23交渉
レイラは、食事をしながら、ボサノバに、娘の救出に、同行したいとねだった。
「ですが、レイラ。今、あなたが演じている舞台は、どうするんですか?」
レイラが出演している舞台は、一度も主役の彼女を欠くことがなく、ロングセラーの記録を、更新し続けていた。
「私は舞台より、娘が大事なのよ、ボサノバ。」
レイラの手が、そっとボサノバに伸ばされた。
「レイラ!」
ボサノバが差し出された、彼女の手をギュッと握る。
レイラは、潤んだ瞳でボサノバを見つめた。
「レイラ、任せて下さい。きっと私が、あなたを、一緒に連れて行って、差し上げます。」
「ボサノバ、ありがとう。」
良い雰囲気になった所に、レイラのカードに、舞台の演出家より、演出変更の連絡が入る。
「ごめんなさい、ボサノバ。どうやら・・・。」
「いえ、レイラは気にしないで、舞台に集中して下さい。あなたの舞台が終わるまで、人質交換は、始まりませんから。」
「でも、ノリンが・・・。」
レイラは、不安な顔で、ボサノバを見た。
「私に任せて。」
ボサノバはそう言うと、レイラの手に口づける。
レイラは、そんなボサノバを見ると、妖艶に微笑んで見せた。
ボサノバの顔が何かを想像したようで、真っ赤になる。
二人は、その後親しげに腕を組んで、レストランを出ると、ボサノバに送られて、レイラはもう一度、明日の舞台がある会場に戻った。
ノリンは、朝方に、レイラから、ボサノバの籠絡作戦が無事、完了した旨の連絡をもらった。
次は、ノリンの出番だ。
広明の期待もある。
ここは何が何でも、失敗出来ない。
気負いながらも、書類を持って、交渉の場に、ジェームズを伴なって向かった。
向かった先は、軍にある非公式の次元会議室だ。
見ると、向こう側には、すでに交渉相手の敵国のお偉いさんが、勢ぞろいしていた。
こちら側の席も、すでに禿くそ親父である情報局長のボサノバを筆頭に、開戦派の密約をしているメンバーが勢ぞろいだ。
そこに、ノリンとジェームズが、席に着いたことで、非公式の次元会議室が始まった。
こちら側は、ボサノバを始め、当然相手国からの人質の早期解放を打診した。
相手側も、すぐに解放に応じる雰囲気になった。
私は内心、慌てながらも、冷静な声で、相手に追加の交渉をした。
「では期日は一週間後で、全員の一斉解放をお願いします。」
ノリンの要求に、敵側が難色を示した。
「全員の一斉解放だと、ふざけるな。解放した途端、そっちから狙い撃ちにされるかもしれん。了承できん。」
「なら言わせてもらいますが、そちらの言葉を信じて、近づいた途端、そちらから攻撃を受ける、かもしれません。」
ノリンが相手を煽った。
「馬鹿な、そんなだまし討ちのようなことは、我が国は絶対にしない。」
敵国も、もちろん自国をそんなことはしないと言い張った。
「我が国には、約束を破る卑怯者はいない。」
ジェームズがそこで、相手にムッとした顔で反論した。
「どうも両国とも熱くなっているようなので、もう一度、日を改めて、次元会議を、設定し直しましょう。」
ノリンがすかさず、突っ込んだ。
両国の開戦派がそろって、難色を示した。
「まあまあ、それでは、どうでしょう。10日後、両国の中立地点である辺境惑星で、引き渡しなら、いかがでしょうか?」
いいタイミングで、ボサノバが提案してきた。
ヨシ勝った。
ノリンは、心の中で、思わずガッツポーズをした。
さすがレイラだ。
どうやって、ボサノバを操ったのか、わからないが、最高のタイミングだ。
敵は今の集結地点で引き渡しが行えるならと、ボサノバの意見を了承した。
お互いに、人質の引き渡し場所と時間を再確認し、非公式の次元会議は、ここで終了した。




