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私と彼の新しい生活  作者: 竹野きひめ
第三話 私と彼と初詣
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3-4 彼と私と急展開?

喫茶店を出ると辺りはもう真っ暗だった。

祐樹と高松さんはこれから飲みに行くのだと夜の下町へ消えていく。

あれから後はずっと二人の結婚式の話で盛り上がった。

桜が綺麗に咲く頃に日本庭園の美しい料亭でやるのだと言う。

もちろん招待するからなとの祐樹の宣言に二人で頷いた。

涼と祐樹がどんな関係であろうとも、むしろ、妹だと分かった今なら祝いたいに違いない。

将来的には親戚になるのかも知れないならば尚更俺だって出席したい。


「帰ろうか」


二人が消えた方をずっと見ていた彼女に声を掛けると小さく頷く。

疲れたのか緊張したのかあれからずっと言葉が少ない。

まだ人が多い街中をゆっくりと歩く。

初詣に来るのも久しぶりだ。

酒を飲むだろうと電車で来ていたので駅に向かう。

途中、彼女が人形焼きを買いそれを俺が持つ。


祐樹に会ってよかったのかも知れないと思う。

あのまま二人で出ていたらとっくに家に帰って途方に暮れていた。

当人に会うのは緊張したがそれ以上にリラックスしたのも事実だ。

電車に並んで乗り込み座れないのでドアの側に立つ。

着崩れるわけでも無く家を出た時と同じく着物を着こなす彼女を他の客から守るようにそっと近寄せた。





その内そうなれば良いと彼は言った。

急にその言葉で現実味を帯びた結婚という二文字が頭をぐるぐる回る。

車内で彼はごく自然に私を胸に寄せた。

それは他意など無いだろう。

ただ他のお客さんから守ってくれているだけだ。


それでも、今、それはちょっとまずい。

どっちかと言えば放っておいて欲しい。

心臓がどきどきする。

だって早いだろう。

まだ付き合って一週間くらいだ。


結婚ってタイミングなのよ。


いつか言われた言葉が頭を過る。

誰が言ったのか分からないけれどそれは確実に私の中で大きくなった。

家へ帰るととりあえず着物脱いできますと自室へと入る。

外気に当てられ冷たくなった手を頬に当てる。

思ったより熱くなってるそこは手の平くらいでは冷めてくれない。


顔赤いのばれたかな。

酔ってることにしちゃおうかな。


祐樹さんに言われて否定したけど本当に私たちはまだ体の関係を持ってない。

ただ一緒に寝てるだけだ。


まだ何もしないからと言ったその言葉を彼は忠実に守っている。

いつまでもそれで良いとは思っていない。

けれど。

タイミングが分からないのだ。


コンコンとノックされ慌てて返事をする。


「お風呂沸かしちゃうよ?」


の声にお願いしますと返す。

とにかく着物を脱ごうと帯にようやく手を掛けた。






風呂場へ行き栓をしてスイッチを入れる。

湯が出てきたのを確認してその場を去り、ひとりリビングへと向かう。

テーブルに座りテレビを点ければやっているのはバラエティ番組ばかりでうんざりする。

向こうのドアが開いた音がしてラフなスタイルになった彼女がやってくる。


帰り道でも思ったけれど顔が赤い。

暗かったからよく分からなかったけれどまじまじと見ればやっぱり赤い。


「ちょっと酔ったみたいです」


聞いても居ないのにそう言いながら俺の向かいに座る。

御茶淹れましょうかの問いかけに首を振る。

そうですかと肩を落とす姿を見て吹き出す。


「どうしたの」


顔を上げ首を横に振る。

どうもないわけないのに。

それでも見つめる俺に彼女が顔をこわばらせた。


「あの、佐久間さん」


相当一杯一杯なのだろう。

前の呼び方に戻って居る事も気付いていない。

あまり意地悪をするのも可哀想で何?と返事をする。


「そのえっと」


言いにくそうな様子に首を傾げる。

どうしたって言うんだろう。


「……あの高松さんみたいに綺麗じゃないけど、私、あの大丈夫です」


何がだよ。と聞き返したくなる。

というかどうして高松さんが出てくるんだ。


「それはー……」


言いかけて止める。

はっとする。

赤い顔の目が潤んでる。


もしかしてそう言う事だろうか。


自分の想像が正しいのかどうか分からない。

けれどそれはすごく恥ずかしくてこちらまで赤面した。


「いや、うん。良いんだよ、ゆっくりで」


言い訳のようにそう返すと彼女は首を振る。

だから一体どうしたって言うんだよ。





赤くなった彼を見て俯く。

いや駄目だ、ここで逃げたらまたチャンスが無いかもしれない。

って、それじゃあ、したくてしたくて堪らないみたいじゃない。

それも違う。


なんだろう。

今朝までは全然そんな風に思わなかったのに、結婚って意識した瞬間、このままじゃ駄目だと思った。

初夜までしないという主義でも無い。

というか別にすぐ結婚するわけでもないし、プロポーズされた訳でもない。


でも、なんか嫌なのだ。

このままじゃただのママゴトみたいで。

良い年した大人がただ寝食を共にするなんてそれもなんか違う。


「いや、うん。良いんだよ、ゆっくりで」


彼が言う。

それに首を振る。


「だってまだ付き合ったばかりだし、ね」


また首を振る。

いや、違う。

全部言い訳だ。

ママゴトみたいだって思ったのも全部。


私も早く祐樹さん達みたいになりたい。


意を決して顔を上げる。

彼をまっすぐ見てゆっくり言う。


「子供じゃないんです。思わせぶりな事言ったんだから、責任取って下さい」


彼の目が大きく開いた。

呆気に取られ言葉を失ってる。





責任取って下さいと言われて初めて彼女の異変と自分が昼間言った言葉が結びついた。

そうか、それかと合点がいく。

いや、分かったからと言って、さあしましょうとはいかない。


「もしかして昼間の事気にしてる?」


一応確かめようと尋ねるとうんうんと首を縦に振った。

いや、参ったな。

嘘ではないけれど話の流れでそう言っただけ、だった。

今の今までは。


けれど彼女を見て言えない、そんな事。

あまりにも真剣で口にするのだって性格からしたら躊躇う事を言ってくれたのだ。

正直に言えばすごく嬉しい。


「……んー、そうだよね」


とりあえず同意して妥協案を探すために思考を巡らせる。

どっちにしてもいずれそう言う日は来るけれども、こんな風に畏まってする事では無いだろう。

もっと自然にそうなって欲しいと思う。

なんせこのままじゃムードもへったくれもありゃしない。

考えは纏まらず困り果てた所にキッチンから音がする。

軽いメロディのそれに思いついたそれを口にした。


「じゃあさ、とりあえずお風呂でも一緒に入ろう。それから決めようよ」


彼女が顔を上げて目を開いた。

我ながら突拍子も無い思いつきだとは思うけれど、これしか浮かばなかったんだよ。

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