入学前のイメージトレーニングを怠る奴に明日はない。
今日は晴れある高校生活初日である。バス通学にしようと決めていたが、校区ギリギリの所から通うため始発のバスに乗らなければならないのは厄介だ。
入学式当日。私は始発のバスが来る20分前から時刻表の前にかじりついていた。石橋を見た後に、迂回してまで横断歩道橋を渡るような慎重な私のことである。万が一にも遅刻してはならないと己を戒めたのだ。
やがてバスは少々遅れた時間帯に私の元まで来た。予定時刻より5分ほど遅れたバスに特に文句もつけず、一番乗りした私は悠々と一番奥の席に座り悦に入った。しかし、このタイプのバスはエンジン熱が最後部座席に直に伝わることを身をもって知り、少し気が失せたところで次第に微睡に誘われた。
不足した睡眠時間を補おうとした体の欲求に耐えられず、窓に首を預けながらうたた寝をしていた所、車内アナウンスで目的地が呼び出された。現実に引き戻され、つい先ほどまで心地の良い夢を見ていた気もしたが、多分数秒もせずに忘れるのだろうなと思い、バスを降りた。
私が乗った後に何人か乗客が出入りしていたようで、私と同じ新入生らしき姿も見られた。彼らとほぼ毎日顔を合わせることに気づき、どうか良い関係を構築できますよう気持ち分手を合わせた。
晴れて、春休みにイメージトレーニングを重ねた私は、新天地である高校の敷地に、悠々と足を踏み入れた。おもえば、まだ…まだこの時考えを改めたなら、また違った3年間を過ごしたのかもしれないと、今更ながら反省はする。だが、勿論後悔はしていない。私の15の座右の銘の一つ『反省はしても、後悔はすることなかれ』。これを心に固く誓っている。
まずは教室ではなく体育館で生徒が集められ、入学式が始まるようだ。安っぽいパイプ椅子に座りながら、長い時間を過ごしていた。入学式の様子は取り立てて述べる必要がないため、ここでは省かさせて貰う。王道のパターンではここで美人生徒会長の演説に皆が見惚れる描写が挟まれるが、現実はそうドラマティックではない。ごく一般的な男子生徒が登壇に上がっていたのみであった。
とうとう教室へと案内された。皆緊張した面持ちである。一方の私は春休みにイメトレ済みだ。ここで余裕を持って、毅然とした態度で歩を進めるのだ。
後から気付いたが、この時の私はひどく不機嫌な顔をして周りを睨みつけていた様子に見えたらしい。それが原因であまり人が寄ってこなかったと知ったのは、一週間もした後に自分で気づいたからである。