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THE NEWWORLD  作者: cyan
12/33

12.心ゆかしきわたしの主様(アリア視点・後編)

どうしたら魔物を灰にせずに、潰さずに仕留めることができるのか、思案しましたわ。

わたしは気付きましたの。

倒そうとするからダメなんですわ!


「そうですわ!ワイルドベアくらいならグランが《マッドバインド》で足止めして、ファングが捕まえればいいのよ!」


「それって、足止めしてても攻撃くらったら反射で潰れるんじゃ…」


たしかに、その可能性はありますわ。《反射防御結界》もファングの素手と同じくらいは威力ありますものね。


「大丈夫ですわ。ファングの支援は全部、解除してあげるから安心して攻撃されなさい」


わたしは名案に笑みが隠せず、グランに作戦の賛同を促しましたの。ファングを顔がひきつってるのは目の錯覚ですわ。


「魔物を持ち帰らなくとも、主は何も仰らないと思うのだが…?」


「ダメよ!地図作成マッピングだってそんなにできてないのに、せめて魔物くらい持ち帰らないと!」


グランは解っていないわ。思ったよりも探索が進んでいないのに、こんなんじゃ役立たずだと思われてしまうわ。


「じゃ、じゃあさ、ちっこい魔物にしようよ?」


「大きい方がいいに決まってるでしょ!」


小型の魔物なんて呆れられてしまうに違いないですわ。ワイルドベアくらいの大きさでないと満足してもらえないに決まってますもの。

そんなことも解らないなんて!

いけない、冷静にならないとダメですわ。


「いいから傷つけずにワイルドベアを生け捕りなさい」


反論は許さないと言外に込めて、わたしはファングを睨み付けてあげましたの。


「はぁ…。アリア落ち着かぬか。何をそんなに焦っておるのだ?」


「焦ってなど、いませんわ。ただ、主様のお役に立ちたいだけですわ」


じっと見つめるグランの瞳に、わたしは心の内を見透かされているようで居心地が悪くなって顔を背けたわ。

でも、グランの追求からは逃げられないですわね。わたしは観念して、わだかまっていたことを訊いてみることにしたの。


「ねぇ、グラン…。神格を得られて、この世に比類なき御力をお持ちになった主様に、わたしたちは本当に必要なのかしら…?」


「…我らが必要か否かは主がお決めになること。我らが主の御心を推し測るものではない」


「そう、ですわよね…」


それは解っているわ。


「ただ我らが在るのは主のお側であって、我らの還る場所は主の御元である。主は我らがいて良かったと仰せになられた。我はその言葉を信じておる」


「…そんなこと、解ってますわ」


「そうか。さぁ、もうすぐ夕刻になる。あと1時間だけ探索を続けて、ワイルドベアがいたら今の策を実行し、他の魔物は倒す。1時間たったら神殿へ戻ることにする。よいな?いや、異論は認めぬ」


たった1時間なんて短すぎますわ。でも、異議を唱えたらこのまま神殿へ帰ると言われそうですわね。

わたしは言葉をのみ込み、承諾の頷きを返したの。


それからしばらく探索を続けても、出てくる魔物はホーンラビットとポイズンスネーク、ラージラットくらいでしたわ。神殿前から5キロメートル範囲には、兎に蛇に鼠だなんて小物しか見当たらないわ。さっきのワイルドベアは、たまたまいただけなのかしら?

時間はあとどれくらい残っているか気になって、グランに顔を向けると、意を察して答えてくれたわ。


「そろそろ1時間になる。アリア、決めた通り神殿へ…っ!!」


探索の終了を告げるグランの表情が変わり、魔法の発動態勢になったの。


「ファングっ!」


鋭いグランの声、同時にわたしの後方で発動される《マッドバインド》に振り返ると、ワイルドベアが泥に足を捕られてましたわ。

ファングがわたしの横を走り抜け、ワイルドベアに接近しようとした時、主様からの念話が届きましたの。



(誰か聞こえる?)


ワイルドベアは襲い掛かるスピードを抑制されても、接近してくるファングを迎え撃とうと爪を振り上げている状況でグランが意識を逸らすのは危険だわ。


「アリア、主に返答を」


主様への応答をどうするべきか迷っていると、グランから返答を任されたの。わたしは頷き、主様に返答いたしましたわ。


(はい、主様。聞こえております)


グランからの返答でないことに驚かれたかしら?



