2パーティー
「やられた。」
ジャックは、銃を降ろして、呟いた。
自分の油断が先取点を取られての、敗退につながったのだ。
高校生だと思って油断した。
あのまま照準を合わせ続けて、引き金を引いていれば、開始5分での敗退はなかったはずだ。
ウィリアムが戻ってきて、ジャックの肩を叩いた。
「お前のせいじゃない。追いつけなかった俺も同罪だ。」
「たしかにな。でも普通、行き過ぎたからって、エンジン切るか?
エンジンを再スタート出来たから良かったけど、下手するとあれ、地面に叩き付けられてるぞ。」
ジョナサンが心配そうに言う。
「それについては、ミワに説教する。」
ウィリアムは拳を、固く握って、力説した。
ウィリアム自身もあれは見ていて、心臓が痛くなった。
自分の義妹が地面に叩き付けられるのではないかと、心底心配したのだ。
今でも思い出すだけで、胃が痛くなる。
チラッと横を見ると、ミワのチームが自分たちに勝って、浮かれている。
観衆もこの予想を上回る状況に大騒ぎだ。
この後のパーティーが大変そうだな。
親父になにか言われそうだ。
「まっ、たまには後輩に、花持たせもいいんじゃないか。」
チームメイトのマーティンが横から三人に声をかけた。
「まっ、実際俺達、あいつらのこと、たわいないと思って油断してたしな。
特にウィリアムの義妹については、あのフォルム見て、さらに油断した。」
マーティンの意見に三人は同意する。
『『『『あのフォルムで、あの速さって、なんの冗談だ。』』』』
招待試合後、夜にパーティーが開かれた。
今日の主役である高校生4人と招待試合のウィリアム以下三人と関係者一同が、グラスを持って、スタジアム脇のホールに集う。
ここで、今日の試合を見た将軍こと、ジェームズ・オーランドが、試合の講評を行った。
「まずは、あの見事な射撃を褒めよう。
しかし、いくら射程内に捉えるためとは言え、エンジン停止はいただけん。
それと、大学生諸君、高校生相手とはいえ、油断しすぎだ。
まっ、その他いろいろ言いたいことはあるが、8人の選手の健闘を称え、
ここで乾杯!!」
ジェームズはそう言い、グラスを掲げた。
全員それに倣って、グラスを鳴らす。
パーティーの始まりだ。
ミワはその途端、脱兎のごとく逃亡を図ろうとして、異父妹のティア・オーランドに捕まった。
「お姉さま、どちらに行かれますの?」
「えっと、久しぶりね、ティア。いろいろ話したいことはあるけど、ちょっと用事があるの。なので、その手を離してくれないかしら。」
「そうね、離して、おあげなさい、ティア。」
「「お母様。」」
元チアリーダーで現役の大女優レイラ・オーランドがミワの目の前にいた。
「久しぶりね、ミワ。
休みの日も家に帰らず、女子なのにライダー漬けなんて、いただけないわ。
あなたもティアを見倣って、チアリーダーになりなさい。」
「お母様、お言葉ですが、チアリーダーになる前に、体型が少々規定値に足りないので、遠慮させていただきます。」
ミワはそう言って、異父妹と実母の胸を見た。
実に大きい。
自分は見なくてもわかる。
「まあ、ミワ何を言っているの。チアリーダーになるのに、そんな規定値はありませんよ。」
レイラはそう言って、大きな胸を震わせて、笑った。
『お母様、知らないのは、あなた達だけです。実際にはあるんです。出なければ、チアリーダー全員が巨乳なんて、ありえません。』
ミワがそう心の中でのたまっていると、義父が近づいて来た。
「ミワ、久しぶりだな。」
母のレイラの腰をさりげなく、引き寄せると、父の目がミワを捉えた。
『やばい、これはお説教モード発動目前だ。』
ミワはさりげなく、後ろに下がろうとして、それを義兄ウィリアムに阻まれた。
なぜか兄が後ろにいる。
見ると兄の取り巻きが、ジャックによって、阻止されていた。
今日の試合の仕返しか。
『くそっ、現状打開の手段は他に・・・。』
ミワは周囲に目線を送りながら、さりげなく探るが、打開できるような人物がいない。
『もう、だめだぁー。』
と思ったところに、横から声がかかった。
義兄の婚約者のバイオレットだ。
実母や異父妹とは、対照的なスレンダー美女だ。
とはいえ、運動神経抜群の数少ない女性ライダー乗り、しかも赤毛だ。
兄と同じ大学生で、なんと母親はシングルマザーで、ミワの義父である将軍の副官をしている。
「お久し振りね、ミワ。今日は素晴らしい活躍で、数少ない女性ライダー乗りの私も誇らしいわ。」
数少ない女性ライダー乗りとして、ミワはバイオレットに、いたく気にいられている。
おかげで、窮地を救ってくれたようだ。
