16現役女優 レイラ・オーランドの回想2
「こっちこそ、よろしく。俺、君に会いたかったんだ。あんなふうに、ライダーを整備するなんて、君は天才だよ。ぜひ、俺のライダー整備士になってほしい。」
大は堂々と弘明の手をとって強く握ると、彼を口説き始めた。
弘明は、目を大きく見開いて、彼の話を聞いた後、妖艶な笑顔を浮かべると、手を振り払った。
「俺はノリン専用のライダー整備士なんだ。残念だけど、諦めてくれ。」
弘明は、ノリンの腰をグっと抱き寄せると、大の口説きをきっぱり拒絶した。
「弘明、うれしいわ。」
隣でそれを聞いていたノリンが頬を染めて、うれしそうに微笑んでいる。
二人の世界に入っているのに、その隣で見ていた大は、強引に声をかけて、彼らを引き戻し、さらに弘明に向け、宣言した。
「俺は、必ず君を口説き落として見せる。」
レイラは、慌てて、そう宣言している大の腕に縋りついて、二人から引き離した。
「何考えているの、大。」
「何って決まっている。弘明に俺のライダーを整備してもらいたいって、考えてる。」
レイラは呆れたように、大の腕を引いた。
「でもたった今出来ないって、言われたばかりでしょ。」
「たった一度断られたからって、諦められる訳ないじゃないか。」
「大!!!」
大は音楽にのって踊っている、弘明とノリンの二人を見ていた。
『必ず頷かせてみせるぞ、弘明。』
大はレイラに腕を掴まれながら、心の中で宣言した。
突然ノリンと踊っていた弘明は、寒気に背筋を震わせた。
「どうしたの弘明?」
「うーん、なんか今、すっごく、悪寒がしたんだ。風邪かな?」
「大丈夫? 今日は早く帰って、寝たほうがいいんじゃない?」
「ああ、そうだね。」
弘明とノリンは、いつもより早めに、慰労会の会場を後にした。
大はその後、弘明とノリンが進学する大学を調べ、自分が進むべき大学を蹴って、彼らと同じ大学を受けた。
レイラも大が他の大学を受けたのを知ると、大と同じ大学に行くために、自分が行くべき裕福者向けの大学を蹴ると、大の後を追った。
結局、四人は同じ大学の学生になった。
「やあ、弘明。久しぶりだね。」
「君は、本当にしつこいね。諦めるっていう言葉を知らないのかい。」
弘明は、分厚い教科書を抱えながら、自分に声をかけてきた男を、呆れ顔で見た。
「俺は、お前に俺、専用のライダー整備士になってもらいたい。」
大はきっぱりといいきった。
弘明は大きな溜息をつくと、
「わかったよ。どうせ同じライダーチームになるんだ。君のライダーも整備する。それでいいだろ。」
「言ったはずだ。俺の専用になって、もらいたいんだ。」
大は弘明の肩に、手を置いて、引き寄せようとする。
「僕も言ったよね。僕はノリン専用の整備士だ。それは、無理だよ。」
弘明は、大の手を払いのけた。
「俺は、お前がいいんだ。」
「何度もいってるけど、僕はノリンがいいんだよ。」
弘明はそういうと、大を振り切って、歩き出した。
「俺はぜったい、お前を俺専用にしてやる。」
弘明は大のセリフを聞きながら、大きなため息をついた。
「そのセリフだけ聞くと、なんだか口説かれているように、聞こえるのは、俺の勘違いだよなぁ。」
弘明はぼそりと呟いた。
「だから、さっきから言ってるだろ。俺はお前を口説いてるんだ。」
「あのね。」
弘明は、大を見ながら、なんといえば、この馬鹿に話が通じるのだろうかと、気が遠くなるのを感じた。
その時、講義が終わったノリンが弘明を見つけ、彼らの後ろからやってきた。
「弘明。お待たせ!」
ノリンが弘明に声をかけると、腕に抱き付いてきた。
「いや、大丈夫。待っていないよ。じゃ、行こう。」
弘明は、大を無視すると、ノリンと腕を組んで歩いていく。
そこにでは、一人取り残された大が、地団駄を踏んでいた。
「大!」
ノリンと同じ講義を受けていたレイラが、通路で佇んでいる大に、声をかけた。
「レイラ、いたのか。」
「ねえ、大。なんでそんなに、弘明を自分だけのライダー整備士にしたいの? さっき聞いていたけど、大のライダーも整備してくれるって、言ってたじゃない。」
「聞いていたのか。でも、俺は、弘明が他のライダーを整備するのが、気にいらないんだ。」
「それは、相手がノリンだからなの?」
「はっ、なんで、ここでノリンが出てくるんだ?」
大は何を言っているんだという感じだが、どうしても今の大の発言は、嫉妬に狂う恋人にしか見えない。
ノリンは溜息をつきながら、大の腕をとると、次の講義に、彼を引っ張って行った。