26辺境惑星からの脱出(2)
結局、ヨウが単座の複葉機を操縦できないということで、ミワは複座の複葉機を整備することにした。
壁に置いてあった工具を出して、まずはエンジンの点検をする。
エンジンは大丈夫なようだ。
ミワは、外装が所々、ヒビが入ったり、歪んでいる所を、残っていた部品を使って、丁寧に修理し始めた。
残っている部品を見る限り、ここにいた人物は、この機体を修理する前に、何らかの理由で、ここを離れたようだ。
なぜなら、そこに残っていた部品は、全て、この複葉機の修理部品だったからだ。
「そこ、もっと右に、ズラして。」
ミワは、単座の複葉機を操縦できないから、複座を修理するしかないと、ヨウに言って、部品の運搬と取り付けを手伝わせていた。
彼はぶつくさ言いながらも、結構、頑張って、働いてくれた。
お陰で、なんとか、十日後の救出までに、複座の修理は、終わりそうだ。
「あとどのくらいかかる?」
ヨウが心配して、声をかけて来た。
私は、外装を修理しながら、答えた。
「この調子で行けば、後二日もあれば、完全に終わるけど、もう一つ問題があるかな。」
「問題?」
ヨウが、何が問題のなのか、まったく気がついていないようだったが、複座の複葉機を修理する以上に、本当はそっちが問題だった。
ミワは、完全に外装を固定してから、複葉機を降りると、外に出た。
「ここが、問題。」
ミワが倉庫の前に広がる、緑を指示した。
「なんで、緑が問題なんだ?」
ここまで言っても、わからないものなんだ。
ミワは、溜息をつきながら、さらに説明を追加した。
「複葉機は、滑走しないと飛べない。つまり、目の前に緑があると、その滑走距離が足りない。少なくとも、崖までの直線だけでも、広場にしないと、浮き上がることも出来ない。」
ヨウがミワの言葉を聞いて、固まった。
ギギギッという音がしそうな、ぎこちない動きで、ヨウはミワを睨み付けた。
「さきに、それを言うべきだろ。どうやって、この緑をどかすつもりだ?」
ヨウが怒った顔で、ミワを見た。
「こっち。」
ミワはヨウを連れて、倉庫に戻った。
倉庫の奥に置いてあった火薬をヨウに見せる。
「これは、まさか・・・旧式の火薬か?」
ミワはヨウの質問に頷いた。
「これで、イッキに崖までの道を作れない?」
ヨウは、火薬を手にとり、傍にあった道具箱と置かれていた部品の数々を、手にとって、眺め出した。
「俺が、これを扱えるとなんで思ったんだ。」
ミワは質問には答えず、逆に聞き返した。
「できないの?」
その質問に、ヨウはニヤリと笑って答えた。
「もちろん、使えるさ。当日、きれいに広がった何もない道を、作ってやるよ。」
ヨウは、それから火薬を筒に詰め、細長い導火線がついたものを、何十本も作成し始めた。
ミワは、それ以降は、複葉機の整備に戻った。
最終日前日には最後の調整に入った。
油を指したり、エンジンを動かすために、置いてあったオイルを入れ直したりと、一人で動き回った。
当時の朝、複座の複葉機は、ミワの手で見事、完成していた。
道は、昨日のうちに、ヨウにより、仕掛けられた火薬で、きれいに一本の道が出来ていた。
「でっ、どうすればいい?」
ミワは、ヨウの問いかけに、倉庫に残っていたレトルトの不味いパンを差し出した。
「待つしかないわけね。」
「複葉機は空中で、ホバリングが出来ないから、連絡があってから、向かわないと、頂上で凍死する。」
ミワの答えに、ヨウは体を震わせた。
二人は、雪が被った山で待てるような服装をしていなかった。
下手に早い時間に行こうものなら、山頂で氷漬けになるのは、間違いなさそうだ。
結局、二人は、ネネからの連絡をひたすら待った。
もう飽きたと思った時に、おもむろに連絡が入る。
合流地点に向かえ!
「行くわよ。」
ミワが前に座る。
ヨウは、言われたように、プロペラの初期動作を手伝うと、直ぐに、後ろの席に飛び乗った。
複葉機は、軽快な音を立てて、倉庫内から外に出た。
すぐに、火薬で均された道を真っ直ぐに崖に向けて進む。
「さあ、飛びなさい。」
ミワの声に応えるように、複葉機が翼に風を受け、浮き上がった。
ウワー
二人を乗せ、空に舞い上がる。
運よく、快晴で視界も良好だ。
ミワは、記された合流地点に、真っ直ぐ向かった。
「どうやって、これで頂上に向かうんだ。」
確かに複葉機は、空高く飛んでいるが、青の山脈は、さらに上だ。
ヨウは不安になって、後ろから叫んだ。
プロペラの音で、叫ばないと声が聞こえない。
「大丈夫。これから上昇気流に乗るから。舌噛むくらい揺れるけど、振り落とされないでね。」
ミワが叫んだ途端、物凄い揺れが複葉機を包んだ。
途端、グングン上がっていく。
それと同時に、機体が物凄く揺れた。
バランバランになると思った時、唐突に揺れが止まり、山頂が見えた。
その瞬間にフワッとした感じがなくなり、重力が下に働く。
ミワは、すかさず、機体を緩やかに方向転換すると、頂上に突っ込んだ。
ズガガガガァー。
激しい動きに、ヨウは機体の外に投げ出され、体が雪に突っ込んだ。
ミワは、なんとか崖の手前で、機体を停止させると、リュックを持って、雪の上に降り立った。
「おい、もそっと、丁寧に降ろせないのか?」
顔じゅうを雪まみれにした、ヨウが起き上がって、文句を言う。
「一応、揺れるから、振り落とされない様に、注意したんだけど。」
確かに注意されたが、これほどとは思わなかった。
二人は、救出隊が来るまで、寒かったので、怒鳴り合いながら、ネネに言われた通り、指定された山の頂上付近に待機していた。




