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私と彼の新しい生活  作者: 竹野きひめ
第十一話 彼と私と就職
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11-2 私と彼と二枚目の券

お風呂から上がり礼が私の体を拭いて髪を乾かしてくれる。

鏡に映る顔も体も自分で思っていたよりずっと酷くてけれど彼はそんな事一切顔に出さなかった。


「別に傷ついたりしないからもっと顔に出してもいいですよ」


と言えば逆に何がと聞かれる始末。

ゆっくり沈んで温まったおかげかだいぶ体が楽になっていた。

それからパジャマを取ってきますと部屋に戻りマットレスの間に隠したあの封筒を苦労して取り出す。

なんせ手首が何かに擦れると激痛が走る。

ようやく取れたそれを眺めこれをバッグに入れていなくて良かったと息を吐く。

確かに彼の言うとおりなんでも買い揃えられるが私と同じでこれも二度と手に入らない。

その中から一枚目的の物を取り出してうんうんと頷き他はまた元に苦労して戻す。

それをこたつに置きパジャマをに着替えてからひらひらさせながら彼の部屋へ向かう。

コンコンとノックして祐樹さんの真似をして開ければそれがすぐ分かったのか彼が笑いながら言う。


「兄妹だからって真似しなくても」


そんなつもりはないですと否定してからゆっくり足を引きずって彼の側に行きどうぞとめくられた布団に入る前にそれを差し出した。

それは「我儘を何でも言える券」で彼はそれを取りながらこのタイミングでこれ使うのと呆れた顔。


「いつでも有効って書いてあるじゃないですか」


そう返して靴を脱いで布団に潜り込みさっさと枕に頭を当てる。

布団を彼が掛けてくれて自身も横になり私の体を片手で重くならないようにそっと抱いてくれる。


「で、何ですか、お姫様」


もう一方の手でそれをかざしひらひらさせながら言う彼に嬉しくなって笑う。


「笑ってちゃ分かんないでしょ。まさかこれからも一緒に寝てくれなんて言わないよね?そんなの当たり前の事なんだから」


それにまた嬉しくなって首を振り口を開いた。

彼の紙を持つ手が下りて私の頭に添えられる。


「ひとつだけですか?複合パターンもありですよね?」


そう聞けば悩んだ末聞いてから考えるとのお答え。

では、とごほんとひとつ咳き込んでからすうっと息を吸った。


「礼が会社を辞めるのは嫌なのですが一緒に居たいという心配してくれる気持ちもよく分かります。なので、礼が会社を辞めないよう私を秘書として雇ってもらえませんか?」






「それは駄目」


即答すれば彼女は布団から出ようともがきちょっと待ってと必死に押さえる。

動いたせいでまた冷たい空気が布団に入り込んできて彼女の足に絡ませる。


「何でも有効じゃないんですかっ」


そう睨みつけ言う彼女に困った顔をしてしまう。

そりゃそうだけど、それとこれとは話が別だ。


「俺の一存じゃ決められないよ」


そう言えば礼は社長じゃないんですかといたくご立腹。

いやいや、そうだけどと言いながら考え込む。


「そう言われてもね、いや、そんな顔しないでよ」


眉を寄せたその顔にそう言い仕方なく一度立ちあがり充電中の携帯を取る。祐樹の名を探し電話をすれば相手はまだ飲んでるらしい。


『おう、どーしたよ。やっぱり来るか?』

「いや、それは遠慮するよ。相談があってね」

『おう、てかもう家か?笹川はどうよ』

「もう寝る所。涼は元気だよ。そっちはどこに居るの?」

『こっち?居酒屋。いやドリンク来るのが遅くてな、マジ、無いぜ』


そう言う彼の後は確かにがやがやとうるさい。

苦笑いしつつ暇そうな涼の胸をこそっと揉めば全力で叩かれた。


「痛てっ」


思わず言えば祐樹が怪訝な声を出す。


『んだよ、どうした』

「いや、何でも。こっちの話」

『こっちの?お前まさか二人で入ってんのか。お盛んだな、おい』

「んなことあるわけないでしょ。傷だらけの涼なんて抱けないよ。そろそろ本題に入っ……うっ」


涼がお返しとばかりにぐいぐい俺の股間を掴む。

痛いってとその手を必死に退ける。


『おい、聞かせるために電話したなら、切るぜ。そんな趣味ねーよ』

「いや違う。ごめん。あのさ、涼がね、秘書やりたいって言ってるんだけどどうかなと思って」

『ひーしょー?あー……んー、そうだなぁ、正社員はちと厳しいぞ。でもまぁアルバイトで雇うなら有りかもなぁ』


有りなのかよと思いながら天井を仰ぐと蛍光灯の明りに埃がきらきらと光っている。

すっかり大人しくなり鼻歌を歌い始める涼にしーっとやってみせるがふんとそっぽを向かれる。


「んー、そう?なら前向きに検討するよ。悪かったね」

『ん、構わん。てかあんまり激しくやるなよ、可哀想だからな』

「だから、しないって。あと明日休むからよろしく」

『は?おま、ふざけっ』


あー、うるさかったと呟きながら電話を切りそのまま後頭部にチョップする。

彼女が恨めしそうに見てきて携帯を元の所に置いて背を向けている彼女をそのまま後ろから抱きしめる。


「痛いですって」

「知らない。あんな悪戯するから悪いんだよ。……祐樹が良いってさ。ただし非正規雇用ね」


わぁっと急に手を上げ万歳をする彼女の手が俺の顔にクリーンヒットしてそのまま後ろに仰け反り、慌てて彼女がこっちを向いて心配そうに見つめてくる。

うーっと唸ってからゆっくり顔を戻しそれから大笑いをして彼女はちゃんと起き上がり正座をして座り頭を下げた。


「よろしくお願いします、社長」


そう言われると急に現実味を帯びてきてそれでいて恥ずかしくなりこちらこそと頭を下げた。

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