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1 運命の出会い

そんな…まさか。

梨花が結婚?

だって、恋人がいたことすら知らなかった。

最近、忙しくて連絡取ってなかったとはいえ。

裏切られたようで、非常に悔しかった。

そして、親友の幸せを心の底から喜べない自分を情けなく思った。


佐藤 梨花は小学生以来の親友だった。

中学も高校も同じ。

別々の大学へ進学しても、仲は変わらなかったし、就職してからもちょくちょく会っていた。

愚痴から恋愛相談まで、何でも話せた。

お互い全てを知っていた。

だけど…結婚なんて。



梨花は少し天然というか、何か抜けていて、常にマイペース。

恋愛下手で、モテるタイプではなかった。

それに比べ、私は勉強も出来たし、顔もそこそこだったし、モテる方だった。


だから、友人の結婚ラッシュ、ベビーラッシュが到来し、30歳独身であっても、梨花がいたからそこまで焦りは感じていたなかった。


だが、そんな同盟を組んでいた梨花が抜け駆けした。


一方、私には婚約はおろか、恋人すらいないのだ。


この状況を何としてでも打破しなければならないのだ。


でもどうやって?


もう全神経の力が抜けるように、何もする気が起こらない。



出勤の準備をしながら、鏡を見る。

最近、シワが目立って来た。

白髪も生え出して、私が明日32歳の誕生日を迎えることを思い出した。


「はぁ」


さっきからため息ばかりでている。

もうこのまま独身でもいいか。

だけど、両親に孫の顔見せたかった。

その上、孤独死なんて…


時計を見る

「やばっ!」

変なことを考えていたら電車に乗り遅れそうになり、慌てて家を出た。


会社には、陽気な草野 彰がいた。

草野は会社の同僚で中学の同級生だ。

一緒にクラス委員をしたこともあり、仲が良かった。


「おはよー」


「おはよー。あ、聞いた?佐藤、結婚するって」


「聞いたよ〜。もう驚いちゃった!初耳よ」


「あれ、津田と仲良かったんじゃないの?」


「仲良しよ、親友よ!なのに何も言ってくれなかったのよ〜」


「まぁまぁ、津田の幸せ報告はないの?」


「何もなくて悪かったわね。草野、お願いだから誰かいい人紹介して!」


「紹介って…そういえば、広報の新田さんが今度合コン行くって。津田も行けば?」


「合コン?」


「そういえば、人数足りないって言ってた気が…おーい、新田さん!」


草野は振り返り、新田えりかを呼んだ。


「なんですか?先輩」


「今度の合コン、人足りないって言ってたよね?」


「そうなんですよ!今週の日曜日なのに」


「じゃあ、津田入れてよ」


草野は私の背中を押した。


「津田先輩、ぜひ来てください!」


「だけど、私…年だし」


「大丈夫ですよ。お医者さんや弁護士さんのような高学歴な人も来ますし。 来て損はないと思いすよ」


「そうだよ、出会いの場が大切だよ!」


「そうですよ!」


「じゃ、じゃあ…」


私は苦笑しながら答えた。


合コンなんて大学時代以来だ。


今日は金曜だから、合コンは明後日だ。


いい人いるかなぁ〜

何着ていこうかなぁ〜


少しワクワクしてきた。







日曜日。

待ち合わせのレストランに到着すると、このまえのワクワクとは打って変わって、緊張していた。

本当に大丈夫なのか?

新田さんは26歳。

私は32歳。

場違いじゃないのか?

それに、この服、地味すぎないか?


入り口の前で突っ立っていると、後ろから声をかけられた。


「津田先輩!」


「あ、新田さん」

って、若い!服かわいい!

髪の毛巻いてるし、メイクもいつもと違う!

