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1親善試合

 ミワが、前世を思い出したのは、たまたまこじらせた風邪のせいで、生死の境をさまよったのが、原因だ。


 高熱で、意識が飛び、死の淵を行ったり、来たりするうちに、前世での生活を思い出した。

 ミワは、かつて日本という異世界で生まれ、両親のメカ好きが講じ、彼らが経営する小さな町工場で働いていた。

 町工場のくせに技術はぴか一で世界市場の、じつに7割を占める超優良企業だった。

 そんな時、海で資源が見つかり、利権の争いから、近隣国と戦争になった。

 トップが躊躇しているうちに、戦争をしかけられ、何もせずに、祖国は負けた。

 その後は、弾圧の嵐となり、技術提供を拒んだ、両親と自分は、即処刑された。


 そして皮肉なことに、今回も同じような状況の国に、どうやら転生したようだ。

 ミワが生まれ落ちた国は、強国に挟まれた小国家だが、自然の要塞と、それを巧みに操る兵士たちに守られた、ある意味強国だった。

 おいそれとは、支配出来ない強さがある。

 加えて、小国だが、技術では、周りのどの国にも負けない大国だ。


 おかげで、前世では考えつかないような技術を、高校生なのに、教育の名のもとに見て、触って、作ることが出来る。


 ミワにとって至福の極みだ。

「おい、ミワ。よそ見していると、怪我するぞ。」

 隣で、技術部の部長で、顔普通、頭脳まあまあ、ただし機械修理の腕だけ、超一流の高宮俊介たかみやしゅんすけが注意した。

「ごめん、ちょっと考え事してた。」

 ミワは俊介に素直に謝った。

「なんか悩みごとか?」

「うーん、時間ないのはわかるんだけど、この先端の部分を、もうちょっと、削れればなぁー。」

 俊介は、ミワの言葉に戦慄した。

「ちょっと、待て。わかってるのか、試合は三時間後だ。さ・ん・じ・か・ん。

 今頃、そんな致命的に時間がかかることして見ろ、整備が終わらんだろう。

 気持ちはわかるが、もう触るな。いい加減にしろ。」

「しょうがない。今回は諦めるか。」

 ミワは、渋々引き下がった。

「でも、試合終わったら、グライダー貸してよ、俊介。」

 ミワのこの言い様に、さすがの俊介も怒った。

「ミワ、一言言っておく。お前はライダー乗りだ。エンジニアじゃない。だからダメだ。」

「そんなぁー、横暴だよ。いいじゃん、グラインダーぐらい貸してくれたって。」

「あのなー。いくらお前が、俺の憧れの天才ライダーウィリアムの義妹だからって、ダメだ。」

「ウィリアム義兄さんのサイン・・・。」

「それは、この間もらった。」

「じゃ、相棒のジャック・・・。」

「それは今回の改造の手伝いで、取得済みだ。」

「じゃ、チアリーダーの異父妹に紹介・・。」

「お前、異父妹と仲悪いだろ。」

「じゃ、どうすれば、貸してくれるの?」

 ミワは、使える賄賂がなくなり、手を上げた。

「そうだな。じゃ、お前たちのチームが、今回の親善試合に勝ったら、貸すよ。」

「ほんとう。ぜったいだからね。」

 ミワは大喜びで、整備室から出て行った。

「おい、俊介いいのか。」

 心配した俊介の相棒、青森伸あおもりしんが、ミワが出て行ってから、俊介に声をかけた。

「いくら、ミワでも勝てるものか。相手は大学生だぞ。」

「お前、ミワのあだ名を知らないのか。」

「あいつのあだ名。なんだそれ。」

「流星のミワ。あいつの速さは王国一だぞ。

 それに今回、俺達がミワの発案のもと、瞬発力が今までの二倍になるように、ライダーを整備し直したのを忘れたのか?」

「いくら早くても、今回の相手は、天才ライダーウィリアムとジャックなんだ。流石のミワも勝てないさ。」

「お前、親善試合のルール知っているのか?」

「なんだそれ、ただ時間が短いだけだろ。」

 伸は俊介の答えに、溜息をついた。

「時間じゃない。点数が違うんだ。」

「どう違うんだよ。」

 俊介がイライラした声で伸に怒鳴る。

「一点先取した方が勝つんだよ、親善試合は。」

「ハハハハ、伸はまさか、ミワが先取点をあげるとか、思ってるんじゃないだろ。まさかなぁ。」

「今までのミワの先取点取得率は、試合開始5分以内に80%だ。」

「げっ、うそだろ伸。俺のグラインダー。」

 俊介は、整備室で叫び声をあげた。


 一方ミワは、三時間後、やる気満々で、チームメイトと合流した。

 自分のライダーを触る。

 この世界のライダーの試合は、前世のポロの試合が一番近い。


 ルールは単純だ。

 ライダー試合は、チーム競技であり、1チームは通常4人で構成される。

 メンバーは前世の馬の代わりにライダーに乗り、銃で吐き出されたボールを打つと、それが銃に装填される。

 そして装填された銃を持って、相手チームのゴールにある標的を、打ち抜けば得点となる。

 もちろん、装填された銃を持つ選手のライダーを打ち抜けば、逆にその選手は退場になる。


 今回、ミワのライダーは、俊介たちの協力のもと、先端を従来のものより空気抵抗を少なくするために、前世で見た、ツバメやハヤブサの嘴の先端に似せて尖らせた。