(いま話しても大丈夫?)


わたしが返答したことで、状況を察しておられるのか、気遣ってくださるの。

主様は本当に聡明でお優しいですわ。


(申し訳ございません、少々、お待ちいただけますか?)


(ん、わかった)


申し訳ないですが、主様には少しお待ちいただくことにして、ファングに急ぐように言ったわ。


「主様をお待たせしているのですから、さっさと捕まえなさい!」


「わーってる、よっと」


そう言うと、ファングは振り回してくるワイルドベアの爪を難なく避けてますわ。正面から立ち向かっていると、牙で噛みつかれそうになったので、一旦下がって回避したようですわね。

怪我なんてしないでよ!

主様に心配かけるじゃないですの!

スピードではファングが勝っているので、今度は後ろに回り込み、体を捩ろうとしたワイルドベアを泥地に押さえ込みましたわ。やっと捕獲できましたのね。


「ご苦労。そのまま押さえて…ああ、気絶しておるのか。逃がすでないぞ」


「潰さないようになさいよ」


せっかく綺麗に捕まえたのを逃がさないように、潰さないようにワイルドベアを押さえているのを確認して、グランが主様に念話しましたわ。


(お待たせいたしました、主)


(戦闘中だった?大丈夫?)


(捕獲いたしましたので、大丈夫でございます)


主様からは思っていたのと少し違う反応がありましたの。喜んでくださると思ったのに…。


(…誰か人に会ったの?)


(いえ、申し訳ございません。人族と思わしき者には未だ遭遇しておりません)


「人」と言われたわ。

主様は人族の捕獲を望んでらしたの…?


(そんな簡単には会えないと思うからいいよ。そろそろ帰ってこれるかな?いろいろ解って、ウラハの再召喚ができそうなんだけど…)


(ほんとですか!?マスター!すぐ戻ります!!)


グランの「人族ではない」との応えに、落胆されていらしたような気がするわ。ファングが主様の言葉を遮ってしまったから、はっきりとは判らなかったけれど。


(慌てなくていいからね。気をつけて帰っておいで)


(かしこまりました)


主様の念話が終わると、グランが渋面を作ってましたわ。


「ファング、主のお言葉を遮るのは感心せぬぞ」


「わりぃ…」


案の定、グランに叱られてますわ。

でもそんなことで時間を費やしている暇はありませんわ。


「早く主様の元へ帰りますわよ」


わたしたちは一路、神殿へと走り出したの。もちろんワイルドベアはファングが担いでますわよ。

自分の体よりも倍近くあるワイルドベアを担いでいても、ファングの走る速度はわたしとグランよりも速いですわ。


その後ろ姿を見ながら、さっきの主様の念話を思い出しますと、気が滅入ってきたの。

どうしよう…。主様は人族を捕まえてほしかったのに、わたしたちは魔物しか捕らえられていないわ。

神殿へ近付くにつれ、わたしの足の動きは鈍ってしまったの。

神殿にかけた結界が解除されたことで、主様が神殿の外へ出られたことは解っているわ。尚更急いで戻らなければいけないのに。


「アリア?どうした?」


わたしが遅れだしたことに気付いたグランに問われて、それに伴ってファングも足を止めたわ。


「マスターが待ってる!早く帰ろうよっ!」


「解っているわ。でも…」


「なんだよ?帰りたくねーの!?」


わからないわ。わたしは帰りたくないのかしら…?


「ファングやめぬか。アリア、いったい何を気に病んでおるのだ?」


どうして2人は何も思わないのかしら?


