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活気溢れる街の陰

 世界でも有数の商業港街(みなとまち)──リ=ハティア。市場で売り出されている野菜、果物、魚介…全てが新鮮なもので、どれも食欲をそそる輝きがある。店員も元気に呼び込みをし、何を買うか迷っている客も、それはそれは楽しそうだった。

 街全体が活気溢れる明るい街…しかしそんな街でも、一箇所だけ、非常に静かな場所があった。街の中央市場から数キロほど離れた、周りに他の住宅も無い辺鄙な場所に、大きな屋敷が一際目立って建っている。

 この屋敷が、リ=ハティアの領主・ハーティア家の家。近くを通る婦人たちは、その屋敷を見ては、何かコソコソと話している。


『ここの跡継ぎは大丈夫なのかしらねぇ…』

『ご主人が亡くなって再婚した方も、最近になってどこかへ蒸発したとか言うじゃない…』

『聞くところによれば、ご婦人も一緒にいなくなったとか…』

『残されたのは娘たちだけなんでしょう?』

『あの二人で言ったら、普通に考えて、確実に姉の方だろう』

『でもお姉さんの方は体が…』

『そうなると妹か…』

『妹…って、あの"硝氷(しょうひょう)のリディル"だろ? あんな冷徹な奴が領主とか、俺はごめんだね』

『確かに…街の雰囲気が悪くなる。ここは無理にでも姉のラテュルになってもらうしかないだろうな。 聞くところによれば、婚約も決めているそうじゃないか』

『…! ちょっと…!リディルが…』


 コソコソと話していた者たちが一斉に視線を向けた先には、首の辺りで切られた柔らかい髪を無造作に揺らした女性が立っている。女性は鋭い視線で、屋敷前で集まっている人々を見ると、短く言葉をかけた。


「…何か用?」


 たったそれだけの言葉だが、彼女の凛とした声音に、思わずその場にいる人間が皆、背筋を伸ばした。その様子を見た女性──リディルは、何も返してこない人々を横目に通り過ぎようとした。

 しかし、我に返った一人が突然、リディルに対して怒りをあらわにした。それに続き、次々と彼女に対する不満が爆発した。


「な…何なんだその態度は! 何も無ければ民衆を放置か!?」

「そ、そうよ! 気になるのであれば、ちゃんと最後まで気にかけなさいよ!」

「お前がそんなだから、両親共にいなくなったんじゃねえのか!」

「あんたなんかには絶対領主になって欲しくないわ!」


 口々に彼女を追い込もうと罵声を浴びせる人々。それでもリディルは、全く動じない様子でその言葉を聞いていた。


「…言いたいことは、それだけ?」

「なっ…!」

「あんたたちが私のことをどう思っているのかは、前から変わらないってこともわかったし、今度は私から、あんたたちにとって"嬉しい知らせ"を伝えるわ」

「っ…?」

「明日から旅に出るから、しばらくこの街には帰って来ないわ」

「!?…旅!?」

「そ、旅。私を見ることがなくなるからいいでしょう?」

「あぁ、清々するな! 明日が待ち遠しいな!」

「…それだけ。もういいでしょ?」


 そう言ってリディルは、再び家の門をくぐろうとしたが、ちょうどその時、ある一人の言葉にリディルは返した。


「これでラテュルが領主になるのも確実になったわね!」

「…何を言っているの? 旅は私だけじゃなくて、ラテュルも一緒に行くと本人が言っているわよ?」

「…えっ…それってどういう…」


 リディルの言葉に驚いた人々は目を丸くし、詳しく聞き出そうとしたところ、リディルはすでに門をくぐり、屋敷へ向かって歩いて行ってしまった。


「…母さんも探さないといけないけど…私の"心"を探しに行くのよ…」


 誰に言うでもなく、リディルは一人呟いた。


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