 これで、空気抵抗が少なくなり、速度が増すはずだ。

 もっとも、この形状は、周りのチームメイトには不評だった。

 通常のライダーの形といえば、前世でよくあるバイクのタイヤが、空を飛ぶための推進力に代わり、それを覆うように透明なフードがついた代物が、標準タイプだからだ。

 軍用はこれに兵器類がついている。

 今のミワのライダーは、前世で言う〇〇ヒーローものの主人公が乗る、乗り物に告示している。

 さすがに、異世界とはいえ、中二病じゃあるまいし、この手の乗り物に、高校生が乗るのは、恥ずいものがある。

 ミワとて、そう思わなくはなかったが、技術者魂が、”速度への挑戦”という文字に目がくらんだ。

 それに、理論的にいえば、これで速度は、通常の倍はいける。


 大学生とは言え、相手は良く知る義兄ウィリアムとジャックだ。

 油断さえしなければ、招待試合だ。

 先取点をとってしまえば、こちらの勝ちだ。

 でもチームメイトの大半は、憧れのライダーウィリアムとジャックに会える事実に、舞い上がっている。

 特に、義兄ウィリアムのチームは強いので、勝てるわけがないと、最初から諦めているようだ。

 しかしそれは、逆にミワが義兄のチームに、つけこむスキにつながる、かもしれない。

 ミワはそう考えて、チームメイトに、何も言わなかった。


 開催式が始まってすぐに、義兄ウィリアムが壇上に上がり、あいさつをする。

 同級生の男女から義兄に向け、黄色い声援があがる。

 義兄はそれを、軽く微笑んで、静めると、グローブをつけて、ライダーにまたがった。

 チラッとミワを見る。

 そして一瞬、ミワの他とは違う形状に、目を瞠るが、直ぐに試合に集中し始める。

 ミワもミワのチームメイトも試合開始の合図を前に、自分のライダーにまたがる。

 ミワのチームメイトは、奇異な形状の、ミワのライダーから距離をとって待機している。

 どうやら同類と思われるのを、きらったようだ。、

「そんなに変かなぁ。」

 ミワの独り言を聞きつけた、同級生のビル・ターナーが、ミワのライダーを見て、素直に答えた。

「かなり変。それに恥ずい。」

「うーん、でもこのフォルムが一番早いんだよ。」

「はっ、そうか?」

 ビルの馬鹿にした物言いが、ミワの神経を逆なでした。

「じゃ、義兄から一点先取したら、ビルのも、この形状に改造してもいい。」

 ミワはニヤリと腹黒い笑いをした。

 ビルはゾクリとしながらも、頷く。

「一点取れればな。」

 ちょうど二人の会話が途切れた所で、スタートの合図が鳴った。


 ミワはエンジンをいきなり全開にすると、ボールが吐き出された地点に向け、ライダーを加速した。

 加速時点が同じなのに、加速度はダントツに、ミワのライダーが早い。

 ミワはそれをいいことに、すぐさまボールを捉えると、銃を撃った。

 銃に弾丸が装填される。


 ミワは、そのまま反転すると、ジャックが待ち受ける、ゴール前の標的に向け、スロットを全開にした。

 すごい勢いで、ライダーが加速する。

 ジャックは当然、ミワのライダーを狙って、銃の照準を合わせる。

 これに打ち抜かれると、参加資格がなくなり、退場となる。

 ジャックは慎重に、照準を定めた。

 だが、いきなりジャックの照準からミワが消えた。

 どうやら勢いのあまり、標的を通り過ぎたようだ。


 このままでは、標的を通り過ぎると、すべての観客が思う中、突然ミワはエンジンを切った。

 ライダーはそのまま惰性で飛び続けるが、すぐにGがかかり、下に向け、急速落下を始める。

 ミワはその瞬間に、銃を肩付けして、標的を狙い打つ。

 観衆がミワのライダーが、地面に叩き付けられるのを、かたずをのんで見守る中、ミワは銃を打った後、すぐさま、エンジンを全開に戻すと、地面を撫でるようにして、上昇した。

 その瞬間、標的が打ち抜かれ、終了のホイッスルが鳴る。


 ホファーン!!!ホファーン!!!ホファーン!!!ホファーン!!!


 観衆も義兄ウィリアム、ジャック、ミワのチームメイトも唖然として、固まっている。


 一番最初に、ビルが正気に戻った。

「勝ったぁーーー。」

 ブルの叫びに、チームメイトが正気に返った。

「「勝ったぞぁーーー。」」

 観衆も我に返り、開始5分の快挙に、惜しみない拍手で応えてくれた。

「これで仲間だね。」

 ミワから発せられた声に、ビルは自分の発言を思い出した。

 勝てたらライダーの形状変更許可を、出したのを忘れていたのだ。

「ハハハハ。」

 ビルは泣きながら、やけくそ気味に笑った。

 残り二人のチームメイトは、何も知らずに、ミワの仲間発言に加わった。

「「なんだよ、二人で。俺達も仲間だろ。」」

 ビルはこの発言にギョッとなったが、自分一人が恥ずい思いをしなくて済むと、何も言わなかった。

「本当!!!」

 ミワだけが異様に興奮していた。

 4台ものライダーを改造出来る。

 その後、ミワのチームが乗るライダーは、一部のフォルムマニアの間で、有名になった。

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