洞察。推理。その先にあるものとは
先に意味深なタイトルは全く本編に関わりがないことを深くお詫び申し上げたい。
本題に入ろう。師走が説明するには、どうにも私たちが借りてきた本の背表紙に貼付されている貸出カードなるものが、今回のキーとなるものらしい。今日において、未だにそのようなアナログな貸出システムを備え付けている本を所有する我が校の図書館に驚いたが、そんな古くから存在していたのであろう本を借りてきた師走にも驚いた。だがそれが何だというのだ。私は今一要領を得なかった。
「それで、その紙切れがどんな意味を持つんだ?」
「まあ、見てみろよ」
師走に手渡された本の貸出カードを見てみると、同じ人物が何度もその本を借りている。どうも期限を過ぎたから、もう一度返してまた借りる、といったことを繰り返しているらしい。この人はそんなに読むのが遅いのかと、自分に照らし合わせて同感した。しかし、どうにも3回以上借りるというのはいくら何でも読書スピードの問題ではないだろう。
「ふむ、どうやら同じ人物が複数同じ本を借り続けているな」
「そしてだ。本のタイトルを見てみろ」
奴に促され表示を確認してみると『文学青年の午後下がり』と印字されている。
なるほど、少女でないのが些か残念な点ではあるが中々に興味をそそられるタイトルである。私のような儚い雰囲気を醸し出す青年が主人公であると、此方としても感情移入がしやすいと言うものである。だが、タイトルを見たところで師走の言わんとしてることがサッパリ推定できん。
「いい加減、答えを出してくれんか? 引き伸ばしが過ぎるぞ。どこぞの週刊誌か」
「まあまあ、そう急かすなって。つまりだな、これは件の図書館に居座り続ける文学少女に話がつながってくるのだよ」
なんだか、探偵が助手に事件の推理を聞かせているかの如く奴は饒舌に喋り倒す。
「俺はこの本の内容をつい先程読み終えたんで知っているんだが、所謂ボーイミーツガールと呼ばれる類の恋愛小説だ」
「全く、昔から世間の恋愛至上主義は変わらんな」
「そこでだ、俺は閃いた。文学少女が何を思って、この本を幾度も借りて、図書館に長居するのか」
「待て、その貸出カードに頻繁に出て来る名前が今話題の…というよりは俺たちの間だけで話題に上っている、かの文学少女なのか?」
「確証は勿論無いさ。だがカードの名前は女子の名前だし、可能性としては高いだろう」
「まあ、確かに。一理ある」
「そして、俺には彼女の意図が読めた。『私のメッセージに気づいて』と」
「……は?」
「彼女は物語の中のヒロインと自分を重ね合わせ、そのような恋をしたいと思ったのだ。そして…っておい、待て待てまて!!」
身支度を整えた私を師走の奴が慌てて引き止める。
「くだらん。お前がストーカー一歩手前の思想であることは重々承知していたつもりであったが、既に片足を突っ込んでいたとは……」
「おいおいおい。まだ全部言ってないだろ!?」
「どうせ、この本を手にした自分が彼女と結ばれるとか、そんなきな臭い妄想であろう」
「そこまで浮ついてはねえよ! だが近い分、無駄に反論できない自分が情けないわ」
「お前が情けないのは百も承知だ。・・・はぁ。彼女の真意が分からん以上、無闇に行動しても余計に傷を負うだけだぞ?」
「別にまだ特にこれといった傷も負ってねえよ! むしろ、その発言が俺を貶めていることに気づけ!」
幾分は自分にもそう言う経験があるため、言葉に重みを滲ませながら師走にそう苦言を呈した後、とりあえずは奴に付き従うことにした。