6腹黒ネネ
当初の目的を達成し、二人を救出した一行は、白浜を後にして、一路ネネの私設ラボに向かった。
途中トラックの窓から悠々と空を泳ぐ、宇宙エイが見えた。
朝は心が騒めいて、ゆっくり見ることも出来なかった。
トラック乗っている全員が、今はその雄姿に見惚れる。
「綺麗ね、ウィリアム。」
バイオレットが、隣のウィリアムに、話かけた。
「ああ、そうだな。」
ウィリアムは、宇宙エイではなく、バイオレットを見ていた。
そこは二人の世界だ。
ネネとミワは、後方にいる大人二人に溜息をつくと、すぐに、自動調理器にデザートのケーキを入れて、解凍した。
飲み物は、紅茶にミルクをたっぷり入れた、ロイヤルミルクティーだ。
二人は、飲み物とケーキを食べながら、次回の競技用ライダーのフォルムについて話し合いを始めた。
俊介と伸は、大学の授業で、どの講義を中心に受講しようかと、二人で相談している。
ビルは、行きと同じように、救出劇で疲労困憊し、シートをリクライニングして、すでに夢の中だ。
逆に、海に浸かって、車内に入れなかったジャックは、熱い日差しが照り返す中、軍用ライダーで、ひたすら走っていた。
『くそっ、あつい。まだ私設ラボに着かないのか?』
そして、心の中は、文句でいっぱいだった。
数時間後、ジャックが日干しになる前に、なんとか一行は、私設ラボにたどり着いた。
ネネはカードを操作して、1Fの入り口を開けると、そのままトラックと軍用ライダーを車庫に入れる。
「あっちぃー。」
ジャックが汗だくで、軍用ライダーから降りる。
そして、中に入ろうとして、ネネに止められた。
「ちょっと、待って。」
「????」
「その塩分いっぱいの状態で、精密機器がいっぱいの部屋に、入らないで。」
ネネはそう言うと、カードを操作して、矢印を表示する。
「まず、シャワーを浴びて。」
ジャックは肩を竦めると、おとなしく矢印に乗って、シャワーを浴びるべく、移動していった。
ネネは次に、バイオレットを抱きかかえているウィリアムを見た。
「出来れば、バイオレットを休ませて、あげたいんだ。」
「部屋は同じで構わない?今、使える部屋が・・。」
「ああ、同じで大丈夫だ。」
ウィリアムは、ネネが言い終えるのを待たずに、むしろ喜んで答えた。
隣でバイオレットが恥ずかしそうに、抱きかかえられている。
ネネは、二人の前に、青い矢印を出す。
「食事の時は、ドアの前で点滅している矢印を踏めば、食堂に・・・。」
ネネの説明が終わらないうちに、ウィリアムが遮った。
「分かった。」
ウィリアムは答えると、バイオレットを抱いたまま、矢印の上に立った。
矢印が音もなく動いて、二人を運ぶ。
伸と俊介、ビルの三人は、いつのまにか、車から降りていた。
「俺達は、もう家に帰るよ。」
ネネは頷くと、赤い矢印を表示した。
三人は、それに乗って、出口に向かった。
「ミワはどうする。」
「うーん。今更、実家に帰るのもなんだし、泊っていっても、かまわない。」
「大丈夫よ。じゃ、さっきケーキ食べたことだし、トレーニングルームにでも行こうか?」
「助かる。ちょっと体動かしてから、食事にしたかったんだ。」
二人はトレーニングルームに向かった。
ナミはジョギングマシーンのスイッチを入れて、軽く走り始めた。
ネネは椅子に座ると、ペダルを踏み始める。
「ねえ、ナミ。」
「何、ネネ。」
ミワは軽く走りながら、顔をネネに向けた。
「ジャックと、なにがあったの?」
あまりに急所を突いた質問に、ミワは思わず、こけそうになった。
「なに、急に・・・。」
ミワの態度に違和感を感じながら、ネネはそのまま質問を続けた。
「なんで、そんなにあわてるの?ただ単に、ジャックを海に、突き落とした理由を、知りたかっただけよ。」
「ああ、そっちのこと。」
ミワはホッとした。
『ネネが、バルコニーでの出来事を知るわけないのに、何慌ててるんだろ私。』
「でっ。」
ネネがせっついて来た。