「お久し振りです。バイオレットさん。」
ミワは家族を無視して、バイオレットに笑いかけた。
ここで、バイオレットを逃がしたら、自分がやられる。
「バイオレット、何でここに?」
義兄の言い方に、母がちょっと怒ったようだ。
「ウィリアム、その言い方は何ですか。バイオレットに失礼よ。」
「ご無沙汰しております、レイラ様。いつもお美しいですね。」
「まあ、バイオレット。そんなお世辞、いわなくてもいいのよ。」
義父の腕の中にいる母の機嫌が上がった。
さすがバイオレットだ。
「今日は残念だったわね、ウィリアム。」
すかさず、さっきのお返しに、義兄の心の傷をえぐる。
兄がバイオレットの一言にグッと言葉を詰まらせている。
私は周りを見た。
異父妹のティアは、私のお説教が始まる前に、大好きな義兄の親友ジャックを捜しに行ったようだ。
今が逃げる絶好のチャンス。
私はバイオレットと話している家族の傍から、そろそろと離れると、バルコニーに向かった。
まともに扉を出ようとすれば、家族の放った別の、説教者という刺客に捕まる。
ここはバルコニー脱出が一番成功率が高い。
ミワがバルコニーの枠を飛び越えようとすると、誰かがミワの腰を抑えた。
「どこに行こうとしているのかなぁー、ミワ。」
そこには、酒のグラスを持ったジャックがいた。
「ジャック、何でここに。」
ジャックは酒をグッと一気に飲み干すと、
「義妹のところに行きたいウィリアムに頼まれて、いつもより多くの女性を相手してね。さすがの俺も、少々疲れ義務でね。
ここでちょっと休憩していたら、何故かミワ、君がここに来たんだよ。」
「あっそれは、休憩中、お邪魔しちゃって、すぐ私はここから退散しますから。」
私がそう言って、バルコニーを乗り越えようとすると、ジャックが、ミワの腰を掴んだ。
「うーん、ミワ。いくらなんでもバルコニーから飛び降りるなんて、危ないよ。」
そう言ってミワを、バルコニーに引き戻す。
そしてあろうことか、ミワの顎を掴んで、上向かした。
「ジャック、ちょっとなんか、いつも以上に酔ってませんか?」
ミワは、慣れない状況に、いつも以上に、しどろもどろになった。
ジャックはそれにはお構いなしに、ミワに近づくと、そのままキスをする。
『げっ、うそぁおーー。』
ミワは思わず、口を開けてしまった。
すかさず、ジャックの舌が入ってくる。
ジャックの舌が、ミワの口腔内を蹂躙する。
ミワの思考は、真っ白になった。
ミワに思いっきりキスして、ジャックは満足すると、ミワを離した。
ミワはバルコニーを背に、その場にズルズルと座り込んだ。
そこに、ジャックを捜しに、チームメイトのマーティンがやってきた。
「ここにいたのかジャック、ウィリアムが捜していたぞ。
おい、聞いているのか、ジャック。」
「ああ、今行く。」
ジャックは、酒に酔っていたとはいえ、親友の義妹にした自分の行動に驚くと、サッと上着を脱いで、バルコニーの床に、じかに座っているミワに着せかけた。
「ミワ、俺は行くよ。」
ジャックはミワの耳元に、小声でそう囁くと、バルコニーからマーティンを連れて、離れた。
「おい、今の誰だよ。」
マーティンからは、死角で見えなかったようだが、誰かがいたのは、わかったようだ。
「お前には、関係ない。」
ジャックはそっけなく、マーティンの問いに返した。
「わかったよ、何も聞かない。でも、とにかく行くぞ。」
「わかった。」
ジャックは、チラッとバルコニーを振り返った後、ウイリアムが待つ、ホール中央に向かった。
ジャックが消えて、数分ミワはその場に、そのまま座り込んでしまった。
前世、今世含め、キスなんぞ、初めてされた為、あまりのことに、思考がフリーズしている。
キスって、口の中に舌が入ってくるだ。
知らなかった。
いや、考えるのはそこじゃない。
なんでジャックは、キスなんてしたの?
いや、考えるのは、それでもない。
ダメだ。
とにかく、ここから出よう。
ミワは、ジャックが着せかけてくれた上着を、着直すと、バルコニーからすぐそばの枝を伝って、木に移動すると、スルスルと、下に降りた。
そして、周囲を見回した後、外に出る。
通りで、コンピューター制御のシティーカーを拾うと、寮の部屋に戻った。
いつもなら、戻った途端に、次の日のライダー整備の妄想に考えが行くのだが、その日は悶々と、ジャックがなぜあんな事をしたのか、ばかり考えて、なかなか寝付けなかった。
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仕事が忙しいため、不定期更新です。