なに?なんなの、この差⁉︎


「入らないんですか?」


「え、いや…なんか本当にいいのかなって」


「大丈夫ですよ、先輩美人だし」


「び、美人…」

あんたに言われたくないわよ。

心の中で毒づいた。


新田さんに、腕を引っ張られ中に入る。


「すみません、お待たせしました」


「あぁ、これで全員そろいましたね」

体格のいい、短髪の男性が言った。


「じゃあ、座りましょうか」


男女混合に席についた。

私は一番端に座った。


向かいの男の人は、細身で、明るい茶髪で、黒縁のメガネをかけていた。

その奥の澄んだ目はぱっちりと、鼻筋の通った、美男子だった。


「じゃあ、自己紹介でもしますか」

斜め前の女性が言った。

出たな、仕切り屋。


「では、私から。えー、篠田まいです。歳は26歳。美容師をしてます」


「僕は、田島 竜平。28歳で、都内で医師をしてます」


次々と自己紹介が進む。

医者や弁護士の高学歴の中でも、私が1番年上だったのだ。


そして、私の番が来た。

「えー、津田 美香子です。歳は…32です」


「見えませんね」

隣の男性が言った。


「あぁ、ありがとうございます」

照れ臭くなって、髪を耳にかけた。


「えー、一応、翻訳家をしてます」


「翻訳家ですか?」


「えぇ、海外から輸入したニュースやドラマを訳しています」


「それはすごいですね」


「お医者さんや、弁護士さんに比べたら、大したことないですよ」


最後は私の向かいの美男子だった。


「九条はるかです。歳は23」


「23⁉︎」

思わず口からこぼれた。


「はい。留年したので、まだ大学生です」


留年⁉︎

やっぱり、チャラチャラしてると思った。

聞きたいことはいろいろあったが、深くつっこむのはやめておいた。


自己紹介も終わり、しだいにみんな打ち解けて言った。

新田さんも楽しそうに話している。


輪に入れない私は、1人でちびちびお酒を飲んでいた。

やっぱり来なきゃ良かったかな。

みんなを見つめながらそんな風に思った。


「おねえさん」


「……」


「おねえさんってば!」


「え、あたし?」


「そうだよ」

そういえば、彼も1人で座っていた。


「つまらないの?」


いきなりタメ口かよ。


「おねえさん?」


「ちょ、聞いてんのこっちなんだけど」


「まぁ、楽しくはないわ。あの中には入れないし。っていうか、その呼び方やめてくれる?」


「じゃ、みっちゃん」


「みっちゃん⁉︎」

危うく、口の中のお酒を吹き出しそうになった。


「かわいいから、いいじゃん」


「あなた、私より随分と年下なのにいきなりそれは…」


「いいじゃん。年なんて関係ないよ」


「…せめて美香子さんにしてよ」


「じゃあ、美香子さん。美香子って英語ペラペラなの?」


「まぁ、それなりには話せるけど」


「へぇ。他に何か話せないの?」


「うーん、一応、中国語と、少しフランス語。外大出てるから」


「フランス語⁉︎俺も話せるよ」


「あなたは大学で何をしてるの?」


「俺はねー、ピアノ」


「ピアノ?音大なの?」


「うん、桜蘭音大」


「桜蘭って、あの桜蘭音楽大学?」


「そーだよ」

彼はビールを飲んだ。


「エリートじゃない‼︎どうして留年なんか?」


「担当講師が今すぐにでも留学しろってうるさかったから。パリに行けるならいいやって思ったら、次はウィーンだ、ドイツだので、結局3年も海外にいたんだ。帰ってきたら休学扱いで今だに大学生」


