はっか
かぽんっと、ちょっと間抜けな音が鳴る。
硬貨ほどの小さなふたを脇にどけ、缶を逆さにしてがしゃがしゃと振る。小さな口から赤ともピンクともとれる小粒と白い小粒が一つずつ転がり出てくる。
ぼーっと、手のひらの上で二つの小粒を少しもてあそぶ。それに飽きると、迷わずに白い粒を口に放り込む。ほのかな苦みがじんわりと舌の上に広がっていく。
独特な香りが口いっぱいに広がり、鼻がすっと通った気がする。
目を閉じる。特に意味はない。
……意味はないはずだ。
この味を口にすると、なぜかこうしてしまう。そして、いつも決まって……
『あはは、ごめんごめん! あなたにはまだ早かったかも』
『ほ~ら、こっちあげるから~……許して! ね? お願い~』
『ほんと? ありがと~やっぱかわいいなぁ、この子ってばもう!』
……笑顔、体温、柔らかさ、髪からほのかに香るシャンプーの香り……
『ごめんね……もう、そういうのはおしまい』
『自分勝手だとは思うよ……今も思ってる。勝手だって、酷い女だよね』
『でも、今日限りでおしまい。だってやっぱりおかしいもん……』
……悲しそうな顔、触れられない冷たさ、聞きたくなくて意図的に聞かなかった言葉、最後にもらったあの味、香り……
……そう、いつも決まって思い出す。あの日、あの日々、あの人、あの人に対する大好き・大嫌い……。
そして、この独特な味。
ふと我に返ると、ふらふらふらふらと目の前を揺れる編まれた髪。まるで今の自分みたいだった。
気がつけば、手のひらがぺとぺととしていた。見ると、手のひらにのせたままだったピンクの飴が溶け出していた。指でつまんで飴を目の高さまで持ち上げる。赤っぽく見えたけれど、やっぱりピンク色だ。
口に頬ると、ほのかな甘みと酸味が感じられた。甘い香りが鼻腔を抜けていく。いちご味だ。
口の中で2種類の飴が舌につつかれて踊る。別々に感じていた味はいつの間にか溶け合い混ざり合う。そうして、苦くて甘くて酸っぱくて、でもなんだか嫌いになれないクセのある味になっていって……
ああ、そう言えば、こんな味がしたな……なんて考えながら、私はそっと缶のふたを閉じた。