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THE NEWWORLD  作者: cyan
10/33

10.精霊の再召喚

周辺の探索から帰ってくる3人を出迎えるために、神殿の外扉へと向かった。

アリアが施していった結界は私が外に出たら消えてしまった。どんな設定の結界だったのか…。

外へ出てみると、送り出した時は陽が高かったのに、すでに夕刻の様相を見せていた。かなり長い時間ヴェルフィアードと話していたみたいだ。

もしかしたら地球と同じ様に太陽が昇り沈むのだろうか。夜には月がでるのか後で確かめることにしようと思う。


神殿の前は広場のようになっていて、5メートルほど先に鬱蒼とした森が姿を見せている。

私は外扉前の3段ある階段の一番上に腰掛けて、森の樹々を眺めて待つことにした。


このヴェルフィアードの森は、地道に歩いても絶対に神殿には来ることができないそうだ。

ヴェルフィアードが認めた者しか神殿まで辿り着けないように結界が張ってあるらしい。

認めた者なんているのかとヴェルフィアードに訊いたら、昔は何人かいたそうだが、500年以上経っているから誰も来れないだろうと言っていた。それだけ経っていれば、人間なら生きてはいないだろう。


このヴェルフィアードの森には、かなり危険な魔物もいるが、人族たちは高額な対価をもたらす魔物を求めてやってくるらしい。魔物から剥ぎ取れる毛皮や牙、爪に肉、骨まで素材としても高価だが、魔物の体内にある魔石が一番の狙いなんだそうだ。

ただ、半端な実力では手に入れるのは難しいと言う。あとは運次第。運が良ければ宝の山を手に入れられるが、運が悪ければ生涯をこの森で終わるとか…。

終わり方については訊くのをやめておいた。気持ちのよい話ではないのが安易に予想できたし。


では、ヴェルフィアードが認めた者たちは、かなりの実力者だったのかと訊くと、そうでもないらしい。

この森で偶然に出会った人族の内、気に入った者に『証』を渡したそうだ。ようするに、気まぐれだったということだ。

『証』はヴェルフィアードの鱗に転移魔法を付与したもので、所有を許された者が森に入り、ヴェルフィアードに会いたいと願えば、標のある場所まで転移できる設定にしていたらしい。

転移先が神殿ではないのは、前のプレイヤーが嫌がったためだそうだが、それなりの強さがあれば、転移先で魔物に襲われても平気だと言っていた。



それなり、ってどんくらの強さよ?

つか、安全なとこに転移してやれよ…

気まぐれってこわいねー



ウラハを召喚したら上から見てもらおうかと、ぼんやりと考えていると、生い茂った樹々の間を何かが走り抜ける音が聞こえてきた。

慌てなくてもよいと言ったのに、最大速力で走ってきてるであろう3人が可愛くてしかたない。

樹々を走り抜けてくる音が近づいてきて、私の真っ正面に大きな影が飛び出してきた。


ドシンっ、と地響きをたてて着地したそれは、逆光を受けて大きな影を落としていた。3人の誰にも思えない影は、体格の一番大きいファングより3倍はあり、知らずと身構えていた。


「お待たせしました!ただいま戻りました!!」


ファングの声である。にかっと笑う顔に脱力し、その肩に担がれている荷物と彼の顔を交互に見る。

全身が毛皮の茶色いでっかい荷物。鋭い爪のようなモノもちらりと見えて、「グルルルッ」と元気に唸っている。

でっかい荷物から離せなくなった私の視線、それに気付いたファングが得意気な顔をした。



んなドヤ顔っ!

にゃ、にゃにを持ってるんだい!?

毛むくじゃらででっかいよ!

それ生きてるよね?

もろナマモノだよね!?



「魔物が見たいと言われたので捕まえました!」


ドスンっ、と私の目の前1メートルに荷物を下ろした。

ファングは「頑張ったよっ!褒めてっ!褒めてっ!」と私にだけ見える尻尾を振っているが、それどころではない。

地面に投げ出された荷物は熊、ではなくワイルドベアに見える。ワイルドベア、つまり魔物である。その魔物が私を標的に「グルルッ」と睨んできている。



Oh!No!!

