25辺境惑星からの脱出(1)
ミワは、ネネから送信された暗号文を受け取った。
”十日後に救出予定。場所は青い山脈の頂上。ちなみに復讐は、すでにこっちで進行中だけど、私を心配させたミワには、参加させない!”と書いてあった。
「なんて、書いてあるんだ?」
ミワが、どこでも繋がる無線の携帯機器を出して、通信を始めると、数分で、またメールの返信が返ってきた。
それを、背後から覗いていた丸井ヨウが、聞いてきた。
「十日後に救出するから、青い山脈の頂上で合流するように、だそうです。」
「えっ、青い山脈って、ここから見える雪被ってるあの山?」
丸井ヨウが、目を大きく、見開きながら、確認してきた。
「そうです。」
「いくらなんでも、無理だよ。麓に着いて、登頂するまでに、軽く見積もっても、一か月はかかる。十日でなんて、無謀だ。」
「そうですか、なら、丸井さんは、ここにいて下さい。私だけ行きます。」
「おい、待てよ。いくら何でも徒歩でなんて、絶対無理だ。」
「徒歩で行く気はありません。」
「えっ、じゃ、何で行くの?」
「複葉機で行きます。」
「ふくようき!」
絶唱する丸井ヨウを無視って、ミワはどこでも繋がる無線の携帯機器をリュックに仕舞うと、四隅に獣よけの缶を置いた。
その後、さっきの小型のナイフを出すと、鋭い牙を持った肉食獣の巨体を、解体し始めた。
「おい、複葉機を捜しに行かないのか?」
丸井ヨウが目を丸くして、ミワの手さばきを見ながら、質問してきた。
「明日、明るくなってから行きます。今は、お腹が空いたので、この新鮮な肉を焼いて、食べます。」
「どうやって、焼くんだ?」
「レーザで。」
ミワは、そう言うと、解体して切り出した肉に、塩付けしながら、焼いていった。
そして、焼いた端から、持って来た、圧縮パックに詰め込んだ。
こうすれば、後五日くらいなら、日持ちするし、調理しなくても、すぐに食べられる。
本当はもっと多量に焼いて、持って行きたいが、嵩張って重いので、私の体力では、無理なので諦めた。
ミワが、詰め終わって、残りの肉を食べていると、丸井ヨウから声がかかった。
「じゃ、残りは俺がもらうわ。」
「私が倒した獲物なので、対価を要求します。」
「対価ね。」
ヨウは考えた末、カバンから、小さな筒を放り投げてきた。
「塩!」
「十分だろ。」
ミワは頷いて、食事を再開した。
ヨウは結局、彼女の倍の量を、リュックに詰め込んでいた。
さすがは軍人、体力が違うか。
ミワは食事を終えると、地面に保温シートを一枚敷いて、上着をもう一枚羽織ると、そこに横になった。
「おい、ここで寝るのか。」
ミワはヨウの声を無視すると、リュックを脇に抱えるようにして、目を閉じた。
すぐに、眠りにつく。
おいおい、どんだけ図太い神経してるんだ。
ヨウは呆れて、隣で眠る人物に、目を向けた。
と言っても、流石に俺も疲れてるんで眠るか。
結局、ヨウもミワと同じように、地面に保温シートを一枚敷いて、上着をもう一枚羽織ると、銃をいつでも抜けるようにして、そこに横になった。
二人は夜明けまでの、数時間を、そこで眠って過ごした。
翌朝、ミワは昨日の塩漬けにして焼いた肉を、温めると食べてから、ネネから送られてきた情報にかかれていた、軍の倉庫に向かった。
徒歩だと、三日はかかる。
だが、同じ徒歩で、青い山脈を登ることを考えれば、これが一番の近道だ。
ミワは、結局一緒に着いてきたヨウと、軍の倉庫を目指した。
途中、磁力が強く、方位指示機が使えない場所で、迷子になりそうなのを、ヨウに助けて貰った。
そう言う意味では、このヨウという男を連れて来て、正解だったのかも知れない。
ミワとヨウが歩き始めて、三日目の夕刻に、やっと軍の倉庫を発見した。
周囲を分厚い蔦に絡みつかれていた。
ミワは、太い蔦を小型ナイフで切り落とすと、倉庫扉の開閉スイッチを捜した。
なかなか見つからなかったが、何とか真っ暗になる前に、スイッチを見つけて、中に入った。
そこには、マニアが見たら、垂涎ものの機体が陳列されていた。
ミワは淡い光が照らし出す中、一機ずつ、機体を確認した。
どれも単座戦闘機で、複座のものは、整備が必要な一機しかなかった。
「ヨウさん。これ操縦できます?」
ミワの声に、熱心に見ていたヨウが振り向いた。
「これ使えるの?」
「ええ、単座のものは、全部状態はいいので、使えますよ。」
「単座?」
「一人乗り用のことです。でっ、操縦は出来ますか?」
「・・・。君は出来るのか?」
恐る恐る聞いて来るヨウに、ミワは笑顔で答えた。
「出来ますよ、当然。」
「なんで、出来るんだ?」
「昔、父に教わりましたから。」
「将軍にか!」
「いえ、実父にです。たまたま博物館に行って、複葉機が展示されていて、あれを操縦したいって言ったら、次の日には、訓練場に連れいってくれて、操縦を教えてくれました。」
ミワの告白に、ヨウは度肝を抜かれた。
一体、誰なんだ、その人!
だいぶ前とは言え、超ド級の高額な遺物だぞ。
個人で所有してない限り、普通は乗れん。
何者だ、その人?




