31ゆめ
ミワは、ジャックの懇願に折れ、彼の両親に、会いに行った。
場所は、ダヴェンポート財閥が運営する研究施設だ。
「ここだよ。」
ジャックの後に着いて、施設の中に入る。
中に、研究用の白衣を着た人や、繋ぎの作業服を着た人々が、大勢、ロビーを行きかっていた。
彼は真っ直ぐに、ミワをつれて、移動ドームに向かった。
二人でそこに入ると、移動場所のナンバーを打ち込む代わりに、彼はカードを差し込み、キーパットを出した。
軽い起動音がしてモニターが現れると、すかさず、何かを打ち込み始めた。
「ミワの誕生日は、たしか0179だよね?」
ミワは頷いた。
ジャックは、それを打ち込んで、カードを抜くと、ミワにパネルの青い部分に、そのまま手の平を、置くように促した。
ミワは促されるまま、そこに手を乗せた。
僅かにセンサーの音がして、すぐに電子音が軽やかに鳴った。
「これで、研究施設の全ての場所に、手をかざせば入れる。」
ジャックの言葉に、ミワは目を瞠った。
「ちょっ、そんなの、問題にならないの?」
「ミワは、俺の嫁だから問題ない。」
ジャックは、そう言い切ると、移動ドームの扉を開けた。
「こっちだ、ミワ。」
ミワは、ジャックに連れられて、小さな扉から中に入る。
中には、外からは想像がつかないような広い空間が広がっていた。
そこかしこに、見たこともない部品と、何かの液体や気体が詰まった透明な筒が、所狭しと並んでいた。
「所長、言われて通り、連れて来たぞ!」
ジャックが不貞腐れたように、そう言うと、彼によく似た女性が、こちらを振り向いた。
途端、彼女は華やかに笑う。
「まあ、やっと会えたわ。ショーン!」
彼女の声に、前で何かの計器を見ていた、こちらは目元だけが彼に瓜二つの男性が、こちらを振り向いた。
彼は立ち上がると、ミワの元にやってきた。
「よく来てくれたね、ミワ。私がジャックの父ショーン・ダヴェンポートだ。それでこっちが妻のアビーだ。」
ショーンは、ミワに手を差し出して、握手しながら、彼の妻を紹介した。
「宜しくね、ミワ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
なんでか、その後ジャックの両親には、マジマジと顔を見つめられた。
なんで、なんだろうか?
ミワは不安になって、ジャックを見た。
彼も気付いたようで、すかさず両親を咎めた。
「なんで、二人とも、ミワをジロジロ見るんだ。」
「いやー、すまない。悪気はないんだ。ただ、私はレイラのファンでな、ついジロジロ見てしまったんだ。許してほしい。」
ジャックの父親の気持ちも、分からなくはない。
たしかに、母の名を知っていれば、そう思うだろう。
そこに、横合いから、いきなり不機嫌な声が、割って入った。
「あなた、それ、とても失礼よ。ミワさんは、伝説のライダー大の娘なのよ。だから、・・・。ほんと見れば見るほど、彼にそっくり!」
アピーはミワの顔に、うっとり見惚れる。
「えっ。」
ミワは父に似ていると言われて、一瞬、言葉に詰まった。
そう言えば、最近は言われなくなったが、義父と結婚する前の母には、昔、よく言われた。
”あなたは、私が愛しい人に、本当にそっくりね。”そう言って、よく頬にキスをしてくれた。
彼女が昔を懐かしんでいるうちに、目の前では、ジャックの両親が、夫婦喧嘩を初めていた。
「おい、お前まだ、大にあこがれているのか?」
「あら、あなただって、レイラに夢中じゃない。それなのに、私に何が言いたいの?」
思わず始まった、夫婦げんかにジャックが、割って入った。
「二人ともいい加減しろよ。それより兄貴たちは?」
「フィンとレイドなら、今、会議中よ。夕食には来るって。」