捕獲ってコレかっ!

ロックオンされてるよっ!

これフラグ立ってるよね!?



お約束通りにワイルドベアは私に向かって、牙を剥き出しで突進してきた。わずか1メートルの距離を詰めるのに1秒もかからない。

この近距離でも私なら対応できる自信はあった。ただ回避するだけでもよいし、殴りつけても倒すことはできる、が問題が残る。

ワイルドベアの突進を回避すると後にある神殿の扉が壊されそうだし、殴ると、たぶんスプラッタになると思う。

上手く力の加減ができそうにない。

わざわざ生け捕りにして、せっかく持って帰ってきてくれたモノを潰すのは忍びなかった。

残る手段は噛みつかせて捕まえるくらいか。

瞬時にそこまで考えて、腕をワイルドベアへ突きだした。


グシャリとグエェという音が重なり、私の腕がワイルドベアに噛まれる、ことはなかった。

グエェと胃の中身を吐き出す音はワイルドベアの口から。

グシャリと音を立てたのは、ワイルドベアの脇腹に肘をめり込ませているアリアだった。



ああああアリアさーんっ!

なかなか素敵なエルボーですねっ!

熊さん「く」の字になってるよ…



私の腕は所在なく宙をさ迷って、下ろすしかなかった。

一番乗りで帰って来たファングの向こうに、歩いてくるグランとアリアも視界の端に見えていた。2人とも歩いていたのに、ワイルドベアが牙を剥いた時にはすでにアリアの姿が消えていたのだ。

アリア本来のスペックなら、私の腕が噛まれる前に間に割って入るのは無理なはずだ。異世界は摩可不思議なことが起きるものだなと感心するに止めることにした。けっしてアリアの冷ややかな目が怖かったわけでない…。

ワイルドベアに打ち込んだ肘を抜き、ファングを一瞥するアリアの瞳は絶対零度の女王様に見えたとしても、怖かったわけではない。

ぴくぴく痙攣しているワイルドベアを、ぎゅうぎゅう抱き締めるファングのあったらいいな犬耳はぷるぷるしている。

私は何も見なかったことにした。


「主様、失礼いたしました。ただいま戻りました」


「ただいま戻りました」


優雅にお辞儀するアリアに続いて、最後にグランが私の前までやって来た。どうしてワイルドベアの生け捕りという選択に至ったのか、経緯を問い質したいが、まずは3人を労った。


「おかえり。みんな、ご苦労様」






◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇






全員が揃ったので神殿の中に入り、神座のある大広間に戻ってきた。相変わらず、石床に直座りである。

私はヴェルフィアードから聞いた精霊の再召喚について説明する。異世界召喚や神の役割的な話は省いて、刀剣となったヴェルフィアードのことは話した。


ちなみに、さっきのワイルドベアは、神殿の前に檻を造って置いてきた。グランの魔法 《ストーンピラー》でだした石の柱を柵状に並べて、器用に檻を作成したのだ。ワイルドベアは大人しく気絶してくれている。

もちろん、3人を褒めることも忘れてはいない。


いつまでもウラハを放ったらかしは可哀想だから、さっそく再召喚することにした。

私は立ち上がり少し後に下がって3人から距離をとる。座っててよいのに、律儀にも3人とも一緒に立ち上がった。

魔力のコントロールに挑戦するのが手間で、今回は私自身を『鬼人』に変化させようと思う。ヴェルフィアードは念じれば変わると言っていたので、「鬼人、鬼人…」とアバターの姿を思い描いてみた。





「先程の美麗なお姿でしたが、相も変わらず凛々しいお姿でございますね、主」


グランの言葉に変化できたことを知る。

自分の体を見下ろせば、着ている服ごと変わっていた。ゲームの中で街で着ていた灰色の着流し、流れ落ちてくる銀色の髪、手を見れば黒色の肌をしている。



ちゃんと変わってるねっ!

