暗い世界
暗く、暗く、どこまでも暗い世界。
私はどうしたというのだろうか。そう、確か師匠に修行に行けと言われて深きものどもと戦って――それからどうしたのか。
頭に霞みがかったようにそこからの記憶が曖昧である。
まるで、思い出したくないかのように。
「ここは……どこ?」
暗いけど視える。
どこまでも暗く果てがない。
これが世界の終焉と言われれば納得もできようが、しかし、まだ世界は終焉してはいない。
「そう簡単に人類が滅んでたまるか」
足場もないが、立っている感覚はある。
「歩こう」
私は歩き出した。どこへともなく。ここがどこかわからないのだ。だから、目的地などない。
私はとにかく歩いた。この暗い景色以外を見たくて。
どれほど歩いたかわからないが、世界は変わらなかった。どこまで歩いても暗く、暗く、果てのない世界。
疲れこそないが、代わりに私の身体を蝕んでいたのは焦りだった。
もしかすると、果てなく広がる暗い世界は本当に世界が滅んでしまった後ではないか、そんな馬鹿馬鹿しくも恐ろしい考えが頭を支配する。
「誰かっ! 誰かいないの! ねえ、誰か返事してよ! ねえってば!」
私は叫んだ。狂ったように。
しかし、叫びに応える者はおらず、虚しくも私の叫びは響くだけだった。
「なんなのよ……」
もしもが現実に変わっていく、そんな考えを頭から追い出そうとして頭を小突くが――
「――あれっ?」
感触が違う?
いつもの手の感触じゃない?
恐る恐る手を見て――気がつく、思い出す。
異形へと変化した腕を。
「ヒィッ……!」
口から悲鳴が漏れる。
そうだ。
私の腕は突如として変化したのだった。
この腕で私は深きものどもと戦って……
「そこからどうしんだっけ……? あの後、気を失って……」
思い出せない。
そのとき、暗い世界に私の独り言以外に聞こえてくるものがあった。
「……声? これは笑い声?」
そうだ、気を失う前にも聞こえてきた声があったはずだ。
それは――
「師匠の笑い声?」
間違いない。闇に響く笑い声は師匠のものだ。
その笑い声は四方八方から聞こえてくる。
「師匠! どこにいるのですか! いるなら姿を見せてください!」
けれど、私の声は師匠の笑い声にかき消される。
さすがにイライラしてきた。
私が不安に押しつぶされそうってときに笑っているとは!
イライラが募り、恐怖はいつしかなくなっていた。
「私を笑うな、師匠ぉぉおおおおお!」
怒りが爆発した。
今度は私の怒鳴り声が師匠の笑い声をかき消す。
途端に暗い世界に一筋の閃光が奔り、暗い世界を切り裂いて――