10辺境惑星
ミワはさっそく送られて来た、書類に書かれたものを用意する。
出発は5日後だ。
グズグズしていると、当日になってしまう。
一日目に、向こうで着る洋服を用意した。
次に、辺境だから、こっちのように自動で出来るようなものはないだろうと、一応、体を洗う洗面道具も入れた。
次の日に、使わないだろうと思いながらも、昔ネネから貰った、極小になる釣り道具とか、どこでも繋がる無線の携帯機器、それとネネの会社で最近始めた非常時に使う医薬品も入れた。
後の3日間は、大学に出す書類と、アパートを留守にするための手続きと、いろいろやっているうちに、気がつくと当日になっていた。
輸送機が発着されるのは、通常空港ではなく、軍の演習場になっていた。
どうやら演習機に乗せられて、辺境惑星に行くようだ。
三機あるうちの、最後の機に搭乗することになった。
中に入ると、ミワの他に四人の人物がいた。
全て自分と同じ大学生のようだ。
ミワが座席に座ると、この機の機長が席に来て、これから向かう辺境惑星に行く飛行ルートと現地で必要なものを入れたザックを渡された。
ザックの中には、当面必要な食料と医薬品、非常時に使う緊急用の電灯などが入っていた。
一応確認して、袋の口を閉じると、自分が持って来たリュックに括りつける。
「では5分後に出発します。」
演習用の輸送機は五分後、ガタゴトと音をさせながら、飛び上がった。
小さな窓から見える景色が、空色になり、白い雲を移した後、一旦シャッターが閉じた。
揺れがひどくなり、座席に体が押さえつけられる。
数十分後、体の重さがなくなった。
宇宙に出たようだ。
暇だったので、自分以外の人間をさりげなく観察してみた。
知っている顔はないようだ。
少しほっとする。
一番前に座っている人間は、背がかなりデカそうな茶髪の男と、その隣は、かなり小さいようで、金髪の天辺がちらりと見えるくらいの人物だ。
次の座席には、赤毛の長髪と丸坊主の人物がいた。
先頭の右にいる人物以外は、体つきから男のようだ。
ということは、座席の一番前に座っている人間が女性でなければ、ここにいる人間の中で、女性は自分ひとりということになる。
まっ、いいかそこは。
にしても暇だ。
なんで連続、跳躍しないのだろうか?
そうすれば、すぐに現地につけるのに。
ミワは暇になったので、やることもないことだし、寝ることにした。
一方、操縦席では、上官と下士官が言い争っていた。
「なんで、連続跳躍しないんだ。」
「しないんじゃなくて、出来ないんです。」
「この宇宙船、型が古いんで、連続跳躍、出来ないんですよ。」
「なんだと、今どきそんな船があるわけがない。」
「じゃ、このメーターを見て下さい。」
下士官は、目の前のメーターを指差した。
温度が上がり過ぎて、今にもオーダーヒート寸前だ。
「うっ・・くそっ。」
「下がってからしか、跳躍出来ません。」
上官は、早くしろだけ言って、黙り込んだ。
『『『俺たちだって、早く送って、帰りたいよ。』』』
全員がそう思っていた。
なんとか、だましだまし六回の跳躍をして、南半球の島に彼らを降ろした。
「それでは、半年後に、お迎えにあがります。」
送迎機はそれだけ言うと、彼らを置いて、上昇して行った。
彼らの目の前には、古ぼけた宿泊施設五棟と軍の司令塔が建っていた。
しかたなく、ミワを含めた五人は、司令塔に向かった。
司令塔に入ると、そこには旧型パソコンで動く、自立型のロボットがいた。
思わず五人は、同時に、そこで固まった。
今どきパソコン制御の自立型ロボット、なんているんだ。
ロボットは当然、人間のそんな感情をわかるはずもなく、人を認識すると、組み込まれている質問を繰り返した。
「認識番号と氏名をお願いします。」
しばらくして、何も回答がないと、また同じことを繰り返す。
「認識番号と氏名をお願いします。」
ミワは諦めて、番号と氏名を言うと、
「認識番号005、ミワ・オーランド。」
ロボットは繰り返した。
「認識番号005、ミワ・オーランド。登録しました。ブロック5の使用を許可します。」
ロボットは、そう言うと、ミワにブロック5のカードを渡した。
どうやら、これが宿泊施設の解除カードのようだ。
ミワに続いて、背がかなりデカそうな茶髪の男が進み出た。
「認識番号と氏名をお願いします。」
「認識番号001、ブラン・はじめ。」
「認識番号001、ブラン・はじめ。登録しました。ブロック1の使用を許可します。」
すかさず、かなり小さい金髪細身の男が前に立つ。
「認識番号と氏名をお願いします。」
「認識番号002、ゴル・じろう。」
「認識番号002、ゴル・じろう。登録しました。ブロック2の使用を許可します。」
赤毛の長髪のがっしりした男が次に続いた。
「認識番号と氏名をお願いします。」
「認識番号003、赤井サンジ。」
「認識番号003、赤井サンジ。登録しました。ブロック3の使用を許可します。」
最後に、丸坊主の強面が大きな声を張り上げた。
「認識番号と氏名をお願いします。」
「認識番号004、丸井ヨウ。」
「認識番号004、丸井ヨウ。登録しました。ブロック4の使用を許可します。」
ほかの四人も同じように、ロボットに名乗ると、それぞれ宿泊施設の解除カードを手に入れた。
五人にカードを渡すと、ロボットは朝の食事時間と、明日の予定を告げる。
「朝食は七時で、11時までに軍に報告書を提出。昼食は12時からで、その後、各自施設の整備を終了後、自由行動となります。夕食は森がありますので、各自で自炊してください。」
ロボットの言葉に、全員が仰天した。
「「「「「自炊。」」」」」
「はい、ここは軍の訓練施設ですので、夕食は自炊となります。」
「自炊って、森に何があるっていうだ。」
最後に名乗った、丸坊主の強面男であるヨウが、大きな声を張り上げて、ロボットに向かって、文句を喚く。
「私の内臓メモリーには、木の実と動物とありますので、好きなだけ捕って、食べていただいてけっこうです。」
「おい、木の実と動物って、それはなんだ?」
「木の実はおもに、どんぐりに始まりまし・・・・・・・・・・・・・・・・。」
延々とロボットが種類を言い始めた。
ミワは遮って、違う質問をした。
「もう、それはわかったわ。今度は食べられるものを教えて頂戴。」
ロボットは数分溜まり込むと、カウンターのテーブルにあいている横長の穴から、紙を吐き出した。
ミワは、その紙を手に取った。
紙には食べられる種類の果物と、動物の種類が分布図と共に記されていた。
ただし、記述が十年以上前のものだ。
「なんでこの書類の記述が、十年以上前のものになっているの?」
「ここの森で狩猟と採取が行われたのが、その日付になるからです。」
「つまり、これ以上新しい情報はないのね。」
「ありません。」
ミワの質問に、ロボットは無情に答えた。
『はっきり言って最悪だ。もしかして森の状態によっては、何もない可能性がある。』
「くそっ、最悪だ。」
丸坊主の強面男であるヨウも紙面をみながら、ロボットを罵った。
ミワも気持ちは同じだが、ロボットに罵っても意味はない。
「説明はそれで終わり?」
「はい、説明は以上です。」
一応ミワは他に何かあるかもしれないと、確認したが、他には何もなかった。
ミワは諦めて、自分に割り当てられた施設に向かった。