いきなり、入ってきたジャックの質問にケンカをしていたはずのアビーは、直ぐに答えた。
「少し早いけど、お茶にしましょう、ショーン。」
いきなり、何を考えたのか、アビーはショーンにそう提案した。
「そうだな。ここじゃ、落ち着かない。行こうか。」
ショーンは、後を部下に任すと、四人でカフェに向かった。
移動はさっき乗ってきた移動ドームで動いた。
軽い音がして、今度は光が溢れる喫茶店に出た。
直ぐに給仕ロボットが寄ってきて、席に案内してくれた。
ショーンは四人分のお勧めを頼むと、数分でテーブルに、季節のフルーツと香り高いコーヒが現れた。
全員がコーヒーに口をつける。
ミワは目を見開いた。
「すごい、おいしい!」
「よかった。気に入ってくれたのね。これは私が開発した豆を使っているの。」
アビーがすかさず、コーヒ豆の開発の話をしてくれた。
ミワは、それを楽しそうに話すのをずっと聞いた。
次に季節のケーキを食べる。
こちらも絶品だった。
「どうだね、それは?」
ショーンが聞いてきた。
「はい、凄く美味しいです。」
ミワは素直に答えた。
「そうかい、それはよかった。実はこれは、私がレシピを作ったものなんだ。」
今度はショーンが、そのレシピ作りについて、延々と語った。
言ってはなんだか、お二方とも、とても大財閥の当主とその夫人には、思えないほど気さくな人達だった。
数時間、話した後、アビーのカードが鳴って、ジャックの両親は、会議に出る為、喫茶室を後にした。
その後は、ジャックのカードがなって、彼の長兄と次兄が、研究している宇宙エネルギーの実験施設に、連れて行かれた。
「遅いぞ、兄貴。」
「悪い、ちょっと長引いてね。俺が長兄フィンで、こっちが次兄レイドだ。」
ミワは、父親似の二人と、それぞれ握手した。
「待たせて、悪かってね。それより、ミワちゃんは、今ライダー科って言ってたけど、将来は、プロのライダーになるのかい?」
フィンが、研究施設横に、設置されている休憩室に、歩きながら、聞いてきた。
「えっと、ほんとは、ライダー整備士になりたかったんですが、母の反対にあって・・・。」
「それ、本当?」
次兄レイドが、いきなりその話に、食いついた。
「レイド兄。言っておくけど、ミワは渡さないよ。」
ジャックがミワを、背後から抱きしめた。
ミワは、話が見えなくて、レイドを見る。
「別に、俺が嫁にするわけじゃないから、いいだろ。ちょうど整備士が、足りないんだ。」
「えっ・・・。」
ミワの目が輝いた。
それって、どういう意味。
「ミワはダメだ。」
レイドはミワを見ると、状況を説明してくれた。
今すぐじゃないが、数年後、ダヴェンポート財閥でも、宇宙エネルギー関係の開発と共に、今一番人気のライダーの次世代機のエネルギー開発をしていて、それには車体自体も新しい品を開発する必要があったが、その開発メンバーのうち、ちょうど整備士だけが足りないようで、良ければやらないかというお誘いだった。
物凄くやりたい。
ミワは、思わずジャックを仰ぎ見た。
彼と目があった。
ジャックは懇願するようなミワの眼差しにに、一瞬、目をそらすと、大きな溜息をついた。
「わかったよ、ミワ。ただし、大学を卒業した後、ちゃんと整備士の資格を取ってからだからね。それと俺と結婚するのが、先だから。」
ミワは、背後から抱き付いているジャックの手をそっと、外させると後ろを振り向いた。
腕を伸ばして、背が高いジャックに屈んでもらうと、彼の口にそっとキスをする。
ジャックは、目を白黒させ、ミワは真っ赤になって、下を向いてしまった。
そんな二人を、フィンとレイドは、ニヤニヤしながら、見つめていた。
俺達の存在、完全無視だな。
ああ、そうみたいだ。