「それじゃ、留学したって言えばいいのに」


「一緒だよ。留学も留年も」


「変わってるのね」


「変わってるのはそっちだよ」


「え?」


「俺、美香子さんタイプかも」


「な、何言ってるの。からかわないで


「本気だよ」


「私、32歳よ?あなたより9歳も上なのよ?」


「関係ないよ」


「あなたは若いし、かっこいいし、もっとふさわしい人がいるわ」


「だけど、一期一会って言うじゃん?」


「じゃあ、逆にどこがタイプって言うの?」


「うーん、顔。と、この辺」

彼は宙に円を描くように私の胸を指差した。


「ちょっと、からかうのもいい加減にして‼︎」

お酒のせいもあって、大きな声を出してしまった。



周りの視線に耐えられず、席を立ち、お手洗いに駆け込んだ。


洗面台に手をつき、髪をかきあげる。

…何なのあの子‼︎


バックからケータイを取り出し、草野に電話をかけた。


何回かのコールのあと、やっと出た。


「もしも…」


「草野?ちょっと合コンに最低の男が…」


「あー、ちょっと待って。よーしよし泣くなよ〜」

電話の向こうから、子どもの泣き声が聞こえた。

草野も結婚して、今や2児の父なのだ。


「もしもし。夜泣きが大変で。で、なんだって?」


「え、あぁ、ごめん。こんな時間に。なんでもない。子守、頑張って」


「悪い、明日聞くから。じゃあな」

と言って電話は切られた。


すごく惨めになった。


周りは結婚して子どももいる。

幸せな家庭を築いているのに、私は恋人もおらず、出会いを求めて合コンに来ても、年下の男にからかわれる始末。


なにやってんだか…


足早に席へ戻る。

荷物をまとめた。

「すみません、急用が出来たので、今日は帰ります。みなさんは楽しんで」


「先輩…」

新田さんが心配そうに声をかけた。


「今日は誘ってくれてありがとう」


そう言って、外へ出る。


後輩にもみっともない姿を見せてしまった。


本当になにやってるのよ私…


情けなくて、惨めで、バカみたい。


外はカップルで溢れていた。


早くこんなところから去りたい。


スピードを上げ、走る。

何もないのにつまずきそうになる。

足がついていかないのだ。

もう…こんなのやだ。

涙こみ上げる。

拭おうとした時、足がもつれる。


世界がスローモーションになる。

ここで転けたら、大恥ぢだ。

だけど、もうどうでも良いのかもしれい。

みんな自分の恋人に夢中で、誰も私なんか見てないだろうから。

重力に身を任せ、目を閉じる。


すると、腕に大きな力がかかった。

ぐっと、掴まれ、身体が私を引き寄せた。


「ったく、何してんの?ばかなの?」


見上げると、立っていたのは九条はるかだった。


「足はえーんだよ。おばさんのくせに」

クスクスと笑った。


「…どうして?」


「いやー、ちょっと悪かったなって思って。俺のせいで気悪くしちゃって」


「追いかけて来たの?」


「そうだよ。呼びかけたって振り向きやしない。その上走り出すし、何してんだよ」


「ごめん、全然聞こえなかった」


「で、何で泣いてるの?」


「え?」

そうだ、さっき泣いたのだった。


「やっぱ、俺のせいか。本当にすみませんでした」


「いや、ちがうのこれは…」


「なんかおごりますよ」


「だからちがうって」


「でも、ほんとデリカシー無いこと言っちゃったんで。振り向いて欲しくて、ガキみたいなことしちゃいました」


「だけど、こんな時間にやってる店なんて」


「お腹空かない?さっきあんまり食べてないでしょ?」


「うん、まぁ」


「じゃ、ラーメン食べいこ‼︎」


「ラーメン⁉︎重くない?」


「あっさりラーメンだから」


「だけど、あたし明日会社だし」


「すぐそこだよ。それに穴場だから。すげー美味しんっすよ」


「じゃ、ちょっとだけね」


「やった‼︎」

九条は嬉しそうに、小さくガッツポーズした。


「美香子さんって、年のこと気にしすぎじゃない?」


注文をして、ラーメンを待つ間、九条が言った。


「気にするよ。さすがに30すぎると」


「でも、全然見えないよ?美人だし」


「いいって、そういうの」


「俺、本気なんだけど。タイプっていうのも」


「またまた」


「本気で好きなら、年なんて関係ないんじゃないの?」


「そうかもしれないけど」


「じゃあ、年上ならいいの?35歳とか?」


「そういうわけじゃないんだけど」


「ふーん」


「さっき泣いてたのはね、本当に九条くんのせいじゃないの。ただ、みんな結婚して子どもがいたりするのに、なんか自分が情けなくて、周りのカップルを見てたら惨めになっちゃって」


「俺も。音大生って留学する人多いけど、皆3,4年とか卒業後だから。俺は入ってすぐだったし、戻ってきたら、同級はみんな卒業してた。就職決まったやつもいて、周りは知らない人ばっかだし、何か1人だけ取り残された感はんぱなくて」


「そう!取り残されたって感じよね」


「昔から、ピアノ好きで、よく弾いてたから、天才とか、チヤホヤされてたけど、海外言ったら、みんなすごくて、井の中の蛙ってゆうか、なんかやる気失せちゃったんだよね。今は進級も危ういよ」


「何言ってんの⁉︎才能あるんでしょ?もったいないことするんじゃないよ!」


「それはこっちのセリフ。せっかく美人なのに、年だ年だって恋愛諦めてんじゃねーっつの」


「……」

返す言葉が見つからなかった。

こんなチャラチャラした男がここまでしっかり悩んで考えているとは思わなかった。

それに、彼が言った言葉はかなり核心をついていた。

私は、知らず知らずのうちに、年齢を理由にして恋愛を避けていたのかもしれない。


「意外と、あなたもばかじゃないのね」


「ふっ、ひどくない?ばかと思ってたの?」

彼は吹き出した。


「まぁね。その外見じゃ」


「人を見かけで判断しちゃいけないんですよ」


「顔と胸がタイプって言ったの、どこの誰よ⁉︎」


「んー、さすが9歳上。強いですな」


「だてに9年長く生きてないのよ!」

あれ、あたし、年をネタに出来てる。

今までなら、嫌で嫌で口にすら出さなかったのに。


「あ、今メロディー浮かんだ!」


「え?どんなどんな?」


「美香子さんの曲。聴きたい?」


「うん!聴きたい」


「じゃ、今から俺んち、来る?」

それが何を示しているか、何となく分かっていた。

だけど、この短時間で私を変えた彼に少し興味を持った。


「…うん」

ここから私の運命が大きく変わるとは思わなかった。


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