「簡単よ。胸が小さいって、馬鹿にされたから、ちょっと頭来て、海に突き落としただけ。」
「へぇー、ジャックって、やっぱり噂通り、巨乳好きなんだ。」
「見たいね。」
なんでか、頭にきたミワは、つっけんどんに同意する。
「いいこと聞いたわ。それじゃ、やっぱり噂は本当かも。」
ネネはペダルを踏むのを止めると、器具が置いてある脇のコンソールに行くと、電源を入れた。
すぐに電源が入り、何かのスクリーンが立ち上げる。
「どうしたの、ネネ。」
走りながら、ミワがネネの立ち上げた画面を見た。
「ねえ、ミワ。今年、卒業したユニバのチアリーダーの名前知ってる?」
「えっ、チア・・。」
ミワは走るのを止めて、マシーンを降りると、タオルをとって、汗を拭く。
「確かリンダ・マクナリーで、トムのお姉さんだったと思うけど。」
「フーン。なるほど。」
ネネは、黒い笑みを浮かべた。
『げっ、この笑顔。ネネが何か、悪いことを思いついた時のもの。ジャック、一体、ネネに何やったの。』
ミワが呆気にとられて見ていると、スクリーンが、次々に変わり、最後に、濃厚な男女のSEXシーンが映し出された。
「なにこれ???」
あまりのどぎつさに、思わずのけぞる。
その時、なんでかジャックが、ドアを開けて、中に入ってきた。
すぐに画面に気がついて、怒鳴りはじめる。
「お前たち、なんでこんなもん、見てるんだ。今すぐ消せ!!!」
「でも、これ個人のフォルダだし。」
ネネがすかさず、答える。
「なんだと、個人のフォルダだと。」
なんでか、ジャックが、烈火のごとく怒っている。
不思議に思って、よーく見ると、なんと、このどぎついポルノもどきの男は、ジャックだった。
「ええーーうそーー。」
ミワは思わず声を上げていた。
ジャックが真っ赤になって、ネネに懇願している。
「頼むから、消してくれ。」
「どっちを消せばいいのかしら。今写っているスクリーンから、それとも、この画像を持っている相手のフォルダから?」
「おい、相手のフォルダから、これを消せるのか?」
「ええ、出来るわ。ただし、私の要求を飲んでくれるなら。」
ネネが意地悪く笑う。
「どんなことだ?」
『すごい。わたしだったら、なんでも聞くから消してって、土下座するのに、ジャックは、一応、ネネの要求を確かめるんだ。』
「今回の婚約話をジャック側から、断って欲しいの。」
『へっ、婚約って、ネネとジャックは婚約してるの!!!』
ミワの胸がちくっと痛んだ。
『なんでそんなことで、ショックをうけるのよ、私。』
ミワが自分の気持ちに焦っていると、ジャックが即座にネネの要求に返答した。
「そんなことで、いいのか?」
意外に簡単な要求に、ジャックが驚いている。
「ええ、婚約だけを断ってほしいの。共同研究はそのままでね。」
「なるほど、そういうことか。」
ジャックは、納得して頷いた。
「双方が平等に、研究できるように、少しだけ、そっちに情報を流そう。これでどうだ。」
ネネはニヤリとすると、キーをクリックした。
画面の映像が虫くい穴になり、消えていく。
「まだ、情報を流してないのに、いいのか消して?」
「まだコピーの1部が、ここのメモリーにあるわ。ジャックからの情報を確認次第、これも消す。
ちなみに今ので、リンダ・マクナリーが持ってた、全部の情報が虫くいでなくなったわよ。」
「なんで全部消したんだ?」
「1部を消すより、簡単だからよ。それに1部だけだと、いかにもって感じでしょ。
全部壊れたなら、人間仕方ないって思うものよ。」
「わかった。だがさすがに、情報は平等になるまでしか、流せん。」
「わかってるわ。後でまた、必要になれば、請求する。」
「怖いなぁー、そりゃ。」
ジャックはそう言うと、了承だと頷いた。
「ナミ。」
ネネがナミを見た。
「私は今、とっても空腹で、それ以外、何も知らない。」
ミワは暗に、今聞いたことは、何も言わないと示唆した。
ネネはニッコリ笑うと、
「じゃ、食堂に行こうか。」
三人はネネの出した矢印に乗って、食堂に向かった。