動く私は一度アリアを瀕死にしたことがある。その時はグランの援護でなんとか持ちこたえたけど、基本的に戦闘には不向きなグランでは心許なかった。

グランの助言でアリアの護衛にと、察知能力にも長けた斥候、遊撃手としてウラハを使役した。


どの子も大事なNPC精霊たち。

そう、NPCだったはずなのに、眼前にいるその存在は生々しく、今は決まったセリフではなく『会話』が成り立っている。

会話の内容には、何かしらの誤解が生じているのは否めないが。


そもそも、私自身の置かれている状況がまったく不明なのに。

とにかく落ち着こうと深呼吸をして、目を閉じた。

その行動が悪かったのか、ピシリと音が聞こえるように場の空気に緊張がはしってしまった。

焦って目を開けると、3人の肩が震えている。


「ど、どうか、主様、私どもを、お赦しいただけませんか?」


「アリア!お赦しになられるかは主がお決めになること、我らが懇願することは相成らん!」


「しかし、グランこのままでは」


「言を控えろファング!」



あー。やっぱりアリアとファングなのね

いや、もういったん何もかも置いといて…

これの収拾つけるの私なの?

主とか言われてるし、私しかないの??

泣きそー…



「えーっと…」


「「「っ!はいっ!」」」


きれいに揃った3人の返事に圧された。

恐れと期待に彩られた3人の瞳に見詰められて、後退りたい気持ちを堪える。


「とりあえず落ち着いてくれるかな?」


「はっ!お見苦しい姿をお見せし、も」


「それもいいから!」


何度も謝られては話が進まないので、少し厳しい口調でグランの言葉を遮った。

可哀想なくらい畏縮させてしまったことに、ちくりと胸が痛む。

良くできた夢だと思いたいが、現実だと思う自分がいる。

ともかく、事態の収拾が先だと自分に言い聞かせて口を開く。


「まず初めに、私が原因で皆を苦しませてごめんなさい」


親しき仲にも礼儀あり、を実行すべく謝り頭を下げた。

またグランが何か言うかと思ったが、特に何も言ってこないことにほっとして顔を上げたら、3人とも目が落ちるんじゃないかと思うほど見開いていた。

驚愕という表現がこれほどしっくりくるのもなのか、と感心すらした。



びっくりまなこだ!

なんか可愛いなコイツら!

でも何で驚いてんの?



何に驚いているのか不思議で、こてん、と首が自然に傾いた。


「あ、主が頭をお下げになることはございません!元を質せば我らの不徳のいたすと」


「はい、ストップ!」


慌てて話し出すグランを再び止める。

どうやら3人いたら私と会話するのはグランと決めているらしく、ファングとアリアは目で訴えてくるだけだ。

今はそれも横に置いておいて、誤解を解くことにした。


「そもそも、そこが間違ってる。貴方たちには何も落ち度がないし、私は怒ってないよ」


「ですが、この部屋に参った時は、主の魔力は負の感情に満ちておりました。主があれほどの魔力を放たれることも、我には初めてのことにございます。思い当たることと申しますと」


私は左手を頭を抱えるように額にあて、何度も話を遮って悪いとは思うが、右手を挙げて三度グランを制止する。



あーあーあー。負の感情ね

まぁね、不安ってマイナス感情だよねぇ

いろいろ勘違いだよね、おもに私が原因の!



「あー。それは、別に不安に思うことがあったからで、怒ってるわけじゃなかったんだよ。誤解させてごめんねぇ」


「不安、でございますか?」


「うん、そうだよ。怒ってないから、この話はこれで終わりにしよう」


ファングとアリアが安堵の表情を浮かべ小さく「ありがとうございます」と言う中、グランだけは思案げにして口ごもる。

何か言いたそうなのに言えない様子に先を促す。


「グラン?どうしたの?気になることあるなら言ってほしいな?」


「その…、主は今も何か不安に思われておられるのでしょうか?畏れながら、長らくお仕えしておりますが、我には主の表情の機敏がわからず…。」


「・・・・・・」



表情の機敏とな?

もしかして、無表情ってこと?



今、私はびっくりした顔をしているはず。

そっと両手で頬を触ってみたが、表情筋が動いていなかった。

事態の収拾がつきそうで、声もやっぱり男性だよなぁと頭の片隅で考えて余裕だったのに、無表情のほうが不味い気がした。

これだと私が原因の誤解が悪化しやすく、相手にとっても表情のない者との意志疎通は難しいはずだ。


「・・・・・・」


ぁーとか、ぅーとか、無表情で唸る私に、グランの心配そうな無言が刺さる。



ま、まぁね!

昔から無表情ポーカーフェイスは得意ですから…

ここは開き直りでっ!



「グラン、とりあえず私の無表情ポーカーフェイスは無視してもらって、話すことを信じてもらえないか、な?」


言葉尻は本当に私を信じてもらえるか躊躇いがでてしまった。


「もちろんでございます!我らが主の言を疑うことなどありません!」



あ、そうですか

全然、まったく、少しも私を疑わないのね

それでいいのか?

いあ、まぁ、ありがたいけどね



「我らの忠誠は主唯御一人に捧げてございます。何なりとお命じください。必ずや、主のお感じになられている不安を払拭いたします。どうか、これからも我らに主の元で仕える栄誉をおあたえください」


それどころか、忠誠を捧げてくれてると言ってくれる。

そこまでしなくても良いのにとは思ったが、訳のわからないところに独りで放り出されても困るから、正直に嬉しい気持ちを伝えた。


「ありがとう。貴方たちが一緒にいてくれて良かったよ」


私はにっこりと微笑んだ。つもりだけど、おそらく表情にはでていないのだろ。感謝の気持ちが伝わればよいなと念じていた。


「感謝などご不要でございます。いつ如何なるときも、我らは主と供に…」


グランは眉をハの字にして泣きそうな、嬉しそうな顔をしている。

涙腺が決壊したアリアは、涙を流して幸せそうにしている。

なぜか熱でもあるように顔を赤らめて、にこにこしているファング。

キラッキラの3対の瞳に、もふもふの耳とふぁっさふぁっさの尻尾が見えてしまった。幻覚だとはわかっているけど…。

ピクピク動くもふもふ耳、千切れんばかりに振られるふさふさ尻尾が全身で表現している。



この子たち、私のこと好きなんだ…

飛びつきたいのを我慢してるわんこみたい

うーん、私のこと好きすぎるでしょ!?



幻覚に惑わされている場合ではないと、軽く頭を振り思考を切り換える。


「じゃぁ、いろいろ不思議なことになってるみたいなんで、現状確認と今後のことを相談しようか」

お読みいただき、ありがとうございます。

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