はっ!私、最初の姿って見てないっ!

鏡ってあったかなぁ?

まぁ、後でいいや



目的の魔力の供給量が減っていることが顕著だったのは、グランたちの姿だ。半透明になっていて、触れようとしてもすり抜けてしまって残念だった。私は気合いを入れて、前と同じように両手を広げる。右側に送還魔方陣、左側に召喚魔方陣を同時展開させた。


魔方陣が緑色の光を放ち、一際大きく輝いた。





「あるじーっ!」


舌ったらずの可愛らしい声がして、同時に腹部を襲った衝撃に堪らず尻餅をついてしまった。

ぐりぐりと私のお腹に押し付けられる新緑色が、ふわふわ揺れている。押し倒されたまま、腰に回された細い腕と子供のような体躯を見やる。


「ウ、ウラハ?」


「はいですっ!」


ウラハの名前を呼ぶと、がばっと顔があがりエメラルドの瞳が見上げてきた。大きな瞳にピンク色に染まった頬が柔らかそうで、つい触りたくなる。



かわいいーっ!!

何これっ!何これっ!

目おっきいよっ!

お人形さんみたいーっ!



「あるじっ!あるじっ!待ってたんだよー」


拗ねた顔をして頭をまた私にぐいぐい押し付けてくるのが可愛くて、思わずぎゅっと抱き返していた。次いでウラハの頭に手をのせ、柔らかい髪を撫でてやる。


「待たせてごめんね」


なかなか顔をあげてくれないウラハに何度も「ごめんね」を繰り返して、髪を梳いて宥める。

しばらくすると、腰に回された腕が弛んで、私のお腹に顔を押し付けたまま喋るくぐもってしまったウラハの声がした。


「うー。うー。もういいよー」


どうやら赦してもらえたようだ。

ほっとしたら、そろそろ体勢が辛くなってきてしまった。できれば起き上がりたいのだが、甘えてくるウラハに言い出せないでいた。


「ウラハ、そろそろ主の上から降りなさい。いい加減、失礼であろう?」


グランの言葉にウラハが跳ね起きる。

いいタイミングで声をかけてくれたグランに、流石だと感心して視線を送ると目礼が返ってきた。

私も立ち上がり、乱れた着物を整える。


「ご、ごめんなさい。あるじ怒った…?」


「怒ってないよ」


小さな体をさらに縮こまらせて、上目遣いに訊いてくるウラハの頭をひと撫でしてあげる。ウラハは猫みたいに「うにゃぁ」と気持ち良さそうに鳴いた。


「主様は、もう少し怒ってもよいと思います!」


強めの口調で言ってきたアリアに少し驚いた。顔をそちらに向けると、さらに不満気に続ける。


「なぜっ…ウラハだけ、主様に触れることができるんですか!?わたしだって主様に…!」


アリアは最後まで言わずに、ぷいっと顔を横に向けてしまった。こっちを見ない彼女の顔は少し赤くなっていた。



おや?

ホントだ、ウラハだけ実体だ

なんでだろー???

しっかし、アリアのこれはジェラシーですか!?



こんな顔もするのかと、アリアをまじまじと見つめていると、赤みが増した。アリアも撫でてほしかったのかと思い至り、触れることのできない彼女の頭に手を伸ばす。

びくり、と身動ぎして俯いたアリアから「すみませんでした」と小さな謝罪が聞こえてきた。


「アリアもそこまでにしなさい。主もウラハの召喚に魔力を込めすぎでございます。我ら精霊は等しく扱っていただきますよう…」


グランはアリアを戒め、私に苦言を呈してきた。

どうやらウラハの召喚に気合いを入れすぎて、魔力の調整を誤ったらしい。『鬼人』になっても魔力コントロールは必要なようで、やはり練習するしかないようだ。


それにしても、目覚めた時と違って、グランたちの遠慮のなくなってきた物言いがとても嬉しい。よそよそしさというか、厳格な主従関係という雰囲気が薄らいだように思えた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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