表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

煙を上げるも火は見えず


 翌日我々は部室に集まり良い案が出るまで互いに互いの閃きを待ったが、過去に名案が浮かんだ例もないのでそう時間をおかず、私から口を開いた。

 

「なあ、お前の考えた怪事件では文学少女とやらの設定はどこまで練られてあるんだ?」


「設定って言うな。萎えるだろうが!」


「ともかく、流石に俺も何のアクションもないと熱が冷めてしまうぞ」


「まあ、待てよ。いつも物語ってものは向こうから転がり込んで来るもんだろ」


 ……以前私も同じようなことを言った気がして、『類は友を呼ぶ』という言葉が脳裏を掠めると、背中に悪寒としか形容出来ないものが伝わってきた。

 それから暫くして私達は、あくまで蔵書点検だと司書の先生に断っておき、師走、ひいては私の妄想の具現化を心から願い、おおよそ九時間あまりもの間、架空の乙女を待ち焦がれた。しかし、想いは風化してしまうものである。情熱は焦がれるどころか冷え切ってしまった。


 長い間本に囲まれていると、本来の役割を果たすべく読者を今か今かと待ちわびている書籍の山がなんだか不憫に思われ、私たちは彼らに仲間意識のようなものを感じてしまった。そして、ついつい1冊、もう1冊と手を出していく内、次第に当初の目的を忘れたかのように活字にのめり込んだ。

 時は流れ、我々は蒸し暑い部室で、ベストセラー小説が映像化された件についての賛否を論争していた。師走は立ち上がってジェスチャーまで交えながら力説してきた。


「だから、読者の想像力を制限させる映像化に俺は昔から異議を唱え続けているんだ!」


「確かに。自分の頭の中で、これだと決まっていた登場人物の声や姿というものは自分が生み出したオリジナルそのものと言っても良いからな。それが崩れるとイラっと来るな」


「全くだ! それでいつしかイメージは均質化され、味気ないものになってしまう! クソっ、グローバル化は俺たち十代の多感な内情にまで及んでくるというのか」


 我々は思想を飛躍させながら、ついには現代の社会問題まで議題に挙げてしまおうかといった所で、物語は動き出した。

 

「いや、しかし」


 ちょうど、議論が白熱し、興奮した師走が大きな音をたてて机を叩いた時であった。丁度机の上に置いてあった本が落ち、寂しげな音が部室内に響きわたった。不思議と私の中では、何かの始まりを告げるピストルの音に聞こえたのは気のせいだろうか。私が借りた覚えのないタイトルなので、恐らく師走が先程図書館で借りてきた本であろう。落ちた本を師走が拾い上げると、その拍子に何か紙切れのようなものが落ちた。それをアイツが拾い上げ大きく目を見開いたかと思うと、マヌケ面がニヤケ面に変わったのだ。


「おい泉川。文学少女の行方、掴めるかもしれんぞ」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