11襲撃
ミワが宿泊施設に歩いていくと、途中、後ろから大声で、ミワを呼ぶ者がいた。
さっきロボットに悪態をついていた男のようだ。
一体、ミワになんの用があるのだろう。
「おい、待てよ。」
ミワは振り返らず、そのまま男を無視して、歩き続けた。
「おい、待てったら。」
男はミワの肩を後ろから掴んだ。
ミワは振り向き様、男の手を取ると、そのまま男を地面に投げ飛ばす。
「気安く触るな!」
男は投げ飛ばされた反動を利用して、反転すると、手をついて立ち上がった。
ミワはその様子を目を丸めて、見ていた。
『こいつ、何者なの?』
さっき以上に警戒しながら、ミワは相手から一歩、距離をあけながら、相手の目を見た。
「やっと、俺を認識してくれて、ありがたいね。ところで、今の誰にならったの。」
「それは、こちらのセリフなんだけど。」
二人が険悪ムードで向き合った時、頭上を何かがもの凄い勢いで、通り過ぎる。 そして、司令塔に当たった。
途端、眩い光と大量の残骸をまき散らしながら、それは砕け散った。
「「なんだぁー。」」
ミワも司令塔を見る。
二人が振り返った数分後、傍の建物にも、次々と何かが着弾して、建物が吹き飛ぶ。
『やばい。このままだと、残骸に当たって、こっちも危ない。』
ミワは周囲を見た。
あるのは空き地と生い茂った森だ。
考える暇もなく、ミワは森を目指して、走り出した。
ふと隣を見ると、さきほどミワに話しかけた男も、森を目指しているようだ。
凄まじい爆風と煙と建物の残骸が飛び散る中、ミワは森に飛び込んだ。
その間も、休みなく、なにかのエネルギー弾が飛来して、建物を吹き飛ばしている。
『一体、何が起こってるの?』
ミワは森の中から、爆発して燃え上がる建物の炎で、昼間のように明るい景色を眺めていた。
数時間たっても、エネルギー弾の飛来は止まらなかった。
それどころか、だんだん位置が建物から、森の中に打ち込まれてくるものが数発ずつだがあった。
『ええ、うそぁー。どこに逃げろっていうの。』
でもやみくもに、森の中を逃げて、エネルギー弾に当たってもイヤだ。
しかし、何を目印に、もしくは何の目的で、このエネルギー弾は打ち込まれているのだろうか。
それがわからなければ、動きようもない。
『どうしよう。何かこの事態を回避できるようなもの、あったかな。』
ミワは、呻くが別段、思い浮かばない。
ミワは、仕方なく先程ロボットから受け取った地図を広げ、昼間のような明るさの中で、エネルギー弾が飛来したところを黒く塗り潰す。
不規則に見えて、どうやらこれは、軍の設備をねらったもののようだ。
そうとわかれば、この施設がない方に、動くのが正解のはずだ。
ミワは地図上で、川を見た。川には、何の私設もないのを見て、そこに向かった。
暗いので、昔ネネに貰った暗視メガネをかける。
少し色がついて見えるが、歩く分には問題がない。
しっかりした足取りで、川に向かう。
川に近づくほど、エネルギー弾が飛来する音が、遠くなってくる。
どうやら目標地点から、離れられたようだ。
ミワは一旦、川に出てから足を止めた。
先程から、何かの気配を感じる。
木に寄りかかりながら、周囲を見回す。
左後方に、何かの熱をメガネが感知した。
『動物、それとも人間?』
動物なら、向こうが離れるまで待てばいい。
でも人間なら、敵か味方か、どちらか一方になるけど、どう判断するのが、正解なの。
ミワは、そのまま動かず、木にもたれたまま、止まった。
なんにしろ、相手がこちらに気づいているかどうかが、これでわかるはずだ。
見ていると、相手の動きも止まった。
動こうとしない。
ミワはそろそろとバックから、小型のナイフを取り出した。
こちらに襲ってくるなら、人間にしろ、動物にしろ、反撃するしかない。
手元のスイッチを動かして、感電で相手が気絶するくらいにセットする。
相手は、ダダッと木を登ると、いくつかの木を使って、上からミワに襲いかかってきた。
ミワはその途端、スイッチを最大にすると、ナイフを頭上に向けた。
上から、襲ってきたものは、ナイフの刃に流れるエネルギーに触れ、どさりと巨体を横たえた。
ミワは木から離れて、それを確認した。
