3-2.2 【お正月】私と彼の願い事【特別番外編】
お正月の浅草寺ってすごく混んでいるんだなって思った。
人が多いその中で彼はずっとちゃんと手を自然に繋いでいてくれている。
母がちゃんと保管していてくれた着物は樟脳の匂いが動く度にしてそれが特別な日だと言う事を感じさせてくれた。
「混んでるね」
まだ並んでから三十分くらいしか経ってないのにそう声を掛けられて顔を上げて思わず笑ってしまった。
彼はそれに少し困った顔を浮かべてから口を開く。
「寒くない?」
それに笑ったまま頷いてから口を開く。
「大丈夫です。着物は意外と暖かいんですよ」
そう言えばへーっと本当に感心したように言いそれからまたしっかりと手を握りしめてくれた。
そうしているだけで本当に付き合ってるっていう感じがして安心する。
この後彼に話さないといけない事はあるけれど、それを彼は感じさせないように気遣ってくれていて大切にされているってすごく感じていた。
「お参りしたらどうする?」
そう言われて思わず首を傾げてしまった。
どう、と言われてもちょっと困ってしまう。
初詣に誘ったのは間違いなく私なんだけれどそこまで考えていなかった。
あの空気にどうしても戸惑ってしまって、苦し紛れに誘っただけだったからこの後の予定なんて全然考えていない。
「何でも良いです。お任せします」
そうしばらく考えてから言えば彼は少しだけ可笑しそうに笑ってから空を見上げてから口を開く。
「じゃあおみくじ引いて屋台でも見ようか」
それに嬉しくなってうんうんと頷く。
母が昔くれたつまみ簪がその度に揺れた。
列が少し進んでそのまま歩いていればようやくお参り出来る。
けれどそれはずっごく混んでいてゆっくりとお願いをする暇も無かった。
ぎゅうぎゅう押されながら引っ張られ、人ごみを抜ければ引っ張ってくれたのは彼だった。
「す、すみませんっ」
迷惑を掛けたと思いぺこぺこ頭を下げれば彼が手を伸ばして言う。
「ちょっとそのままで居て」
へ?と顔を上げようとすれば笑いながら、だめ、だめと言われそれを我慢して居れば簪が一度抜けてゆっくりと地肌に当たらないように刺さった。
それから彼の手が彼の体の横に戻っていって、声がする。
「もう良いよ」
そう言われて顔を上げ刺し直されたそれに手をやって首を傾げれば彼はその手と反対の方の手を取って歩き出した。
「あ、あの?」
歩きながらそう言えば彼の耳が徐々に赤くなっていき、また首を傾げ仏堂からの階段を降りれば彼は小さく息を吐いてから振り返って口を開く。
「ごめん。簪取れそうだったから、つい。嫌だよね」
そう言われて首を全力で振れば彼はよかったと呟きそれからおみくじ売場へと向かって歩き出し、その手を自分から握ってみる。
彼が驚いたように私を見てから笑ってくれた。
おみくじ売場に向かう途中で彼が私をそうだと見下ろしてから訪ねてくる。
「何お願いしたの?」
そう言われてうーんと唸ってから、礼は?と聞けばにっこりと笑いながら答えてくれた。
「涼とずっと一緒に居られますように、かな」
その言葉に少し嬉しくなりながら、母が女は秘密が多い方が良いって言ってたのを思い出してから人差し指を口に当ててから言う。
「秘密です」
そう言えば彼は拗ねたような顔をして前を向いてしまって、初めて見る彼のその姿にすこし笑いながら腕に抱きついた。
私のお願いも彼と一緒だ。
願わくばずっとずーっと礼と一緒に居られますように。
明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いいたします。
元旦だけの特別編で皆さまへのお年賀の代わりに短いですが書いてみました。
3ー2の途中、礼口調で数行で済ませた初詣の様子をちょっとだけ、という所です。
次回よりは第十六話となります。
よろしくお願いいたします。