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私と彼の新しい生活  作者: 竹野きひめ
第十三話 わたしと兄
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13-19 わたしと『お菓子』と画像

「お前さんが要らねぇってんなら、好きなとこにまた『寄付』してくれりゃ良い。面倒な仕事は他人に押し付ける主義でね、善人面して施設に寄付なんてまっぴらごめんだからな、御姫様に預けるくらいがちょうどいい。受けとった後は好きに『寄付』してくれりゃ良いさ」


彼は指を置いて数字を押さえそう言う。

つまり一度はわたしに預けるから後は好きにしろと言う事だろう。

わたしに預け、その後、どう使おうが彼は気にしないと言ってくれている。

そんな風に言われたら受けとれないとは言えない。

どうしても嫌ならば彼が言うようにどこかの施設にでも言葉通り寄付すればいいのだ。


「……その言い方はずるいです」


俯きそう呟けば彼はげらげら笑ってから真顔になった。

それからアタッシュケースから携帯を一つ取り出して紙の上に置く。

スマホと呼ばれるそれはえらく傷ついていた。

それから彼は眉を寄せ声を潜める。


「こういう仕事してっとな、結構えぐいもん見るけどよ……、こん中入ってたのはレベルが違げぇよ。……お前さん、ずいぶん我慢したんだな」


その言葉にそれが誰の物で、何が入っていて、何を見られたのか分かってしまい膝の上に置いた手を握りしめた。

俯いても目が熱くなり徐々に涙がたまっていく。

彼はその様子を気付いていない振りをして口を開く。

同じように眉を寄せ声を潜めたまま。


「同意の上なら見るけどよ、吐かせたら脅迫じゃねぇか、今回も過去も。しかもずるいやり方でな。兄なんて嘘吐いてよ。ひっでぇ話だ。こういう世界に居るけど最初見た時は目を疑ったよ」


涙がぽろっと流れて顔を上げられず居れば彼がそこらへんで配っているポケットティッシュを差し出してくれてありがたく一枚頂いて涙を拭いた。

それから顔を上げれば携帯をトントンとやってから口を開く。


「こいつは責任持って処分しようと思ってんだが、どうだ?自分でってんならお前さんに渡すけどよ、嫌だろう?」


その言葉にうんうんと何度か頷く。

自分で処分したい気持ちはあるけれど正直触りたくも無い。

万が一、万が一誰かに見られでもしたらと思えば持って帰るのすら嫌だ。

わたしの無言の返答を受け彼はそれをアタッシュケースにしまった。


「じゃ、こいつは責任持って形が無くなる方法で処分する。で、そう言った意味でもこっちはお前さんを不憫に思ってるってぇ訳だ。……受け取ってくれるな?お前さんにこれを渡しても、こっちは損をしねぇくらい、あんたを助けた事に価値があんだよ」


その言葉がどういう意味を持つのか分からなかった。

明が売りさばいていた麻薬の量から換算したのか、それともホストクラブから謝礼を貰ったのか。

それでもそこまで言われたらもう受け取るしか無くて頷けば彼はアタッシュケースからお菓子の箱を出してくる。

きちんと包装されたそれはお菓子にしか見えず思わず首を傾げそうになったが、あまりにも古典的、それこそ越後屋に御饅頭のようで思わず笑みを浮かべた。


「お、ウケたか。よしよし、じゃあ、これはこっちからの『お土産』です」


どうぞと両手で頭を下げる彼にそれを同じように手を伸ばして受け取る。

お菓子の箱の割には軽い、けれど、その存在は重かった。

彼があえてこの形にして笑いを取ったのかそれとも最初からこうするつもりだったのかも分からない。

それから顔を上げ膝の上にそれを置いてから頭を下げる。


「結構な物を頂きましてありがとうございます。佐久間にもその旨伝えさせて頂きます」


そう言えば彼は満足そうに頷いた。


「ちゃんと持って帰ってくれよな、それをお前さんが無くしたり落としたりしたら、上から怒られちまう」


茶化して言うその言葉の裏の意味は落としたりしたら、彼らにとって厄介な公的機関が出所を調べてしまうから、気をつけろという事だろう。

さして大きくないそれを鞄にしまいながら、はい、と返事をすれば彼は残っていたアメリカンコーヒーを飲み干し立ち上がった。


「それじゃ、そろそろ行くか。……元気でな。何かあったら連絡してくれや」


彼がそう言いつつ置いた名刺に慌てて自分のも出す。

それを彼に渡してから口を開く。


「ありがとうございました。……差し支えない範囲で構いませんので動きがありましたらご連絡頂きけたら幸いです」


そう告げればわかったと短く返事をして受け取り胸元にしまう。

去ろうとしているその姿にそう言えばと思い声を掛ける。


「アタルさん」


彼が立ち止まり振り向き、わたしは立ち上がりその側に寄った。

声を潜めて思いついた事を聞いてみる。


「無修正画像とかは……その、取り締まってますか?」


わたしの言葉に彼は意外そうな顔をしながらも小さく頷き同じように声を潜めた。


「一応、ざっくばらんには、な。うちの息が掛かってる物が違法にアップロードされてたりしちゃ適わねぇから……、で、それがどうした」


その言葉に彼なら知っているかも知れないと思いもう一度口を開く。


「ご覧になった中に、御姫様、はいらっしゃいましたか?」


わたしと言うのは憚られ、彼の言葉を借りれば彼はすぐに首を横に振った。

それからアタッシュケースを指差して言う。


「この中でしか見た事ぁねぇな。……流れてんのかい?」


それに小さく首を振り、それから笑顔を向けてお辞儀をした。

これ以上は御世話になれません、と、これ以上は関わらないでくださいを混ぜて告げる。


「いえ、大丈夫です。何から何までありがとうございました」


そう言えばやや間はあったものの彼はそうかと一言返しそのままレジでお金を払って出て行った。

席に戻り冷めてしまったウィンナーコーヒーを飲みながら、ふーん、と思う。


彼らの目に入っていないのか、本当に存在していないのかは分からないけれど、思っている以上に被害は少ないのかも知れない。

となると、誰がどうやって安田明子にあれを見せたのかがすごく重要になってくる。

安田明子の性格からして家で一人無修正画像を探すとは到底思えなかった。


ごくりと飲んだそれはもうずいぶん苦くてそれ以上飲もうと思わず鞄をしっかりと握りしめ店を後にした。

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