「このまま帰れば主様は落胆されてまうわ。きっと役立たずだと、わたしは要らないと言われてしまうわ!」


「ふむ?なぜ、そう思うのだ?」


グランもファングも理由が解らないって顔してますわね。


「なぜって、主様は人族の捕獲を望んでいらしたようでしたわ。なのに…」


「主はそのようなこと仰せではない。ましてや我らを慈しんでくださっても、疎ましく思われたりせぬ」


そう強く言い切れるグランの自信が羨ましいわ。

わたしには、その自信が持てないの…。

本当にわたしは主様の元に帰ってもよいのかしら…。

主様はわたしを迎え入れてくださるのかしら…。


「マスターは俺らのこと要らないなんて思ってない。そうじゃなかったら、ウラハのことをあんなに気にかけてくれるはずない。グランのことだって助けてくれるはずない。さっきだって『帰っておいで』って言うはずない。マスターは俺たちが帰ってくるのを待っててくれてる。これは絶対だ!」


ファングの迷いのない言葉に驚かされたわ。

今だって主様はウラハの再召喚を考えていらっしゃるし、グランを救ってもくださったわ。「帰っておいで」とも言われたわ。全部、本当のことだわ。


「アリアは難しく考えすぎなんだよ。マスターの言葉をそのまま受けとればいいのに。不安ならマスターに訊けばいいんじゃない?ちょっとくらい我が儘なこと言っても、ちゃんと話し聞いてくれると思うけどなぁ」


まさかファングに諭されるなんて思ってもなかったわ。

なんだか馬鹿で素直な言葉が癪に障って、意地悪なことを訊いてしまったの。


「もし、戦うしか能のないあなたが、戦闘に必要ないって言われたらどうするの?」


「ひでー言われよう…。別にどうもしない。もし俺が戦闘で必要ないなら、他のことをするだけだ。だって、俺はマスターの側にいたいから…。でも、俺が戦闘で要らなくなるわけないね!」


どこからくるのか、変な自信を持っているファングが憎らしくも、羨ましく思ったわ。

そうね、わたしも主様のお側に在りたいの。胸の中に燻るものはあるけれど、そこだけは揺らぐことない思いだわ。


「ふぅ…。わたしまで馬鹿になるとこでしたわ。お馬鹿さんは1人で十分ですのにね」


「ちょっ!誰のことだよ!?…ったく」


ガシガシと頭をかきながら笑うファングに、少しだけ感謝してあげますわ。


「そろそろ主も待ちわびておられる。戻るぞ」


「ええ、戻りますわ」


「おーっし!俺、先に行くからな!」


肩からずり落ちそうになっていたワイルドベアを担ぎ直して、ファングは1人で駆け出して行ったわ。ちょっと見直したと思ったけど、さっきのは幻でしたのね。

グランはくすりと笑って、わたしと並んで歩きだしたの。


近くまで戻って来ていましたから、すぐに主様のお姿が見えましたわ。

ファングが捕らえたワイルドベアを差し出して、得意気に報告をしているようですが、気絶から覚めてワイルドベアが動いてますわね。イヤな予感がして、わたしが駆け出したのと、ワイルドベアが主様へ飛び掛かったのはどちらが早かったかしら。



グシャリ



「グエェ…」


なんとも品のない音がしましたわ。

主様に獰猛な爪が届く前に、わたしの肘打ちがワイルドベアの体を歪めましたわ。いくら身体強化しても、わたしの攻撃では倒せないのですね。今回に限ってはせっかく捕獲した物を壊さなく良かったと、自分の非力さを慰めましたわ。

それにしても、とファングに目線を流して無言の批難をしてあげましたの。たまたま、わたしの方が早く接近できたから良かったものの、一歩間違えば間に合うことのない距離だったわ。ワイルドベアごときで、主様に傷などつくはずないと解っていても、敵対行動をとらせるなんて。今頃ワイルドベアを拘束して、その失態に青い顔をしても遅いですわ。

主様はお怒りではないかしらと様子を伺うと「もう良い、構わない」という風に腕を下ろされたの。

何も仰らない主様の寛大さに感謝なさい、とファングを一瞥しておきましたの。


「主様、失礼いたしました。ただいま戻りました」


非礼をお詫びし、まだ少しだけわだかまりの残った心を隠して帰還の挨拶をしたわ。





「おかえり。みんな、ご苦労様」





不思議なことに、主様に「おかえり」と言われただけで、わたしの中でもやもやしてたモノが薄くなっていったの。グランやファングの言葉でも全ては説き解されなかった想いでしたのに。


そう、主様は神殿の外にまでお出になって、わたしたちが帰ってくるのを待っていてくださったわ。

お顔には表されなくても態度で、優しい声音で示してくださった…。


その主様のたった一言で、わたしの還る場所が主様ここに在ると思えたの。

お読みいただき、ありがとうございます。

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