そこには、鋭い牙を持った肉食獣が巨体を横たえて、感電死していた。
『エネルギー値を最大にしていなかったら、この牙で、体を切り裂かれていたかも、知れない。あっぶなぁー。』
その時、拍手しながら、誰かが森から現れた。
さっきエネルギー弾が飛来する前に、ミワに声をかけた男だ。
「イヤー、すごい。一応助けようとしたんだけど、必要なかったようだな。」
『助けようとしただぁー。あぁー。なんて白々しい男なんだ。』
ミワは相手を観察した。
『丸坊主の強面で、胸元、足首が前から見る限りでは膨らんでいる。何かの武器を携帯しているようだ。形からいって、エネルギー銃の類だろう。』
ミワから何も返事がないので、男は勝手に自己紹介を始めた。
「俺は認識番号004、丸井ヨウだ。よろしく。でもなんで君は、こっちに逃げたんだ。」
男が何気なく聞いてくる。
「私はミワ・オーランドって名前です。ちなみに知ってるのに、知らない顔するの、趣味なんですか?」
「知ってるって、何を指してるんだ?」
「いろいろ・・。」
ミワはそれだけいうと、丸井ヨウと名乗った男を睨んだ。
『なんでか、こいつ気にくわない。何か隠してる。でも何を隠してるんだろ。うーん、見れば見るほど違和感があるんだよな。でもなんの違和感があるんだろ。』
ミワは油断なく、身構えながら、男から徐々に距離を開けた。
「いやー。俺、丸坊主の強面だから、警戒するのはわかるんだけど、別にミワを襲おうとか、考えてないからね。一応、言っておくけど。」
「じゃ、私も言わせてもらえば、安眠したいので、離れようとしてるんでけど、お互いの為に。」
「俺に言わせれば、ここ肉食獣がウヨウヨしてるようだし、二人で協力した方が、生還率上がると思うけど。」
男は味方のポーズ代わりに、手を上げた。
何故か手には手袋をしている。
銃やナイフが使いやすいような、軍用の皮手袋。
『わかった。さっきの違和感の正体。こいつ軍人だ。でも、なんで軍人がここにいるの。募集はたしか学生に限っていたはずだ。敵の偵察、それとも民間人のサポート。いや、それなら最初に紹介があるはずだ。残るは軍内部査察。それだ。じゃ、こいつに聞けば、今の状況がなんで起こっているかわかるはず。でも、素直に言う男に見えない。』
ミワは、相手を見つめた。
『ダメもとで、カマかけてみるか。』
「私は民間人なんで、査察対象外だと思うんですが、認識番号004、丸井ヨウ軍曹、それとも少佐かなんかですか?」
相手は一瞬ギョッとなって、直ぐに元の顔に戻る。
「いやだなぁ。何言っちゃってるの。俺はただの大学生で、軍人じゃないよ。」
ミワは負けじと言い返した。
「大学生なら認識番号は言いませんよ、認識番号004、丸井ヨウ軍曹。」
丸坊主の強面男は、溜息を付くと、あきらめて肩を竦めた。
「さすが将軍の娘さんだね。」
「血は繋がってませんけどね。」
ミワは一応、指摘しておく。
「そりゃ知ってるけど、末恐ろしいね。俺、今まで侵入捜査して、バレたことないんだけどなぁ。」
「なら、母を紹介しますよ。いろいろと教えてくれますよ。」
「へぇー。そりゃ嬉しいね。世紀の大女優と言われてるレイラ・オーランドに指南されるなんて、光栄過ぎて気絶しそうだね。ちなみに俺、彼女のファンなんだ。」
おちゃらけた態度でそう言う。
ミワはそれを無視すると、さらに相手に突っ込んだ質問を浴びせた。
「でっ、私たちがエネルギー弾に狙われている訳、教えて欲しいんですけど。」
「知りたい。」
ミワは頷いた。
「未確認だけど、今回の停戦に反対してる、両軍の参戦派が手を組んで、そのどっちかが、今回このエネルギー弾を打ち込むために、ゲリラに武器を流したんじゃないかと思う。」
「それを証明するものは?」
ミワの問いに、ヨウは首を横に振った。
「まったく証拠になるようなものはない。ちなみに見つかっても、それを軍まで持ち帰る手段が今はない。」
『たしかに、ここから脱出する手段を確保しないと、見つけても、それを運ぶことすら出来ない。ある意味、たんなる泣き寝入りだ。くそっ、相手をギャフンと言わせてみたい。どうすればいい。ここにネネがいたなら、何かいい知恵を・・・。』
ミワはニヤリと腹黒い笑みを浮かべた。