2人のファーストコンタクト
放課後は素晴らしい。ひとりポツンといるだけでイベントが発生する。日常の中にありつつ、その可能性は無限大。謎の転校生と出会うのも良かろう。偶然、クラスのマドンナの秘密を共有するのも悪くない。私は積極的にイベントに巻き込まれたく、せせこましい努力をしていた。
「泉川くんだったよね。ちょっと良いかな?」
そうした理由から私が自分の席で一人物思いに耽っていると、ふいに声をかけられた。男の声だったのが少々残念だったが無碍にも出来まい。そう思い、億劫さをおくびにも出さず彼を視界に収めた。
「うん、どうした?」
「急だけどさ、オカルト研究部に入らない?」
ホントに急である。まぁ良い、状況を整理しよう。彼はクラスメイトの中村師走という人物であったか。人の顔と名前を覚えるのは苦手な私だが、中村が自己紹介で言ったセリフが頭から離れなかったため印象に残ってしまったらしい。
『オカルト研究部を作りたいと思っております。ぜひ、興味のある方は僕の所まで来て下さい』
今に思えば、中村は内に秘められし熱量とは相反する静かなトーンでクラスメイトに勧誘を掛けたと思われる。その時の皆の反応は微妙そうで、手応えは無さそうだった。また、それに落胆した様子も不思議と中村には無かった。そんな奇妙な所を見せてはいたが、チラリと観察してみてもクラスには溶け込めているようだ。入部する物好きは現れなかったらしいが。
まさかその中村が私に声を掛けてこようとは。言っておくがこの時の私は声をかけづらそうなオーラを発していたと思うんだが。
一方私はと言うと、ラノベ的青春をエンジョイすべく着々と具策を弄していた。今思わなくとも、頭がイカレていたとしか思えない。その概要は敢えて一般的な人付き合いに制限を設けることで、個性的な美少女たちと仲良くなるという脳みそがとろけた考えであった。私の春休みに行われた調査では、最近のラブコメやラノベでは主人公の交友関係に著しい欠陥が見受けられる場合が多かったのだ。中でも共通したのが、彼らには同性の友人があまりにも少ない事である。私が元々友達が多い方であったかどうかは置いといて、高校は普通の青春を追い求めるのではなく、私しか味わえないような甘美なものにしようと企んだのだ。
泥沼に片足を突っ込んだ危険な作戦であったが、思いは実らずとも水をやっている間は何故か満たされた気持ちになっていた。
そういう訳で私はやや素っ気ない態度を取るしかなかった。
「いや、俺はいいよ」